岩田行雄の憲法便り・日刊憲法新聞

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2013年 07月 13日

憲法便り#114 吉田茂首相特集(第六回) 『回想十年』に記した、「押し付け憲法」論への反論

今日は、2013年5月6日に紹介した吉田茂元首相の文章の再録です。ブログの中で埋もれてしまわないように、吉田茂首相特集に含めました。
吉田茂元首相が『回想十年』に書いた、「押し付け憲法」論への反論を、『心躍る平和憲法誕生の時代』の「プロローグ①」に収録してありますので、その部分を紹介します。

三つのプロローグより
プロローグ①・・・吉田元首相が『回想十年』に記した「押し付け憲法」論への反論

冒頭で、まず吉田茂元首相の『回想十年』第二巻第八章(四十九~五十一頁)に記された、「押し付け憲法」論への反論を紹介する。この文章を読むと、まるで彼が現在の政治状況を見ているような説得力を持っている。
声高に憲法改正を叫んでいる安倍首相にも、孫である麻生太郎副総理にも、素直な気持ちで読んで、是非とも勉強して欲しい文章である。

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七、私の見る憲法批判論議

押しつけ憲法ということ このようにして公布された憲法が、翌二十二年五月三日から発効したことは誰も知る通りである。然るに、この憲法については、それが占領軍の強権によって日本国民に押し付けられたものだとする批評が近頃強く世の中に行われている。それは改正論議が喧しくなるに連れて特に甚だしいようである。しかし私はその制定当時の責任者としての経験から、押しつけられたという点に、必ずしも全幅的に同意し難いものを覚えるのである。
成るほど、最初の原案作成の際に当っては、終戦直後の特殊な事情もあって、可成り積極的に、せき立ててきたこと、また内容に関する注文のあったことなどは、前述のとおりであるが、さればといって、その後の交渉経過中、徹頭徹尾「強圧的」もしくは「強制的」というのではなかった。わが方の専門家、担当官の意見に十分耳を傾け、わが方の言分、主張に聴従した場合も少なくなかった。また彼我の議論がなかなか決しない際などには、先方としてよくいったことは、「とにかく、一応実施して成績を見ることにしてはどうか、案外うまくゆくということもある、やってみて、どうしても不都合だというならば、適当の時期に再検討し、必要ならば改めればよいではないか」ということであった(註)。そういう次第で、時の経過とともに、彼我の応酬は次第に円熟して、協議的、相談的となってきたことは、偽りなき事実である。

一応国民の良識と総意を反映 また、いわゆる草案が出来上がってからは、国内手続きとしても、枢密院、衆議院及び貴族院という三段階の公的機関において審議を経たのである。これらの機関の顧問官または議員のうちには、第一流の憲法学者をはじめ、法律、政治、官界のいわゆる学識経験者を網羅しており、しかもこれらの人々は占領下とはいいながら、その言論には何等の拘束を受くることなく、縦横無尽に論議を尽したのである。すなわち憲法問題に関する限り、一応当時のわが国の国民の良識と総意が、あの憲法議会に表現されたのである。
 新憲法は終戦直後、軍事占領下に制定されたという点を特に強調する論があるが、外国の憲法制定をみても、戦時とか非常時とかに生まれたものが多く、普通、平常の場合というのは案外少ないようである。故に制定当時の事情にこだわって、余り多く神経を尖らせることは妥当ではないように思う。要は、新憲法そのものが、国家国民の利害に副うか否かである。
 国民としては、新憲法が一たび制定された上は、その特色、長所を十分に理解し、その真意を汲み取り、運用を誤らざるように致すことが大切なのである。憲法は一国の基本法である。「千古不磨の大典」とまでいわざるも、一たび公布された以上は、これを尊重してその運用よろしきを得るよう務むべきである。「不都合な点があれば改めればよい」といった前述の総司令部側の発言も、日本側を納得させるための説得の言であったと私は解する。強圧ではなかった証左の一つであるともいえる。」
 この後、吉田茂は五十三頁で次のように述べている。

改正の功を急ぐこと勿れ 憲法改正の如き重大事は、仮にそのこと有りとするも、一内閣や一政党の問題ではない。もちろん私といえども、永遠に改正を不可とするものではない。また現行憲法の運用に対して、国民が絶えず批判的精神を持っている必要もまた十分にこれを認める。国民の総意がどうしても憲法を改正せねばならぬというところまできて、それが何らかの形で表面に現れた時に、初めて改正に乗り出すべきである。換言すれば、相当の年月をかけて、十分国民の総意を聴取し、広く検討審議を重ね、しかも飽くまで民主的手続を踏んで、改正に至るべきである。一内閣や一政党が改正の功をあせるがごときは強く排撃せねばならぬ。」(以下、略)

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掲載した『回想十年』第二巻の外函の写真と本文の複写は、故吉田茂首相の著作権者であるお孫さん(麻生太郎氏ではない)、及び初版を出版した新潮社の著作権管理室の許諾を得て使用しております。

※本書『心踊る平和憲法誕生の時代』の注文については、こちらから
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by kenpou-dayori | 2013-07-13 07:00 | 吉田茂


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