2015年 05月 18日

憲法便り#1002 「歴史の教えるように、戦争は戦争を製造」:『検証・・』(第六版)第五章(4)

2015年 05月 18日(月)(憲法千話)

憲法便り#1002 「歴史の教えるように、戦争は戦争を製造している」:『検証・・』(第六版)第五章(4)

前回までは、
憲法便り#998 「戦争放棄は、前文又は総則を構えて謳うべき」:『検証・・』(第六版)第五章(3)
憲法便り#997 黒田壽男議員「民主的憲法の配列として、戦争放棄を冒頭に」:『検証・・』(第六版)第五章(2)
憲法便り#996 第九十回帝国議会 衆議院憲法改正案委員の構成」:『検証・・』(第六版)第五章(1)

『検証・憲法第九条の誕生』(増補・改訂 第六版)より
第五章 第九十回帝国議会 衆議院憲法改正案委員会の論議(4)


【第五回委員会】七月四日(木曜日)
午前十時十七分開議、午後零時二分散会
参加委員五十二・国務大臣十一・政府委員十名


林 平馬委員(協同民主党)の質問
「歴史の教えるように、戦争は戦争を製造して居る」


林 委員 私は戦争放棄に付きまして、総理大臣にお尋ね申上げたいと思います。おもうに、平和は神の心であり、またすべての人類の最高の念願であると信じます。然るに、この平和とは全然正反対であるところの戦争をば、有史以来数千年、人類史上から払拭することが出来ないで、今日に至った次第であります。人は、お互い萬物の霊長などと手前味噌を並べて居るくせに、最も好む平和へは一歩も近付くことが出来ずに、むしろ次第に遠ざかりつつ、文化とは正反対に、戦争の発達に一路邁進して来たことは、歴史の示すことろであります。およそ、個人的にも、国際的にも、紛争を腕力や武力を以って解決しようとすることは、最も低級下劣な行為でありますから、人類は最早この辺で、大懺悔すべきものと思います。もし、それを悟ることなく、武力を飽くまでも最後の解決手段として培養し、確保しておく時は、そのために相手方を脅威せしめるばかりでなく、自分自らもまた常にその不安を抱かざるを得ないのであります。歴史の教えるように、戦争は戦争を製造して居るのであります。
もしも戦争を放棄することが出来ないならば、人類は永久に戦争の中に、或いは戦争のために生存を続けなければならないことに気付かなければならぬと思います。而して、戦争放棄の唯一絶対の方法は何かと申しますれば、武力を持たないことであると思います。けれども、このことたるや極めて至難のことでありまして、いづれの国家におきましても、よその国から何らかの圧迫、要求を受けないで、全く自発的に武装を解除することは、おそらく不可能と信じます。然るに我が国は、敗戦の結果、世界に率先してこの不可能を可能たらしめたことは、人類最高の念願から見るならば、敗戦の成功とも見るべきものと信ずるのであります。而して、アメリカを初め連合国が、我が国をして世界平和に貢献の出来る態勢を整えるようにと、常に多大の苦心と努力とを尽くされておることは、我々の深く感銘するところであります。
ただここに我々の不安とする所は、今日こそは我々は何れの国よりも侵される気遣いはありませぬが、しかし、近き将来において、平和条約が成立し、連合国の手から離れたその刹那(せつな)において、武力なくしては如何なる小さな国家よりも、どのような弱小国家よりも受けるであろう国際的脅威をば、如何にして排除することが出来るかという点であります。それには、平和世界建設を理想とする建前の連合国を初め、世界の諸民族の信義に信頼する以外には到底ないのであります。
実に日本国民の戦争放棄の宣言は、国民全体の生存を賭しての態度でありますことを、政府は内外に向かって十分に主張し、宣伝して貰わなければならないと信じます。先日、本会議において吉田総理大臣は、従来自衛権の名において戦争が惹き起されたのであるから、真の世界平和建設の大理想達成のためには、その自衛権をもまた放棄すべきものであるとのご意志のようなご答弁があったのでありまするが、恐らくは、このご答弁は世界の思慮ある人々をして感銘を博したことと信じます。
幸いにも、本年四月五日、連合国日本管理理事会の初の会議におきまして、マッカーサー元帥がなさいましたあの演説こそは、この戦争放棄の条文と相呼応して、真に深き感銘と感謝とを感ずると共に、元帥は極めて力強く、この崇高なる戦争放棄の理想は、一方的では一時的な便法に過ぎないのである、でありまするからこの理想達成のためには、日本の戦争放棄に関する提言を、全世界の人達の思慮深き考察に推挙する云々として、実に力強く世界各民族の良心と叡智に呼びかけられて居ることは、実に偉大なる保証と信ずるものであります。
而して、日本国民がこの戦争放棄の宣言をすることは、いわゆる引かれ者の小唄では断じてありませぬ。また、あってはなりませぬ。この最大崇高なる使命の中に生きて行きたいのであります。これが我々民族の切なる念願であると信じます。これ実に、日本民族三千年来の大理想であります。最近は、その理想が非常に歪められて、世界の誤解を受けて今日を招いたのでありますが、実は世界の平和は我々民族の三千年来の念願であるのであります。でありますから、吉田総理大臣は余生を捧げられ、一身を挺して陛下を先頭に迎えられて、八千万国民を率いて、突っ立ち上がって貰いたいのであります。それでこそ、日本が世界に存在の意義があると思う。そのことなくして、日本の存在の意義は、ないとさへ信じます。恐らく、かような機会は、日本にとっては、実に空前であって、絶後であると思う。歴史的に唯一回限り、天より与えられたる「チャンス」であると信じます。くどいようでありまするが、敗戦の結果、よんどころなく平和愛好者に我々が転向したものではありませぬ。世界随一の平和愛好民族であることを、世界に向かって宣言し、諒解して貰わなければなりませぬ。その平和愛好者であるという民族の心持ちを表わす証拠は、幾らでもあろうと思います。その一つを申上げて見るならば、この猫の額のような狭い国土に、八千万に近い国民が生活をして居るのであります。即ち、一平方キロの中に約二百人の人口を持っているところの、世界随一の稠密なる国であります。かかる国家は、世界のいずれにもないのであります。これ即ち、假令(たといもし)如何なる苦労をしようとも、よそへは行きたくない、この祖国に生存をして行きたい、祖国を離れずに生活をして行きたいという、国土愛着の結果にほかならないのであります。汽車で通って見ましても、至る所、山の上までも開拓して、営々辛苦を続けている日本の姿を見るならば如何でありますか。侵略移住の民族にあらずと断定することは、容易であると思うのであります。侵略移住の民族であるならば、こんな所に営々やっている筈はありませぬ。如何に非侵略的民族であるかということは、この日本の姿を見ただけで明瞭であると思います。私は、この日本の真の国民性を世界に諒解してもらいたいのであります。かかる平和愛好国民が、ことに世界平和への一本道しか与えられない国民が、ここに憲法を以って、戦争放棄を世界に宣言せんとするのでありますから、この憲法は実に日本の憲法に止まらず、世界の憲法たらしむるの信念を持たなければならぬと信ずるものであります。吉田総理大臣は、世界平和のために率先挺身、マッカーサー元帥のご演説と相呼応して、世界の世論を喚起せしむべく努力すべきものなりと思います。またそれが、即ち陛下のご聖志に対える所以でもあり、全国民の熱烈なる希望にそう所以でもあり、且つは、ポツダム宣言の理念に応える所以でもあると確信致します。果たして総理大臣はそのご決心、ご覚悟がおありであるかどうか、この一点を特にお尋ね申上げる次第であります。

