2013年 12月 20日
12日20日 本書は、「憲法講演100回記念 特別出版」として、2008年に3,000冊の限定出版をしたものです。 講演を重ねるうちに、伝えたい資料が増え、レジュメはA4サイズで24枚に及ぶようになりました。 講演を聞いた方々からは、レジュメをまとめて本にして欲しいという要望も出されるようになりました。 しかしながら、単にレジュメを本にしたのでは「芸がない」し、面白くありません。 そこで、意を決して、日頃から気になってはいても、レジュメに収めきれない資料を含めて刊行したのが、本書です。英文資料は、新訳を試みました。 刊行前の予約だけで、2,700冊になりましたので、3,000冊の限定出版としました。 B5判、239頁で、一冊500円。今回も出版社の常識外の価格設定でしたから、発売後間もなく完売になりました。 以下に、「刊行のことば」「目次」「おわりに」「主な参考文献」を掲載します。 【「この感動を伝えたい」(刊行のことば)】 通算百一回目にあたる今年最初の憲法講演は、二月五日に国立国会図書館で行いました。国会図書館職員の研究サークル「憲法を考える有志の会」と国会図書館が共催する講演会にお招きを受けてのことです。この講演は関西分館にも同時中継されました。知名度や肩書きではなく、これまで四年間、国会図書館に通い続けて行なって来た地道な研究に目を止めて、年一回の文化祭での講演会にお招き下さった国会図書館の方々の見識にとても励まされています。 私の本来の研究テーマは一六ー一八世紀ロシアの書籍文化史研究ですから、四年前には、憲法についての本を出版したり、講演を行なうことなどは、夢にも思っていませんでした。でも、「この努力を続けてきて良かった」と心から思っています。 それは、クリスチャン、お寺のご住職、自衛官の家族、元自衛官、自民党員を含む実に多くの、そしてさまざまな方々との出会いがあったからです。お蔭様で、理屈やスローガンではなく、日々の生活の中で、思想、信条、職業、年齢を超えて仲良く暮らすという、「平和憲法の原点」に身を置いています。 二〇〇四年六月末に刊行した『検証・憲法第九条の誕生』は四版まで版を重ね、出版総数はすでに二万三千冊となりました。 寄贈先も国会議員全員七一九名(二〇〇六年三月)、日本新聞協会加盟新聞社九二社、都道府県立中央図書館五二館、都内区立中央図書館二三館、多摩地区市立中央図書館二六館、テレビのキャスター及びコメンテーター二八氏、新参議院議員六三名(二〇〇七年九月)など約千冊に及び、発信した手紙の数は四千通にのぼります。 そして最初は思いも及ばなかったことでしたが、本書の出版をきっかけに、北海道から沖縄に至る全国各地から依頼を受けるようになった講演も、憲法公布六十一周年にあたる昨年十一月三日で、通算百回目を迎えました。この記念すべき講演は、シスターたちのご好意とご協力により、三浦海岸を見下ろす高台にある三浦修道院で行うことが出来ました。 百回講演を記念して、以前から要望が寄せられていた資料集を刊行することにしました。二時間という限られた時間の中で、密度の濃い、そして、より良い講演を行なうために、調査、研究を続けてきましたが、講演のレジュメや講演そのもので伝えることが出来るのは、研究成果のごく一部分でしかありません。本書では、前著との重複を避け、補完し合うように工夫して、出来るだけ多く収録しました。 平和憲法が成立に至る時代は、日本の民主化、再建を求める実に様々な動きがあり、それが複合的な力となっていました。「憲法の成立過程には感動がある。この感動を伝えたい。」「激動の時代を多面的に捉える情報をまとめ、平和憲法を守る闘いの一助に提供したい。」と考え始めていた昨年六月に転機が訪れました。散歩中に自転車に激突され、肋骨を折りました。