2013年8月23日(金)
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「ナチスの憲法」と呼ばれるものには、「日本国憲法」のように体系化されたものはありません。「ワイマール憲法」の機能を停止した大統領令およびそれに続く一連の法律のことを指します。
したがって、「ナチス憲法」と呼ばずに、「ナチスの憲法」と呼ばれます。
I については、すでに詳しく紹介しましたが、これが「ナチスの憲法」の始まりです。
Ⅱは、「授権法」あるいは「全権委任法」と呼ばれるもので、現在、テレビのコメンテーターなどが、麻生副総理の「ナチス発言」後に、話題にしている法律ですが、これは「ナチスの憲法」の始まりでも、全体を示すものでもありません。
全体像は、下記のI-XIの法律群を指します。
文中の、ライヒは「国」、ラントは「州」を意味します。
ヴァイマルは、一般的には「ワイマール」と表記されています。
今回は、八番目の法律についてです。
前回紹介した「政党新設禁止法」に続き、この法律で「党と国家の一元化」をはかり、一党独裁の仕上げをします。
Ⅷ 党および国家の統一を確保するための法律(1933年12月1日)(注31)
ライヒ政府は、次の法律を議決し、ここにこれを公布する。
§1〔民族社会主義ドイツ労働者党と国家の統合〕
(1)民族社会主義革命が勝利をおさめた後、民族社会主義ドイツ労働者党は、ドイツ国家思想の担い手となり、国家と不可分に統合しているものとする。
(2)民族社会主義ドイツ労働者党は公法人とし、その規約は総統が定める。
§2〔総統の代理人〕
党のポストと官公庁との緊密な協働を保障するために、総統の代理人は、ライヒ政府の構成員となる。
§3〔党員およびSA(突撃隊)隊員の義務〕
(1)民族社会主義ドイツ労働者党およびSA(その下部組織をも含む)の構成員は、民族社会主義的国家の指導的運動力として、総統、国民および国家に対して高度の義務を負う。
(2)党員および隊員がこの義務に違反するときは、党・SA特別裁判に付する。
(3)総統は他の組織の構成員をも本規定の対象とすることができる。
§4〔義務違反を構成する行為・不行為〕
民族社会主義ドイツ労働者党の存在・組織・活動もしくは信望に攻撃を加え、またはこれを危険に陥れる行為もしくは不行為の各々――とくにSA(下部組織を含む)隊員にあっては、規律違反のすべて――が、義務違反を構成する。
§5〔義務違反に対する措置〕
一般の懲戒罰を課すほか、拘留・拘禁することもできる。
§6〔職務上・法律上の援助〕
官公庁は、その権限の範囲内において、党・SA裁判権の行使を委任された、党およびSAの機関に対して、職務上および法律上の援助を与えなければならない。
§7〔SA・SS隊員懲戒権法の廃止〕
1933年4月28日のSA・SS(親衛隊)構成員の懲戒権に関する法律(ライヒ官報I 230頁)は、これを廃止する。
§8〔本法の実施に関する総理大臣の権限〕
ライヒ総理大臣は、民族社会主義ドイツ労働者党総裁兼SA最高指導者として、本法の施行および補充に必要な規則、とくに党・SA裁判権の構成および手続きに関する規則を制定する。ライヒ総理大臣は、上記の裁判権に関する規則の施行期日を定めるものとする。
ベルリーンにて、1933年12月1日
ライヒ総理大臣 アードルフ・ヒトラー
ライヒ内務大臣 フリック
(注31)本法は、党と国家の二元性を除去し、両者の一元化をはかったものである。
「ナチスの憲法」の全体像
I 民族および国家の保護のためのライヒ大統領令(1933年2月28日)
Ⅱ 民族および国家の危難を除去するための法律(1933年3月24日)
Ⅲ ラントとライヒとの均制化に関する暫定法律(1933年3月31日)
Ⅳ ラントとライヒとの均制化に関する第二法律(1933年4月7日)
Ⅴ 職業官吏制の再建に関する法律・・・・・・・(1933年4月7日)
Ⅵ 国民投票法・・・・・・・・・・・・・・・・(1933年7月14日)
Ⅶ 政党新設禁止法・・・・・・・・・・・・・・(1933年7月14日)
Ⅷ 党および国家の統一を確保するための法律・・(1933年12月1日)
Ⅸ ライヒの改造に関する法律・・・・・・・・・(1934年1月30日)
Ⅹ ライヒ参議院の廃止に関する法律・・・・・・(1934年2月14日)
ⅩⅠ ドイツ国元首に関する法律・・・・・・・・(1934年8月1日)
この内容と問題点を正確に伝えるために、次の文献を引用しました。
高田敏(たかだ・びん)・初宿正典(しやけ・まさのり)編訳
『ドイツ憲法集〔第3版〕』〈講義案シリーズ17〉(2001年、信山社)
※本書『心踊る平和憲法誕生の時代』の注文については、
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