岩田行雄の憲法便り・日刊憲法新聞

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2016年 04月 05日

憲法便り#1659:【連載:外務省と第九条シリーズ】元外務省条約局長西村熊雄の証言(第3回)

2016年4月5日(火)(憲法千話)

憲法便り#1659:【連載:外務省と第九条シリーズ】元外務省条約局長西村熊雄の証言(第3回)

高田委員長 新安保条約改定に触れた問題というのがございますれば、合わせてお話しを伺いたいと思います。
下田参考人 実は私、新安保条約の締結まではアメリカにおり、まあ国外からは見ておりましたが、実際の交渉の衝には当ってはおりませんので、あるいはもしお話し申し上げる必要がございますれば、高橋現条約局長をお呼びになった方がいいかと思います。私は条約ができましてから後、国会での関係になりましてから……。
大石委員 日本は国連の一員になっておるけれども、軍事的な負担はやらないということについて、現在でも他の諸国ははっきり認めているのでしょうか。こちらの意図は先ほどのお話しでも非常に明らかのように、軍事負担はしないのだという了解のもとに国連に加盟したということになっておるということですけれども、それは客観的にもそうなっておるのでしょうか。現在その点はいかがでしょうか。
西村参考人 加盟申請書は外務大臣の声明をそえて各加盟国に送付されています。また、その後ずいぶん長い間かかって日本の加盟は安保理事会と総会で審議されたのでございますので、日本の特殊条件といいますか、日本の加盟申請の特殊な意義は各加盟国で承知の上可決になったものだと思います。
大石委員 それから先ほどのお話しでわかるように、当時の吉田首相の意見が非常にはっきり出ておりましたけれども、吉田首相としてはやはり、今下田さんからお話しがありましたように、当時の日本の経済的条件、といったことが問題なんで、憲法第九条の解釈それ自体としては、日本は永久に戦力は持てないのだというたてまえからいったのではなく、その当時の刺激的な条件を顧慮して戦力は持てないのだ、という点ははっきりしているのでしょうね。その点いかがでしょう。
西村参考人 御説の通りに考えます。吉田総理は、四つの理由を申されましたけれども、主な理由は三つで、憲法上の困難はつけたしとまでは申しませんけれども、「憲法上の困難もありますよ」ということだと思います。まあ、先方の希望に応じられない一つのよりどころといったふうに考えております。
大石委員 それから第三点ですが、外務の衝の方々としては、アメリカでも、ソ連でも日本は決して憲法上永久に武力は持てぬのだというように考えないで、かえって逆に持てるということを前提としての意見であったという話でしたが、その連合国側の意図がはっきりわかっておっても、なおかつ外務省当局の憲法解釈としては、戦力は持てぬのだというたてまえをずっと固執しておったのでしょうか、あるいはそれは政策からきていたのですか。
西村参考人 政策ではなくて、それは御指摘の通りだと思います。ほんとうに平和条約の交渉に当られたダレス代表、アリソン公使やマグルーダ国防省占領地行政担当官が、日本の憲法の特殊性を知っておらなかったとも思われません。しかし、ソ連、その他の連合国は日本憲法第九条を知っていなかったと思います。と申しますのは、御承知のように、平和条約発効直後ヨーロッパに(フランス大使として)赴任いたしましたが、任国外務省の諸君や外交団の同僚諸君で、日本が憲法上軍隊を持てない国であるということを知っているものは一人もいなかったからです。こちらから進んで実はこういう国であると説明しますと、そういう国が今あるのかとびっくりするというようなことでございました。日本の憲法第九条は、制定された当初においてはアメリカあたりでも相当知っておった人もあると思いますが、今日どこの国をとらえても第九条第二項を知っている政治家や当局者はないのではないかという印象を持っています。
高柳会長 今の点ですが、「by all means at its disposal」と書いてありますが、これは今の国連の加入のときに、日本の憲法の下では、日本から軍隊を呼び出すというようなことはできない、というようなことも考えたという何か証拠があるんですか。そういうディスカッションでもあったということは何もありませんでしたか。
下田参考人 実は国連加盟申請書の苦心の作は、西村前局長がお話しになった通りですが、この加盟が実現いたしましたのは、私の条約局におりましたときのことですので、一言申し上げたいと存じます。加盟申請後、ときの移るに従いまして、政府当局の考え方もだんだん変りました。先ほどの第九条と自衛力増強の関係の問題も、まあ御承知のように、自由、民主両党合併の際なんか、民主党の方から芦田さん、重光さんが条件をつけて、逆に自衛力増強について注文が出るというようなこともあり、吉田内閣時代の「再軍備は絶対にいたしません」という空気と、だいぶ違って参りました。また国際的に見ましても、すでに朝鮮事変の際も現実に軍事的措置に参加した加盟国はごくわずかで、大部分の加盟国は参加していない、たとえ参加しても衛生兵だけしか出さないというような有様でした。大部分の国が軍事的措置に参加しないで、しかもそれで何ら憲章上の加盟国の義務に反していないという事態が発生しておりました。その後も同様の事例があって、加盟国の大部分は現実には軍事的措置に参加しないで済んでおる。それですからこの問題は私が局長をしておりましたころはすでにアカデミックな問題になって了っておりまして、理論的には議論が行なわれましたけれども、現実問題としては憲法第九条のために国連の加盟が妨げられる、あるいは国連加盟後に義務が履行しえないことになるというような危ぐを政府当局が抱いたことはないように思っております。
高柳会長 とすると国際会議でも第九条を留保するというような明文はなくても、そのことは含まれているのだ、というようなことについて議論を始めた人はいないのですね。
西村参考人 ございません。そういう点で、冒頭に申しましたように過去を振り返ってみますと、わたしが局長をいたしておりました五年間は結局憲法制定直後であったということと、占領下の時代であったということで、全く神経過敏に第九条を気にして諸般の問題を処理していたといえましょう。その後は国内的にも改正論も出てきたときでしてその時々の情勢の要求に応じた考え方に立って外交がなされたというふうにみております。

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by kenpou-dayori | 2016-04-05 15:58 | 外務省と第九条


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