2015年 05月 19日

憲法便り#1005「戦争放棄が、自衛としての戦争を含むのか」:『検証・・』(第六版)第五章(7)

2015年 05月 19日(火)(憲法千話)

憲法便り#1005 藤田榮委員(新光倶楽部)「戦争放棄が、自衛としての戦争を含むのか」:『検証・・』(第六版)第五章(7)

第五章の前回までは、
憲法便り#1004 竹谷源太郎委員(無所属倶楽部)「内乱、騒擾その他の非常事態への方策は如何に」:『検証・・』(第六版)第五章(6)
憲法便り#1003 赤澤正道委員(新政会)「国際連邦へまで提唱を発展させるべき」:『検証・・』(第六版)第五章(5)
憲法便り#1002 林 平馬委員(協同民主党)「歴史の教えるように、戦争は戦争を製造している」:『検証・・』(第六版)第五章(4)
憲法便り#998 穂積七郎委員(無所属倶楽部)「戦争放棄は、前文又は総則を構えて謳うべき」:『検証・・』(第六版)第五章(3)
憲法便り#997 黒田壽男議員(日本社会党)「民主的憲法の配列として、戦争放棄を冒頭に」:『検証・・』(第六版)第五章(2)
憲法便り#996 第九十回帝国議会 衆議院憲法改正案委員の構成」:『検証・・』(第六版)第五章(1)

『検証・憲法第九条の誕生』(増補・改訂 第六版)(p.56ー60)より
第五章 第九十回帝国議会 衆議院憲法改正案委員会の論議(7)


【第九回委員会】七月九日(火曜日)
午前十時二十一分開議、午後三時三十八分散会
出席委員五十七・国務大臣十・政府委員七名



藤田 榮委員(新光倶楽部)の質問
「戦争放棄が、制裁としての戦争、自衛としての戦争を含むのか」「自衛戦争の否認は解釈に苦しむ」

藤田委員 それでは行政組織の問題に付きましては、これは後回しに致します。
戦争放棄の問題に関しまして、実は総理からもご説明があったのでありますが、若干ご質問したい点がありますので、総理大臣がおいでにならなければ、関係の大臣からお話しを戴きたいと思います。
憲法草案第二章の戦争放棄が制裁としての戦争、自衛としての戦争を含むのかという点に関する質問であります。つまり、第二項の交戦権の否認ということは、これら制裁の戦争或いは自衛の戦争をなす場合にも、これを含むのかという解釈上の質問であります。ある国家が他の国家に対して、違法に戦争に訴えて、第三国がこの後者を援助して前者に対抗して戦争を行った場合には、この第三国にとってその戦争は制裁の戦争として認められるのであります。制裁の戦争は適法な戦争でありまして、それは特定の国家の利益を増進するための手段としての戦争でもなければ、また紛争解決のための戦争でもないのでありまして、したがって、それは不戦条約に依って禁止された戦争ではないのであり、このことは国際法上一般に諒解されて居るのであります。然らば、かような制裁としての戦争をも否認するというのは如何なる理由に基づくものであるか。これが一点。
また一般に自衛行為は適法な行為であって、自衛の戦争もそれが自衛行為である限りにおいては、当然に適法であります。不戦条約に依っても、国家の政策手段としての戦争、紛争解決の手段としての戦争が禁止されて居るのみでありまして、自衛のための戦争は特定の国家の利益を増進するための戦争でもなければ、また紛争解決の手段としての戦争でもないのであって、かような戦争が一般に国際法上適法であることは諒解されて居るところであります。
然るに政府は、この自衛の戦争を否認する理由として、七月四日のこの委員会の席上で、吉田首相は、自衛権に依る戦争を認めるということは、その前提として侵略に依る戦争がある、つまり違法の戦争と私は解釈するのでありますが、侵略に依る戦争が存在することになる、しかも、もし侵略に依る戦争が将来起ったならば、それは国際平和団体に対する冒犯であり、謀反であって、世界の平和愛好国が挙げてこれを圧伏するのであるから、その意味よりすれば交戦権に、侵略に依る戦争、自衛の戦争を挙げる必要はない、また自衛の戦争を認めるということは、従来とかく侵略戦争を惹起することになったのであるから、自衛に依る戦争というものも否定したのだというご説明があったのでありまするが、私は他国との紛争の解決の手段としての戦争を永久に放棄するというこの第九条第一項はまことに結構であると考えるのでありまするが、第二項の交戦権の否認が、なぜ制裁としての戦争或いは自衛の戦争をも含まなければならぬか解釈に苦しむのであります。
勿論、戦争は兵力に依る闘争でありまして、したがってそれは双方向の行為であり、一方向の行為は戦争を構成せず、一方の兵力が他方の領域に侵入しても、他方がこれに抵抗しないか、或いは戦争宣言をしない限りは戦争は生じないのでありまするが、一方、戦争宣言があれば、闘争がなくても戦争状態に入り得るのであります。何故ならば戦争は闘争そのものではなく、闘争を中心とした状態であることは、国際法上一般に認められているところでありまして、したがって日本が事実上、陸海空の戦力を保持しないということは、かような制裁の戦争なり或いは自衛の戦争、つまり交戦権を直ちに否認しなければならぬ理由とはならぬと考えるのであります。もし、交戦権の否認が制裁としての戦争を含む、つまり違法な当事国に対して、その違法な戦争当事国に対する戦争に参加できないということになるならば、日本は違法な戦争当事国に対する戦争裁判を請求する権利を留保しなければならぬ。同時に日本国は第三国間における如何なる戦争にも事実上参加しないし、また参加させられないという保障を確保しなければならぬと考えるのであります。また自衛のための戦争をも一切禁止する理由として、先ほど引用しましたように、国際平和団体に対する冒犯に対しては、世界の平和愛好国が挙げてこれを圧伏する、したがって自衛の戦争は要らないというのでありまするが、将来、平和愛好国として発足した日本に対する仮に違法な戦争が仕掛けられた場合には、世界の平和愛好国がこの違法な戦争挑発者に対してこれを圧伏するということは、日本に対して如何ような形で実現されるか、換言すれば、我が国の独立と安全は他の諸国家に依って保障されなければならぬのでありますが、交戦権否認に付いての憲法の規定は、如何にして国際法上の安全と直結するかという問題であります。草案に付いて見れば、草案の前文に「我らの安全と生存をあげて、平和を愛する世界の諸民族の公正と信義に委ねようと決意した」とあるのでありますが、かような日本国憲法における決意だけでは、なんら国際法上の権威たり得るものではないのでありまして、国際法団体に依る安全保障制度の全貌、その中に占める日本国の地位に付いて、政府は如何なる具体的な努力をして居られるか、或いは国際連合に参加すると言い、或いは国際安全保障の憲章に依って日本は安全保障を受けるのだと言いますが、如何なる具体的な努力をして居られるか、もし第二項の交戦権の否認が制裁としての戦争、自衛としての戦争も放棄するならば、如何にして我々の生存と安全とを保障するか、国際法上の単なる国内事項に過ぎないところの日本の憲法に依り、それを否認したからといって、国際法上当然我々安全が保障されたとは言えないのであります。如何なる努力をされて居るか、かような画期的な規定を挿入されるからには、相当具体的な根拠と自信があられなければならぬと考えるのでありまして、その点に付いてのお考えを承りたいのです。