吉田総理大臣 林君のご質問にご答弁致します。
この間の私の言葉が足りなかったのか知れませぬが、私の言わんと欲しました所は、自衛権に依る交戦権の放棄ということを強調するというよりも、自衛権に依る戦争、また侵略に依る交戦権、この二つに分ける区別そのことが有害無益なりと、私は言ったつもりで居ります。今日までの戦争は、多くは自衛権の名に依って戦争を始められたといういうことが、過去における事実であります。自衛権に依る交戦権、侵略を目的とする交戦権、この二つに分けることが、多くの場合において戦争を誘起するものであるが故に、かく分けることが有害であると申したつもりであります。また、自衛権による戦争がありとすれば、侵略に依る戦争、侵略に依る交戦権があるということを前提とするのであって、我々の考えて居るところは、国際平和団体を樹立することにあるので、国際平和団体が樹立せられた暁において、もし侵略を目的とする戦争を起す国ありとすれば、これは国際平和団体に対する傍観であり、謀反であり、反逆であり、国際平和団体に属するすべての国が、この反逆者に対して矛を向くべきであるということを考えて見れば、交戦権に二種ありとするこの区別自身が無益である。侵略戦争を絶無にすることに依って、自衛権に依る交戦権というものが自然消滅すべきでものである。故に、交戦権に二種ありとするこの区別自身が無益である、こう言ったつもりであるのであります。また、お尋ねの講和条約が出来、日本が独立を回復した場合に、日本の独立なるものを完全な状態に復せしめた場合において、武力なくして侵略国に向かって、如何にこれを日本自ら自己国家を防衛するか、このご質問はまことにごもっともでありますが、しかしながら、国際平和団体が樹立せられて、そうして樹立後においては、いわゆるU・N・O(国連)の目的が達せられた場合には、U・N・O加盟国は国際連合憲章の規定の第四十三条に依りますれば、兵力を提供する義務を持ち、U・N・O自身が兵力を持って世界の平和を害する侵略国に対しては、世界挙げてこの侵略国を圧伏する、抑圧するということになって居ります。理想だけ申せば、或いはこれは理想だけに止まり、或いは空文に属するかも知れませぬが、とにかく世界平和を維持する目的を以って樹立せられたU・N・Oとしては、その憲法ともいうべき条章において、かくの如く特別の兵力を持ち、世界の平和を妨害する者、或いは世界の平和を脅かす国に対しては、制裁を加えることになって居ります。この憲章に依り、また国際連合に日本が独立国として加入致しました場合においては、一応この憲章に依って保証せられるもの、こう私は解釈して居ります。

林 委員 総理大臣のご答弁は、私のお尋ね申し上げた事とは違うのでありまして、実は、ただいま縷々(るる)申しましたように、日本国民は真の平和愛好国民であるということ、つまり、引かれ者の小唄のように、にわかに愛好者に転向したものではなく、長い数千年の念願であるということを、マッカーサー元帥のご演説と相呼応して、世界に呼びかけてその諒解を求むべく、立ち上がって戴きたいということを申し上げたのでありますが、この上ご質問を繰り返すことは無駄のことでありますから、私は総理に対するご質問はこれで終ります。

吉田総理大臣 ただいま私の答弁中、その点に付いては言い洩らしました。全くご同感であります。政府と致しましては、その趣旨を十分含んで、将来とも善処するつもりで居ります。」

『憲法便り#1003』に続く。
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by kenpou-dayori | 2015-05-18 20:30 | 自著連載


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