それがなんと「第九肋骨」です。このけがのおかげで、読書に専念するようになりました。 日頃から日本国憲法の制定過程を詳細に調べるためには、時間に制約がある図書館での読書では限界があることを感じていたので、重要な文献は購入することにしました。七月の書籍代は軽く十万円を超えましたが、この出費は無駄ではありませんでした。閉館の時間を気にせずに、腰を落ち着けてじっくりと読み、さらに当時の新聞や雑誌を調べることで、新たに事実や資料を発掘することも多くなりました。 「人間万事塞翁(さいおう)が馬」。 この資料集では解説を最低限に抑え、資料から戦後の息吹きを感じ取れる読み物として構成しました。疑問にも率直に応えるように務め、青年層の読者にも判り易くするために、旧仮名遣いは、現在の仮名遣いへと改めました。また、原文のカタカナを基本的には平仮名にしました。 難しいと思われる漢字の読み、そして言葉の意味は辞典などで調べたものを付しました。文章の味わいを考えて旧字体の漢字を残した箇所もあります。 GHQの文書は、田中安行さんに訳語のチェックを、また高田洋子さんに下訳のご協力を頂いた上で、岩田の責任において独自に新訳を試みました。 国立国会図書館の豊富な資料の公開とベテラン図書館員の方々の的確な助言が、この本の完成を可能にしました。特に政治史料課課長補佐の堀内康雄さんには、資料発掘をはじめ大変お世話になりました。 本書〔十ノ一〕に、新憲法制定時の憲法担当国務大臣として活躍し、その後国立国会図書館の初代図書館長を務めた金森徳次郎の講演記録『真理が吾等を自由にする』を、敬意を込めて収録しました。 本資料集を、良識ある全ての図書館人に捧げます。 二〇〇八年三月三十一日 【目 次】 序 章 「押し付け」憲法論の元祖は誰か?(7) 第一部 敗戦直前の日本(8) 〔一ノ一〕「美しい国」、「神の国」のルーツ(10) 〔一ノ二〕ポツダム宣言(11) 〔一ノ三〕新聞は「ポツダム宣言」をどのように報道したか? (12) 〔一ノ四〕ポツダム宣言受諾(20) 第二部 政府、民主化に着手せず! (23) 〔二ノ一〕ポツダム宣言の誠実なる履行の詔書(23) 〔二ノ二〕東久邇宮稔彦首相―「神州不滅」の所信表明(24) 〔二ノ三〕新聞、言論の自由へ(26) 〔二ノ四〕二人の大臣の問題発言―GHQによる五項目の勧告(いわゆる「人権指令」)の背景(28) 山崎巌内務大臣の問題発言(28) 岩田宙造司法大臣の問題発言(29) 〔二ノ五〕GHQによる五項目の勧告 (31) 〔二ノ六〕東久邇宮内閣総辞職の二つの理由(33) 第三部 戦後の息吹き、そして改革 (35) 〔三ノ一〕民主化への転換点 (35) 〔三ノ二〕マッカーサーが幣原首相に人権確保の五大改革と憲法の自由主義化を示唆(35) 〔三ノ三〕総合雑誌『新生』創刊号より(36) 〔三ノ四〕婦人参政権確立はベアテの贈り物? いいえ、違います!(42) 〔三ノ五〕「憲法の口語化」秘話 (44) 第四部 新憲法への胎動(51) 〔四ノ一〕法制局における密かな憲法改正準備…三つの文書より(54) 〔四ノ二〕憲法問題調査委員会の設置 (57) 〔四ノ三〕「憲法問題調査委員会第一回総会議事録」より(57) 〔四ノ四〕松本烝治国務相「憲法改正私案(原稿)」(62) 〔四ノ五〕『毎日新聞』のスクープ記事と社説(63) 第五部 「憲法研究会」の活動 (67) 〔五ノ一〕「憲法研究会」に集った人々の著作(73) 室伏高信著「新たなる日のために」 (73) 馬場恒吾著「政治談義―この喪心状態を奈何(いかん)」(81) 高野岩三郎著「囚はれたる民衆」 (86) 岩淵辰雄著「憲法改正と近衛公」 (97) 鈴木安蔵著「憲法改正の根本論点」(104) 森戸辰男著「知識階級に與ふ」 (110) 〔五ノ二〕「憲法研究会」の活動記録 (121) 〔五ノ三〕憲法研究会『憲法草案要綱』の全文(126) 〔五ノ四〕岩佐作太郎提案の「日本国民ノ人権宣言」(『憲法学三十年』より)(130) 〔五ノ五〕民主主義的憲法制定会議の提唱(131) 第六部 GHQの文書より (135) 〔六ノ一〕明治憲法に関する分析と新憲法に含まれるべき条項の論点整理―1945年12月6日付のラウエルの報告書(144) 〔六ノ二〕「憲法研究会」の『憲法草案要綱』に対する積極的評価―1946年1月11日付のラウエルの報告書 (147) 〔六ノ三〕1946年2月13日にマッカーサー草案を手渡した際の記録(153) 〔六ノ四〕憲法第二章はなぜ第九条だけなのか(160) 第七部 一九四五~四六年の世論調査より(162) 〔七ノ一〕昭和二十年十二月十九日(内閣情報局世論調査課)(164) 〔七ノ二〕昭和二十一年二月三日(輿論調査所)(164) 〔七ノ三〕昭和二十一年五月二十七日(毎日新聞社)(165) 第八部 衆議院本会議議事速記録より (166) 〔八ノ一〕修正案への四項目の付帯決議全文(167) 〔八ノ二〕日本共産党が採決で反対した四つの理由…野坂参三議員の反対討論 (168) 〔八ノ三〕衆議院本会議の採決結果(174) 第九部 新憲法公布後 (177) 〔九ノ一〕芦田均によるラジオ放送「新憲法」(一九四六年十一月四日)の草稿(177) 〔九ノ二〕政府の新憲法普及活動 (180) 〔九ノ三〕法律の前文に示された新憲法の精神(181) 〔九ノ四〕憲法普及会編『新しい憲法 明るい生活』の再録(182) 第十部 二人の憲法担当大臣のその後 (198) 〔十ノ一〕講演記録『真理が吾等を自由にする』国立国会図書館長金森徳次郎(199) 〔十ノ二〕憲法制定過程に関する松本烝治博士の説明(講演記録)(211) おわりに…「戦争放棄の真の提唱者」、そして国民投票法にふれて(234) 表紙デザイン 岩田 行雄 【おわりに…「戦争放棄の真の提唱者」、そして国民投票法にふれて】 「戦争放棄の真の提唱者は誰か?」ということが屡問題にされます。幣原首相ではないかという推定が、繰り返し述べられています。 私の結論は、「幣原首相は真の提唱者にあらず」といことです。それはなぜか? 「提唱」とは、具体的に問題を提示し、主張することです。しかるに、彼は首相であったにもかかわらず、議会でも、閣議でも、記者会見でも、周辺の人間に対しても、「戦争放棄」の提唱をしたことは、一度たりともありません。推定の根拠とされる、マッカーサーと会見した際の随行者の証言も、メモも残っていません。仮に、一般論として話題にすることがあったとしても、それは提唱したことにはなりません。ましてや、随行者のいない二人だけの私的な会見での話しを色々想像しての推論は問題外です。 そればかりか、無任所国務大臣だった松本烝治(専門は商法)を憲法担当大臣とし、憲法問題調査委員会委員長に任命しました。そして、審議も内容も松本国務大臣に任せきりでした。私から見れば、「超」保守的な人物にです。この松本烝治元国務大臣も講演の中で、閣議において幣原首相から軍の廃止についての発言はなく、松本国務大臣からの提案は、閣議で全員の了承を得ていることを述べています。そして、幣原首相を戦争放棄の真の提唱者と見なすことは間違いであると断言しています。 では、「戦争放棄」の発想の原点はどこにあるか? 私は、「パリ不戦条約」にあると考えます。 「パリ不戦条約」の正式名称は「戦争放棄に関する条約で、これは一九二八年八月二七日にパリで締結された多国間の不戦条約です。フランス外相ブリアンが米国務長官ケロッグに、両国間での不戦条約締結を提案したことがはじまりです。その後、米国内で反応が大きかったことから、ケロッグが一九二七年一二月に他の諸国をも加えた条約とすることを提案します。