2015年 07月 03日

憲法便り#1037:育鵬社および自由社の中学校教科書を採択しないよう、要請書を提出(増補版)

2015年7月2日(木)(憲法千話)
2015年7月3日(金)改題:中学校の文字を書き加える。
2015年7月3日(金)新たに構成が終了した部分を追加。

憲法便り#1037:育鵬社および自由社の中学校教科書を採択しないよう、要請書を提出(増補版)

7月2日、午後4時40分(締切は午後5時)に、新宿区教育委員会宛てに、次の要請書を提出してきました。

その「はじめに」、および新たに構成を終了した部分を追加掲載します。

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2015年7月2日

新宿区教育委員会 御中   

岩田行雄(いわた・ゆきお)

教科書採択に関する要請書
はじめに
 去る2015年6月24日に、「教科書・新宿ネットワーク」が、『教科書採択に関する要請書』を提出した際に、私も要請行動に加わりました。
しかしながら、同要請書でもふれているように、すべての問題点について述べることは出来ませんので、各分野の専門家が声をあげることが必要と考えます。
したがいまして、同要請書を踏まえながら、憲法研究者として、独自の立場から要請致します。

【要請書執筆に至る経緯】
育鵬社および自由社の教科書は偏狭な立場を優先し、歴史的事実に関して検証することなく多くの誤りを記述しているので、看過出来ません。
今年3月19日に左眼、3月31日に右眼の白内障の手術を受け、まだ痛みがあるため長時間の調査は出来ませんが、教育委員会の展示会場に足を運び、6月24日、6月29日、6月30日、7月1日に、合計16時間の閲覧・調査を致しました。
コピー、写真撮影も出来ない限られた条件下での作業でしたので、十分とは言えませんが、ここに、その調査結果に基き要請書を提出する次第です。長文ですが、ご検討下さい。

【要請の主旨】
要請内容をご参照のうえ、育鵬社および自由社の教科書を、新宿区教育委員会において採択されないことを強く要望致します。
調査は、憲法に焦点を当て、問題点を明らかにすることにしました。この要請書は公表し、提出後も精査し、ひろく世に問うことを予めお伝えします。

【育鵬社および自由社の教科書への評価】
端的に表現します。
育鵬社の教科書は「公民」を、戦前の「臣民」に戻すことを目的としている。
自由社の教科書は、まるで、戦前の政治に回帰する「安倍政権の機関誌」です。
教科書は、その時どきの政権の道具になってはならないことは、歴史が示しています。
かつての、ヒトラーのナチス・ドイツの時代、ムッソリーニのファシスト政権の時代、そして日本の修身教科書により「軍国少年」を育て、戦場に送り出した時代を見れば、明らかです。
いま、日本において、育鵬社および自由社の教科書が再び過去の過ちを繰り返そうとしています。これは、あってはならないことです。
新宿区は、下記の平和都市宣言を行い、宣言文を区庁舎正面に掲げています。
この宣言文の精神に則っての採択を要望します。
「世界の恒久平和は、人類共通の願いである。
 私たちは、世界で唯一の核被爆国民として、自らも戦火を受けた都市の住民として、戦争の惨禍を人々に訴えるとともに、永遠の平和を築き、この緑の地球を、次の世代に引き継ぐ責務がある。
 国際平和年にあたり、私たちは、人類の生存に深刻な脅威をもたらす、すべての国の核兵器の廃絶を全世界に訴え、世界の恒久平和の実現を心から希求し、ここに新宿区が、平和都市であることを宣言する。
  昭和61年3月15日 新宿区」

【私の研究テーマと「テキスト」批判の論拠とする資料】
 標題に掲げた「テキスト」は原文のこと、批判とは、学問的に「批評し、判定する」することで、非難ではありません。
 私は現在、ある大学に提出するため『日本国憲法成立史の実証的再検討』と題する博士論文を執筆中ですが、そのため調査・研究した資料・および史料は、別紙のとおりです。(参考資料①)
 本格的な憲法研究に取り掛かったのは、2004年1月からですが、2004年6月に『検証・憲法第九条の誕生』(B5判、5,000冊)を自費出版したことを出発点として、すでに7タイトル、約4万5千冊を普及しています。出版社3社からの誘いを断って自費出版の道を選んだのは、誰にでも購入可能な廉価で刊行するためです(参考資料②)
 また、『検証・・・』の刊行をきっかけに、全国各地からの講演依頼が相次ぎ、北海道から沖縄、さらには韓国5都市での講演もあり、140回に及んでいます。
 私の本来の研究テーマは、実証的な「16-18世紀ロシアにおける書籍文化史」研究(参考資料③)で、日本国憲法成立史は、その研究手法の延長線上にあります。

