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岩田行雄の憲法便り・日刊憲法新聞

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2015年 06月 24日

憲法便り#894「みるく世がやゆら」(平和でしょうか):与勝(よかつ)高校三年知念 捷君の詩

2015年6月23日(火)(憲法千話)

憲法便り#894「みるく世がやゆら」(平和でしょうか):与勝(よかつ)高校三年 知念捷(まさる)君の詩
昨6月23日、沖縄の平和祈念公園で開催された沖縄全戦没者追悼式で、与勝(よかつ)高校三年 知念捷(まさる)君が、古い島言葉で歌い、読み上げた自作の詩。

祖父の姉夫婦のこと、戦争の悲惨さを語り継ぐために書いた詩。

彼ならば、18歳に引き下げられた選挙権を、立派に行使することでしょう。

2015年6月23日付『東京新聞』夕刊の紙面を引用して、伝えます。
紙面の下の部分が切れていますが、(沖縄県平和祈念資料館提供)とあります。
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「みるく世(ゆ)がやゆら」

平和を願った 古の琉球人が詠んだ琉歌が 私へ訴える

「戦世(いくさゆ)や済(し)まち みるく世ややがて 嘆(なじ)くなよ臣下 命(ぬち)ど宝」

七〇年前のあの日と同じように

今年もまたせみの鳴き声が梅雨の終(おわ)りを告げる

七〇年目の慰霊の日

大地の恵みを受け 大きく育ったクワディーサーの木々の間を

夏至南風(かーちーべー)の 湿った潮風が吹き抜ける

せみの声は微かに 風の中へと消えてゆく

クワディーサーの木々に触れ せみの声に耳を澄ます

「今は平和でしょうか」と 私は風に問う

花を愛し 踊りを愛し 私を孫のように愛してくれた 祖父の姉

戦後七〇年 再婚をせず戦争未亡人として生き抜いた 祖父の姉

九十才を超え 彼女の体は折れ曲がり ベッドへと横臥(おうが)する

一九四五年 沖縄戦 彼女は愛する夫を失った

一人 妻と乳飲み子を残し 二十二才の若い死

南部の戦跡へと 礎(いしじ)へと

夫の足跡を 夫のぬくもりを 求め探しまわった

彼女のもとには 戦死を報(しら)せる紙一枚

亀甲墓に納められた骨壷(つぼ)には 彼女が拾った小さな石

戦後七〇年を前にして 彼女は認知症を患った

愛する夫のことを 若い夫婦の幸せを奪った あの戦争を

すべての記憶が 漆黒の闇へと消えゆくのを前にして 彼女は歌う

愛する夫と戦争の記憶を呼び止めるかのように

あなたが笑ってお戻りになられることをお待ちしていますと

軍人節の歌に込め 何十回 何百回と

次第に途切れ途切れになる 彼女の歌声

無慈悲にも自然の摂理は 彼女の記憶を風の中へと消してゆく

七〇年の時を経て 彼女の哀(かな)しみが 刻まれた頬を涙がつたう

蒼天に飛び立つ鳩(はと)を 平和の象徴というのなら

彼女が戦争の惨めさと 戦争の風化の現状を 私へ物語る

みるく世がやゆら

彼女の夫の名が 二十四万もの犠牲者の名が

刻まれた礎に 私は問う

みるく世がやゆら

頭上を飛び交う戦闘機 クワディーサーの葉のたゆたい

六月二十三日の世界に 私は問う

みるく世がやゆら

戦争の恐ろしさを知らぬ私に 私は問う

気が重い 一層 戦争のことは風に流してしまいたい

しかし忘れてはならぬ 彼女の記憶を 戦争の惨めさを

伝えねばならぬ 彼女の哀(かな)しさを 平和の尊さを

みるく世がやゆら

せみよ 大きく鳴け 思うがままに

クワディーサーよ 大きく育て 燦燦と注ぐ光を浴びて

古のあの琉歌(うた)よ 時を超え今 世界中を駆け巡れ

今が平和で これからも平和であり続けるために

みるく世がやゆら

潮風に吹かれ 私は彼女の記憶を心に留める

みるく世の素晴らしさを 未来へと繋(つな)ぐ

※みるく世がやゆら…平和でしょうか、との意味。

※「戦世や―」の琉歌…「戦いの世は終わった/平和な弥勒世(みろくよ)がやがて来る/嘆くなよ、おまえたち、命こそ宝」という意味。

※クワディーサー…モモタマナの木。沖縄戦の死者名を刻む「平和の礎(いしじ)」の周りにも植えられ、広い葉が大きな緑陰をつくる。


by kenpou-dayori | 2015-06-24 18:37 | 沖縄


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