岩田行雄の憲法便り・日刊憲法新聞

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2016年 04月 05日

憲法便り#1658:【連載:外務省と第九条シリーズ】元外務省条約局長西村熊雄氏の証言(第2回)

2016年4月5日(火)(憲法千話)

憲法便り#1658:【連載:外務省と第九条シリーズ】元外務省条約局長西村熊雄氏の証言(第2回)

(第1回の続き)

西村参考人:いよいよ先方の代表が来日しそうだという情勢になり、総理から官邸に呼びだしがありまして「合衆国軍隊の駐留を認めることによって日本の安全を保障する趣旨の条約案を書け」という御命令をうけました。それでそれにそった安全保障条約案を作成して提出いたしました。その後さらに呼び出しがありまして、今度は全く違った考えに立つ条約案すなわち朝鮮と日本を非武装地帯にし、かつその周辺の非常に広い範囲内にアメリカ、ソ連、中国、イギリスが平時ある程度の陸、海、空軍を配備することによって、西太平洋地域の平和と安全を確保する趣旨の条約案を書けという命令がございました。これはなかなかむずかしい条約でございますけれども、とにかく軍事専門家の協力を得て、一案を作成いたし提出しました。こうして二つの条約案ができました後、アメリカの方で対日平和七原則を発表―これを合衆国は連合各国の送りました―いたしました。その中に安全保障という一条項がございまして、そこには、合衆国、またはその他の連合国の軍隊と日本の提供する施設との協力によって日本地区の安全を維持すること、といってありました。それで初めて日本政府は、合衆国が平和条約そのものの中に合衆国軍隊の駐屯条項を置く考えであることをはっきり知ったわけであります。しかしこの平和条約に駐屯条項を置く考えは絶対に承服できない、というのは文面は一応日本地区の安全のためとありましても、実際は同時に、当時日本の平和条約履行、とくに日本の南下に対して非常な懸念を示していたフィリピン、インドネシア、豪州、ニュージーランドのためにする安全保障ともなるからです。それゆえこちらで用意してあるような平和条約とは別個に日米間に安全保障条約を結び、その一条項として合衆国軍隊の駐留を認めるべきであると考えた次第であります。交渉がはじまりまして、先刻申し上げましたように、再軍備に関する先方の希望を日本で拒否いたしました関係上、こちらから独立回復後軍隊を持たないで、こういうふうにして安全を保障する方針であるといって、総理から進んでかねて用意してありました安全保障条約案を提示されたいきさつになっております。結局この案がもとになって最近新安全保障条約によってとって代わられましたが、旧安全保障条約ができた次第でございます。交渉の経緯とか旧条約の内容とかにつきましては御承知のことでございますから、説明申し上げません。
ただ申し上げておかなければならないことは、旧安全保障条約を交渉いたしましたとき一番気を使いましたのは、砂川事件でも問題になりましたように、軍隊は持たない、戦争は放棄するという明文規定のある憲法のもとで、条約によって外国軍隊を国内に駐屯させることが憲法違反になりはしないかという点であったということであります。憲法は自らの軍隊を持たないというのである、だから条約に基づいて外国軍隊を置くことまで否認していない、つまり条約によって駐留する外国軍隊は、日本の軍隊にはならない、憲法の規定は文字のとおりの解釈をすべきであろうという考えを持って安保条約を締結された次第でございます。
条約ができました後、第九条との問題についてむずかしい問題がいろいろ生じたことは御承知のとおりでございますが、わたくしの一番気になりますことは、平和条約でも明言しておりますし、また国連憲章にも明言しておりますように、国家は個別的の、また、集団的の自衛権を持っておるのであり、そして集団的自衛権という観念のもとに現在の安全保障体制は組み立てられておりますが、この場合、安保条約のもとにおける日米間の関係においては、日本に対して外部から武力攻撃があった場合合衆国が発動する自衛権は集団的自衛権であるけれど、日本は自国に対する武力攻撃であるから個別的の自衛権を発動するのであるという考えがとられております。これが今日の解釈でございます。私どもが旧安保条約を交渉しましたときはその点を深く考えないでいました。一日も早く平和条約を獲得して、とにかく独立を回復したいというのが先に立っておりましたので、第九条の問題も、主として条約によって外国軍隊を日本に置くことが憲法第九条との関係において問題になるかどうかという点に限定されていた次第であります。