(1)自由社『中学社会 新しい公民教科書』について
 
①全体の構成は、序章、1章‐5章、終章からなり、各章は各節からなっています。そして、各節は、さらに数字の番号が付けられた小項目からなっています。そして、「ここがポイント」「ミニ知識」「もっと知りたい」という項目が随所に配置されています
②日本国憲法に関しては、「第2章 立憲国家と国民」、および「第3章 日本国憲法と立憲的民主政治(57頁)」に示されています。
③「第2章」は、憲法の成立過程についての記述、「第3章」は、憲法と現実政治の関係についての記述が中心です。
④以下に、まず「序章」から「第3章」に至る目次(カッコ内は頁数)を簡単に示します。
そして、問題点を指摘する部分については、内容を再録します。
⑤教科書に記されている(注)は(原注①)、岩田が付す(注)は(岩田注①)のように、区別します。
⑥〔問題点の指摘〕、および〔岩田注〕は、各章ごとにまとめて示します。

 以上の諸点をふまえ、本論に進みます。

「目 次」
序 章 現代日本の自画像(1)
第1章 個人と社会生活(19)
第1節 家族の中で育つ私たち(20)
06共同社会と利益社会(20)
07家族の役割と形態の変化(22)
08民法と家族(24)
*もっと知りたい:男女共同参画社会を考えよう(26)
第2節 学校と地域社会と国家(28)
09.学校とルール(28)
10.私たちと地域社会(30)
11.家族愛・愛郷心から愛国心へ(32)
*ミニ知識:愛国心を訴えたフィヒテ(33)
1807年、ナポレオンの率いるフランス軍支配下にあったドイツで、哲学者フィヒテは『ドイツ国民に告ぐ』と演説し、愛国心と独立を訴え、ドイツ国民をふるい立たせた。(岩田注①)
*ここがポイント(岩田注②)
①愛国心とは自分の生まれ育った国を大切に思う心である。
②愛国心は国際社会の平和と発展に貢献しようとする精神的土台である。
③優れた自国の伝統や文化は、継承するだけでなく、次の世代に伝えていかなければならない。
12.国家と私たち国民(34)
*学習のまとめ(36)

【「第1章」への問題点の指摘と〔岩田注〕】

〔問題点の指摘〕以下の、フィヒテの引用は、歴史的状況を無視した、「愛国心」への誘導。
*ミニ知識:愛国心を訴えたフィヒテ(33)
「1807年、ナポレオンの率いるフランス軍支配下にあったドイツで、哲学者フィヒテは『ドイツ国民に告ぐ』と演説し、愛国心と独立を訴え、ドイツ国民をふるい立たせた。」

〔岩田注①〕フィヒテについて
以下に示すのは、京大西洋史辞典編纂会議編『新編 西洋史辞典 改定増補』(平成12年)633頁右の説明です。
「フィヒテ Johann Gottlieb Fichte(1762-1814) ドイツの哲学者。苦学して大学を出、家庭教師をしながら『啓示批判試論』(1792)を出版、認められて94年イエナ大学教授。知識学を完成し、カントの実践批判を主観的形而上学に高め、ロマン派に影響を与えた。1807年フランス軍の侵入監視の中で『ドイツ国民に告ぐ』の講演をして国民の道徳的奮起をうながし、またベルリン大学の創立に尽力し、のち総長となった。従軍看護婦となった妻のチフスに感染して死す。イエナ大学時代、啓蒙的無神論を主張して論争をおこなったことがある。(広美)」
私は哲学者ではないので、この説明の概念を把握するだけでも難しい。
ここで、愛国心のためにフィヒテを引用するのは、適切ではない。
ナポレオンがヨーロッパに席巻した時代背景の理解がなければ、なおさらのことである。当時のドイツがどのような国であり、何をしていたのかが判らなければ、正しい認識には至らない。
 18世紀~19世紀のヨーロッパを論ずる場合、国名も、版図すなわち領土も激しく変化していて、現在とは違う。
 18世紀の後半に、プロイセン、ロシア、オーストリアの3国により、3次にわたってポーランドの分割が行われている。
 第一次は1772年、第二次は1793年、第3次は1795年。
 かつて、ポーランドはロシアに攻め入って、1610年にモスクワを占領、2年後の1612年に退却したが、それほどの強国であった。しかしながら、3度の「ポーランド分割」により、ポーランド王国は崩壊、第一次世界大戦末期まで、一世紀以上にわたって祖国を失い、列強の支配下にあった。ポーランド人の立場からは、ドイツ人を中心としたプロイセンも、ドイツ語を話すオーストリアも、どちらも侵略者であった。
 なお、フィヒテが教べんをとったイエナ大学は、1558年の設立。
 
〔問題点の指摘〕自由社版の「ここがポイント」という項目の危険性
*ここがポイント(33)
①愛国心とは自分の生まれ育った国を大切に思う心である。
②愛国心は国際社会の平和と発展に貢献しようとする精神的土台である。
③優れた自国の伝統や文化は、継承するだけでなく、次の世代に伝えていかなければならない。

〔岩田注②〕「ここがポイント」は、目次には記されていない小さな記述です。しかし、若者に聞いた「ここがポイント」のとらえかた方は、「試験に必ず出るから、マーカーで印を付ける。」とのこと。このような若者の反応を見越した一定の政治的方向への「誘導」は、姑息であり、本来の教育とはかけ離れた政治的手法の濫用として、大問題です。
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by kenpou-dayori | 2015-07-03 23:07 | 今日の話題


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