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岩田行雄の憲法便り・日刊憲法新聞

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2015年 05月 11日

憲法便り#984 「文部省は憲法をどのように教えたか?」『検証・憲法第九条の誕生』(第六版)より

2015年5月11日(月)(憲法千話)
同日、ツイッター向けに改題:文部省は憲法をどのように教えたか?

憲法便り#984 連載『検証・憲法第九条の誕生』(第六版):第一章 文部省は憲法をどのように教えたか?


『検証・憲法第九条の誕生』(増補・改訂 第六版)
第一章 文部省は憲法をどのように教えたか?
 ―文部省教科書『あたらしい憲法のはなし』より

日本国憲法は昭和二一年(一九四六)一一月三日に公布され、昭和二二年(一九四七)五月三日に施行された。そして、施行から三ヶ月後の昭和二二年(一九四七)八月二日に、文部省により『あたらしい憲法のはなし』という教科書が発行された。この教科書により、全国の中学一年生が新憲法について学んだ。ある有名私立中学では、三年間にわたり、週一時間、「憲法」の授業時間があったとの証言もある。
全体は一五章から成っており、やさしい口語体で子ども達に語りかけるように書かれている。憲法の学習書としても広く知られているが、ここではその「第六章 戰爭の放棄」を紹介する。

六 戰爭の放棄

みなさんの中には、こんどの戰爭に、おとうさんやにいさんを送りだされた人も多いでしょう。ごぶじにおかえりになったでしょうか。それともとうとうおかえりにならなかったでしょうか。また、くうしゅうで、家やうちの人を、なくされた人も多いでしょう。いまやっと戰爭はおわりました。二度とこんなおそろしい、かなしい思いをしたくないと思いませんか。こんな戰爭をして、日本の國はどんな利益があったでしょうか。何もありません。ただ、おそろしい、かなしいことが、たくさんおこっただけではありませんか。戰爭は人間をほろばすことです。世の中のよいものをこわすことです。だから、こんどの戰爭をしかけた國には、大きな責任があるといわなければなりません。このまえの世界戰爭のあとでも、もう戰爭は二度とやるまいと、多くの國々ではいろいろ考えましたが、またこんな大戰爭をおこしてしまったのは、まことに残念なことではありませんか。
そこでこんどの憲法では、日本の國が、けっして二度と戰爭をしないように、二つのことをきめました。その一つは、兵隊も軍艦も飛行機も、およそ戰爭をするためのものは、いっさいもたないということです。これからさき日本には、陸軍も海軍も空軍もないのです。しかしみなさんは、けっして心ぼそく思うことはありません。日本は正しいことを、ほかの國よりさきに行ったのです。世の中に、正しいことぐらい強いものはありません。
もう一つは、よその國との爭いごとがおこったとき、けっして戰爭によって、相手をまかして、じぶんのいいぶんをとおそうとしないということをきめたのです。おだやかにそうだんをして、きまりをつけようというのです。なぜならば、いくさをしかけることは、けっきょく、じぶんの國をほろぼすようなはめになるからです。また、戰爭とまでゆかずとも、國の力で、相手をおどすようなことは、いっさいしないことにきめたのです。これを戰爭の放棄というのです。そうしてよその國となかよくして、世界中の國が、よい友だちになってくれるようにすれば、日本の國は、さかえてゆけるのです。
みなさん、あのおそろしい戰爭が、二度とおこらないように、また戰爭を二度とおこさないようにしましょう。

この文章を読むたびに、私は目頭が熱くなってくる。
私自身が二歳の時に、母や姉と共に疎開していた福島県小名浜の農村地帯で米軍の爆撃を受け、家は全焼、持ち物もすべて失った経験を持つ。高射砲の一門もなく、ライフル銃を持つ者とて一人もいない農村の上空に、海の方から低空飛行をしてきた米軍の爆撃機は、わらぶき屋根の農家に、雨のように焼夷弾を降らせて行った。これは、誤爆などではない。
神田岩本町に住んでいた妻の家族は東京で空襲に遭い、母親は一歳の次女(妻)を背負い、水をかけた布団を被り、五歳の長女と三歳の長男の手を引いて、火の海の中を逃げ惑い、文字通り「九死に一生」を得ている。
私たちは幸いに生きているが、多数の人達が亡くなっている。
私の小学校時代の同級生N君は父が戦死して、長い間、親類の家に同居していた。早稲田大学時代の同級生I君は、彼が生まれる前に父が戦死したため、父に抱かれたことがない。私が三十年間勤務した職場の同僚Kさんの父も戦死した。この人たちの母親は、必死の思いで生活を守り、子ども達を育てた。私がおはぎを買いに行く店のご主人は、東京大空襲の際に、二歳年上の兄と逃げたが、兄は生死不明のまま現在に至っている。私の周辺には、この他にも辛い戦争体験を持つ人たちが数多くいる。
憲法第九条を守り、日本政府は二度とこのような苦しみを人々にもたらしてはならないのである。

by kenpou-dayori | 2015-05-11 08:07 | 自著連載


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