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岩田行雄の憲法便り・日刊憲法新聞

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2013年 08月 21日

憲法便り#222 ナチスの手口(16)「国民投票法」の施行により、ワイマール憲法の国民投票条項を改悪

2013年8月21日(水)

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「ナチスの憲法」と呼ばれるものには、「日本国憲法」のように体系化されたものはありません。「ワイマール憲法」の機能を停止した大統領令およびそれに続く一連の法律のことを指します。
したがって、「ナチス憲法」と呼ばずに、「ナチスの憲法」と呼ばれます。

I については、すでに詳しく紹介しましたが、これが「ナチスの憲法」の始まりです。

Ⅱは、「授権法」あるいは「全権委任法」と呼ばれるもので、現在、テレビのコメンテーターなどが、麻生副総理の「ナチス発言」後に、話題にしている法律ですが、これは「ナチスの憲法」の始まりでも、全体を示すものでもありません。
全体像は、下記のI-XIの法律群を指します。

文中の、ライヒは「国」、ラントは「州」を意味します。
ヴァイマルは、一般的には「ワイマール」と表記されています。

今回は、六番目の法律についてです。
ヴァイマル憲法が定める憲法改正の方法および国民投票の規定は、日本国憲法が定める憲法改正の手続きは異なりますが、政権に都合よく変更する手法では、ナチスと自民党は、とてもよく似ています。

Ⅵ 国民投票法(1933年7月14日)(注27)

 ライヒ政府は、次の法律を議決し、ここにこれを公布する。

§1〔総 則〕
(1)ライヒ政府は、国民がライヒ政府の意図した措置に賛成するか否かについて、国民に問うことができる。
(2)第1項による措置には、法律にかかわる場合も含まれる。

§2〔国民投票〕
 国民投票においては、有効投票の過半数でこれを決する。投票が、憲法を変更する規定を含む法律にかかわる場合も同様である。

§3〔準用規定〕
 国民が措置に賛成した場合ときは、1933年3月24日の「民族および国家の危難を除去するための法律」(RGB1.IS.141)(注28)第3条は、これを準用する。

§4〔規則制定権〕
 ライヒ内務大臣は、本法を執行するために法規命令および一般的行政規則を発する権限を有する。

(注27)この法律はヴァイマル憲法第73条から第76条までの規定する国民投票を変更するものである。
(注28)いわゆる「授権法」あるいは「全権委任法」(下記の二番目の法律)のこと。

(岩田注)ヴァイマル憲法の第73条~第76条は次の通り。

第73条〔国民投票〕
 ライヒ議会が議決した法律は、1ヶ月以内にライヒ大統領の決定があれば、公布に先立ち、これを国民投票に付さなければならない。
 ライヒ議会〔構成員〕の少なくとも3分の1の動議に基づいて公布が延期された法律は、有権者の20分の1の申し出があるときは、国民投票に付すものとする。
 さらに、有権者の10分の1が法律案の提出を請願する場合にも、国民投票に付すものとする。この国民請願は、完成した法律案に基づいて行われなければならない。その法律案は、政府が自己の見解を明示して、これをライヒ議会に提出するものとする。請願にかかる法律案がライヒ議会において変更を加えずに可決されたときは、国民投票は行わない。
 予算案、租税法および俸給法については、ライヒ大統領の提案によってのみ、これを国民投票に付すことができる。
 国民投票および国民請願に際しての手続きは、ライヒ法律でこれを規律する。

第74条〔ライヒ参議院の異議権〕
 ライヒ議会の議決した法律に対して、ライヒ参議院は異議権を有する。
 異議は、ライヒ議会における最終議決の後2週間以内にライヒ政府に提出し、〔異議提出〕の理由を、遅くともその後さらに2週間以内に明らかにしなければならない。
 異議のあったときは、その法律はライヒ議会の再度の議決に付される。ライヒ議会とライヒ参議院との間で〔見解の〕一致が得られないときは、ライヒ大統領は3ヵ月以内に、その意見の分かれた問題について国民投票を命ずることができる。大統領がこの権利を行使しないときは、その法律は成立しなかったものとみなされる。ライヒ参議院の異議にもかかわらず、ライヒ議会が3分の2の多数で〔同一の法律を〕議決したときは、大統領はその法律を3ヶ月以内に、ライヒ議会によって議決されたままの形で公布するか、または国民投票に付さなければならない。
 
第75条〔国民投票による無効〕
 国民投票によってライヒ議会の議決が無効とされるためには、有権者の過半数が投票に参加していなければならない。

第76条〔憲法改正の方法〕
憲法は、法律制定の方法でこれを改正することができる。ただし、憲法の改正を求めるライヒ議会の議決は、法律の定める議員定数の3分の2〔の構成員〕が出席し、少なくとも出席者の3分の2がこれに賛成する場合のみに成立する。憲法の改正を求めるライヒ参議院の議決も、投票数の3分の2の多数を必要とする。国民請願に基づき、国民投票によって憲法改正が決定される場合には、有権者の過半数の同意を必要とする。
ライヒ議会がライヒ参議院の異議に反して憲法改正を議決した場合に、ライヒ参議院が2週間以内に国民投票を要求したときは、ライヒ大統領は、この法律を公布してはならない。

「ナチスの憲法」の全体像
I 民族および国家の保護のためのライヒ大統領令(1933年2月28日)
Ⅱ 民族および国家の危難を除去するための法律(1933年3月24日)
Ⅲ ラントとライヒとの均制化に関する暫定法律(1933年3月31日)
Ⅳ ラントとライヒとの均制化に関する第二法律(1933年4月7日)
Ⅴ 職業官吏制の再建に関する法律・・・・・・・(1933年4月7日)
Ⅵ 国民投票法・・・・・・・・・・・・・・・・(1933年7月14日)
Ⅶ 政党新設禁止法・・・・・・・・・・・・・・(1933年7月14日)
Ⅷ 党および国家の統一を確保するための法律・・(1933年12月1日)
Ⅸ ライヒの改造に関する法律・・・・・・・・・(1934年1月30日)
Ⅹ ライヒ参議院の廃止に関する法律・・・・・・(1934年2月14日)
ⅩⅠ ドイツ国元首に関する法律・・・・・・・・(1934年8月1日)

この内容と問題点を正確に伝えるために、次の文献を引用しました。
高田敏(たかだ・びん)・初宿正典(しやけ・まさのり)編訳
『ドイツ憲法集〔第3版〕』〈講義案シリーズ17〉(2001年、信山社)


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by kenpou-dayori | 2013-08-21 07:30 | ナチス


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