金森国務大臣 憲法第九条の前段の第一項の意味するところは、もとより自衛的戦争を否定するという明文は持って居りませぬ。しかし、第二項におきましては、その原因が何であるとに拘わらず、陸海空軍を保持することなく、交戦権を主張することなしという風に定まって居る訳であります。これは豫ね(かねがね)色々な機会に意見が述べられました通り、日本が捨身になって、世界の平和的秩序を実現するの方向に土台石を作って行こうという大決心に基づくものである訳であります。お説の如く、この規定を設けました限り、将来、世界の大いなる舞台に対して日本が十分平和貢献の役割を、国際法の各規定を十分利用しつつ進むべきことは、我々の理想とするところである訳であります。しかし、現在日本の置かれて居りまする立場は、それを高らかに主張するだけの時期に入って居ないと思うのであります。したがって、心の中にはさような理想を烈しく抱いては居りますけれども、規定の上には第九条の如き定めを設けた次第でございます。

藤田委員 これは私の希望でありまして、由来、国際法上の条約にしましても、これは必要の前には常に蹂躪されて参ったのでありまして、いわんや、日本国の憲法において国際法上の国内事項に過ぎない日本国の憲法において、交戦権を否認して、捨身になって世界の平和愛好諸国の中に入ろうというのでありまするから、将来、しかも制裁としての戦争、自衛としての戦争も交戦権の否認の名において捨てて掛ろうというのでありますから、将来違法なる戦争当事国が生じた場合には、その違法な戦争当事国に対する戦争裁判を請求するの権利、また戦力の国際管理に対する日本国の参加、また日本国が将来第三国間における戦争に対しては事実上参加しないし、また参加させられないという保障を、政府はこの際、是非憲法が実施されるまでには国民の前に公表して戴いて、真に国民をして納得せしむるだけの措置を講ぜられんことを希望するのであります。
次に解釈の問題に付きまして、更に草案第九条第二項の交戦権の否認は、交戦団体に対する場合も適用されるかという問題であります。交戦団体は国際法上の交戦者としての資格を認められた叛徒(はんと)の団体でありまして、一つの国家において政府を顛覆(てんぷく)したり、或いは本国から分離する目的を以って叛徒が一定の地方を占め、自ら一つの政府を組織する場合に、かような叛徒の団体に対して国際法上第三国がこれを交戦団体として承認する場合があります。叛徒と政府の間の闘争は、戦争ではなくて内乱でありまするが、叛徒が第三国より交戦団体としての承認を受けた場合は、その叛徒団体と政府の間は国際法上の戦争関係になる。例えばかような交戦団体が第三国に依って日本国内に承認されたばあいに、政府はさような場合でも、交戦権の否認を以ってこれに対処されるかという点に付いて、解釈の問題として承りたいのであります。

金森国務大臣 第九条第二項の規定は、その中の交戦権の問題は、普通国際法上に認められて居ります交戦権を指して言って居るのでありまして、したがって国内の成立することあるべき交戦団体に対してもこの規定は当てはまって来るものと考えて居ります。

藤田委員 ただいま、交戦団体として承認された叛徒団体との間の関係は、国際法上これは戦争の状態に入るのでありまして、交戦団体として承認を受けた叛徒の方は国際法上の戦争資格が認められ、それが顛覆しようとする政府の方は憲法に依って交戦権が認められない。かようなことになるのでありますから、将来日本が世界の平和愛好国家に参加するという場合に、かような第三国に依る国内における交戦団体の承認、さようなことのあり得ないように保障を受ける必要があると考えるのであります。これも前項の場合に準じて希望として政府に申し上げたいのであります。」

『憲法便り#1006』へ続く。
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by kenpou-dayori | 2015-05-19 15:11 | 自著連載


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