第三は、国際連合加入申請の場合でございます。平和条約ができまして、日本は一九五一年の秋に批准を完了いたしました。御承知の通り平和条約の前文には、日本は国際連合に加盟する意思を表明し、連合国はこれを支持することをうたっております。それで平和条約の批准が完了すれば、その次に日本がやるべきことは、一日も早く国際連合へ加盟申請の意思表示をすることだと考えました。
それでその趣旨にもとずき事務的に研究を始めまして、まず第一に作製いたしましたのが国連加盟申請書でございます。このときまた憲法第九条との問題にぶつかりました。と申しますのは、国連憲章第七章の「平和に対する脅威、平和の破壊及び侵略行為に関する行動」の規定をみますと、国連加盟国はいわゆる平和維持のための集団的軍事行動に参加し、これに協力しなければならないことになっております。もっとも先決条件として各加盟国と安全保障理事会との間に特別協定ができなければなりませんから、(戦前の)国際連盟の場合と違って国際連合においては安保理事会の決定する集団安全保障措置が発動される場合には、好むと好まざるとを問わず加盟国はその義務を履行しなければならないたてまえになっております。したがって黙っておれば、日本は国連憲章の規定によりまして当然安保理事会の決定する集団安全保障のための軍事行動に参加し、またこれに協力をしなければならないことになります。いわゆる国際的軍事行動に参加する義務を負うことになりますが、これは一見憲法第九条の関係で実行できない国際的義務でございます。だから憲法第九条に基く留保をする必要があると結論したわけであります。国際連合事務総長あて加盟申請文の最後に日本政府の声明として、日本は国連に加盟したあとは国際連合憲章から生ずる義務を忠実に果たす決意であるということを宣言いたし、そのあとに、ただし日本政府はこの機会に戦争を放棄し、陸海空軍三軍を永久に所持しないということを明らかにしている憲法第九条に対し注意を喚起するという一項をつけ加えておいたわけです。当時はまだ占領管理のもとにございましたので、―占領管理がはずされましたのは翌年の昭和二十五年四月でございます。私どもがこの案文を書きましたのはその前でございます―外交部の友人に感想を求めたことがあります。外交部の友人から、日本政府として直接憲法第九条に注意を喚起するとまでいう必要はないではないか、間接的にそれをいった方がいいのではないかというサゼッションがございましたので、確定した文書では間接に言うことになりました。原文は御参考までに見ていただきたいと思いますので残しておきます。(一六三頁参照)一九五二年六月十六日づけで、事務総長宛に発送されております。
そこでは第九条を直接いわないで、日本政府はその有するあらゆる手段によって国際連合憲章から生れる義務を遵守するが、日本のディスポーザル(注disposal=処置の仕方、思い通りにできること) にない手段を必要とする義務は負わない、すなわち軍事的協力、軍事的参加を必要とするような国際連合憲章の義務は負担しないことをはっきりいたしたのであります。この点は忘れられておりますけれども、この機会に報告しておきます。この国連加盟申請は、それより以前に日本議会が国連憲章とその不可分の一体をなしておりまする国際司法裁判所規定への参加承認を経ました上で、今申し上げましたように、一九五二年六月十六日正式に提出された次第でございます。
以上私が関係いたしました外交問題で憲法第九条に直接間接関連して考えさせられた諸問題でございます。その後憲法第九条の問題について外務省として関係されましたのは私のあとを引き継がれた下田公使でございますので、その辺のことは同公使の御説明をお聞きくださるようお願いします。
(引き続き下田参考人の話しがあるが、本書では省略し、その後の質疑応答に移る)

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by kenpou-dayori | 2016-04-05 14:36 | 外務省と第九条


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