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岩田行雄の憲法便り・日刊憲法新聞

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2015年 05月 14日

憲法便り#997 「民主的憲法の配列として、戦争放棄を冒頭に」:『検証・・』(第六版)第五章(2)

2015年 05月 14日(木)(憲法千話)

憲法便り#997 黒田壽男議員「民主的憲法の配列として、戦争放棄を冒頭に」:『検証・・』(第六版)第五章(2)
前回は、憲法便り#996 第九十回帝国議会 衆議院憲法改正案委員の構成」:『検証・・』(第六版)第五章(1)

『検証・憲法第九条の誕生』(増補・改訂 第六版)より
第五章 第九十回帝国議会 衆議院憲法改正案委員会の論議(2)


【第三回委員会】七月二日(火曜日)
午前十時二十四分開議、午後四時四十七分散会
参加委員六十三・国務大臣六・政府委員十一名

黒田壽男委員(日本社会党)の質問
「民主的憲法の配列として、戦争放棄を冒頭に」
(見出しは岩田による)

黒田委員 それから、この草案に現われておりまする第二章の「戦争放棄」、こういう部分を、更に積極的に日本が平和を愛好し、国際信義を重んずることを国是とする国民であるというような意味のことをも付け加えまして、戦争放棄の宣言と共に規定する、そういうものを先ず冒頭に置くというような構成に致しました方が、民主的な憲法の条章の配列としまして、より適当であるといういうように、私は考えるのであります。これについて政府の所信をお尋ねしたいと思います。

金森国務大臣 いまお尋ねになりました点に付きましては、もしも国法が学者の論文と同じようなものであるというように考えまするならば、かくの如き考え方にも十分の理由があり得ると思うのであります。しかしながら、憲法は自ら国家の法として、いろいろな規定の仕方の上に、特色を持たせて宜しいものと思っております。我々日本国民が、この国の基本法を考えまする時に、先ず国の象徴を第一線に置いて考えるということには、十分な意義があると考えるのであります。これを持って、第一条に置いた次第であります。なお、国家の構成とか、或いは戦争放棄の規定を第一条に置くかどうかということ、すでに述べました通りでありまするが、この理論構成を主として満足せしむるように内容及び条文を配列致しますることは、この憲法の起案におきまして、既述の通り、必ずしも採らなかったものであります。

黒田委員 私は、ただいま申しました条文の配置に付きましては、必ずしも理論的立場、学理的立場からというだけではなくて、現実の政治上からしても、この憲法草案が、現行憲法と異なる最も中心的な特徴をなす部分を捉えて、これを国民の心に叩き込む、そうして、またそれが「ポツダム」宣言の趣旨に最もよくそうて居る、そういう実際政治の見地から質問をしたのであります。そういう実際政治上の見地からも、私のただいま質問致しましたような配列の仕方にした方が、将来の日本の民主主義国としての憲法の配列としては、より適当であるという考えを持って居るのであります。しかし、この問題も、これ以上には、ここでは議論することを避けたいと思います。

【他の論議を挟んだ後の質問】
黒田委員 第二章の戦争の放棄という章についてでありますが、私は、単に第九条に盛られて居ります言葉だけでは、積極性がないように思いますので、更に我が国と致しまして、積極的に平和を愛し、国際信義を重んずることを国是とするというようなことを、この第九条の前に加えることに致しまして、この戦争放棄の条章に関する積極的内容を、国際的に明確にした方が宜しいと思います。
本条の表現だけでは、何だか、負けたる者が武力を放棄するという、ただそれだけの消極的な感じしか受けないのであります。
私がいま申しましたような積極性ある条文を加える、即ち、平和を愛好し、国際信義を重んずるというような積極的な条項を更に付け加えて、本章の趣旨を徹底せしめたいというように考えるのでありますが、これに対してご所見を伺いたいと思います。

金森国務大臣 ただいまの点は、この憲法の前文の中におきましては、稍々強くその色彩が表わされてあるのでありまして、「常に平和を念願し、」というような と、「我らの安全と生存をあげて、平和を愛する世界の諸国民の公正と信義に委ねようと注意した」、そのほか種々なる言葉が一にその方向に向けられて居る訳であります。しかし、第二章の所はいわば謙抑なる形を以って、言葉は非常に質朴な形を以って、これに伴う日本の方針が闡明(せんめい)せられておるのでありまするが、その中味には烈々たる意義がこれに盛り込まれて居ると思います。
日本の憲法はと申しますか、私共の起案に関係致しましたこの憲法は、激しい言葉を用いずして、しかも含蓄に依って、十分激しい心持ちを表明することを意図しておりまして、第九条は、その趣旨においてお読みを願いたいと思います。

黒田委員 なお、この章に関連致しまして多少意見を述べ、政府のご所信を承りたいのであります。
第九条におきまして、戦争の放棄ということが規定してありますが、私はさらに、国内における政策と致しましても、戦争の発生を防止するという政策が執られなければならないと考えます。戦争が起る、何故にこの度の戦争が起ったかということを、科学的に研究して見る必要がある。
漠然と戦争一般というものを考えるのではなく、最近における戦争の性質は、どういうものであるかということを、突き止めて見る必要があると思うのでありますが、太平洋戦争は、私の考えでは支那事変の延長でありますし、更にその支那事変は、満州事変の延長であるというように考えて居ります。
その当時から、日本の資本主義が、我が国の封建的な遺制と抱合いまして、国内の勤労階級に対しましては経済的な搾取が行われ、そのために我が国内におきまして、必然的に国内市場の狭隘と、資本主義的な生産の発展との矛盾が起る。この矛盾を、大陸侵略という形に依って解決しようとしましたのが、今次の戦争の原因である。私は、そういういふうに考えて居ります。
したがって、かような原因となるものを、将来において除去する方策が執られなければ、憲法上、戦争放棄の規定を設けましても、内部からまた戦争に対する衝動が起ってくる、こういう風に私は考えます。そこで、対内的にこういう戦争を惹起こすことに必然的な関係を持つ、独占資本に対する政策を持たねばならない。現在、独占資本は解体を命ぜられ、その過程にありますけれども、しかし、実際には、なかなか進行していないようであります。私的な独占資本を禁止するという方針を、はっきりと憲法の上で明示しておく必要があると、私は考える。
国の内部から戦争に対する衝動を除去する方法を執らなければ、憲法上に戦争放棄の条文を設けただけでは、真の戦争放棄、平和愛好の意志を徹底させることにならないのではないか、こういうように私は考えます。
政府は、私的な独占資本を禁止するというようなことを、はっきりと憲法の上において、明示せられるご意向ありや否や、この点に付きお尋ね致したいと思います。

金森国務大臣 この憲法の起案の基本の構想として、かって機会を以って申しあげたことがありますが、重要なる規定であって、しかも国民の広き間に確実な基礎を持って居る原理であり、しかもそれが明らかに記載し得るに適するものでありましたならば、この憲法に記入することは適当と思いますが、おそらくいまお尋ねになりました論点を、必要なる限度に的確に書き表して、誤解のおそれなからしむることは、相当困難なる問題であろうと考えて居ります。
原案におきましては、今日といえども、その規定を設けようとする考えは、持って居りませぬ。」

by kenpou-dayori | 2015-05-14 10:21 | 自著連載


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