その結果、米、仏、英、独、伊、日など一五ヶ国が原調印国となり、ついでソ連など六三ヶ国が加入しました。別名「ケロック・ブリアン条約」とも呼ばれ、次の三ヶ条から成っています。 第一条「締約国は国際紛争解決のため戦争に訴えることを非とし、かつその相互関連において、国家の政策の手段としての戦争を放棄することを、その各自の人民の名において厳正に宣言す」 第二条「締約国は起ることあるべき一切の紛争又は紛議は、その性質又は起因の如何を問わず平和的手段に依るの外、之が処理又は解決を求めざることを約す」 第三条は批准の手続について(省略) 憲法第九条の条文にそっくりです。 戦力の不保持にこそふれていませんが、第一次世界大戦の反省を踏まえた、画期的な条約でした。 ところが一九三一年九月十八日、日本軍による「満州事変」が引き起こされます。これは、日本の関東軍が自ら南満州鉄道の柳条湖で爆破事件を仕掛け、それを理由に「事変」と称して開始した、中国に対する宣戦布告なき侵略戦争です。その結果、「パリ不戦条約」は反古(ほご)にされました。 自民党の改憲案に依って、第九条二項を変えることは、八〇年前の「パリ不戦条約」の水準に後戻りすることに他なりません。 かって第一次世界大戦の反省から誕生した「パリ不戦条約」を反古にした日本が、今度は、第二次世界大戦の反省から生れた「平和憲法」を反古にしようとしています。過ちを繰り返してはなりません。 自公政権は、国民投票法の採決を強行し、その実施を準備しつつあります。 一九四六年に法制局が作成した『憲法改正草案に関する想定問答』には過半数の考え方について次のように述べています。 問 国民投票においてその過半数の賛成とは有効投票の過半数の意なりや。 答 然り。然れども事の重大性に鑑み国会に於て其の投票数の最低限度、例えば有権者総数の何分の一の投票あることを要すると云うが如く定むるを実際とすべし。 一〇〇回を超える講演と数多くの出会い、そして国立国会図書館は、私の学びの場であり、文字通り「わたしの大学」です。そして、この本は、多くの先達の文章と言葉を借りて、私の平和思想を語ったものです。これからも力の続く限り走り続けます。 巻末に感謝の念を込めて講演の記録を収めました。 この資料集が平和憲法を守り発展させる闘いに役立つことを心から願ってペンをおきます。 二〇〇八年三月三十一日(結婚四十年記念日に) 【主な参考文献】 国立国会図書館の電子展示会「日本国憲法の誕生」 本書の執筆にあたっては、電子展示会に依拠して、資料の大部分を入手することが出来た。「日本国憲法の誕生」は国立国会図書館のホームページの中の一つであるが、特に「資料と解説」の部分には、憲法研究に必要な原資料が、ほとんど全て含まれている。次の二つの文書と共に、必見である。国立国会図書館所蔵『ハッシー文書』複写版 国立国会図書館所蔵のマイクロ資料四点 「入江俊郎文書」 「佐藤達夫文書」 「日本占領関係資料」の『米国国務省関係文書』 「プランゲ文庫」中の雑誌『汎交通』 外務省文書・「ポツダム」宣言受諾に関し、瑞西(スイス)、瑞典(スウェーデン)両国を介し連合国側に申入れ関係 外務省編『終戦史録』(北洋社、昭和五二年) 入江俊郎著『憲法成立の経緯と憲法上の諸問題』―入江俊郎論集(入江俊郎論集刊行会、昭和五十一年) 井出孫六著『抵抗の新聞人 桐生悠々』(岩波新書、一九八〇年) 江藤 淳責任編集『占領史録 第3巻 憲法制定過程』(講談社、一九八二年) 近代日本社会運動史人物大事典編集委員会編『近代日本社会運動史人物大事典』(日外アソシエーツ、一九九七年) 鈴木安蔵著「憲法学三十年」(評論社、昭和四十二年) 高柳賢三・大友一郎・田中英夫編著『日本国憲法制定の過程』 法政大学大原社会問題研究所編『民報 東京民報(1)』(復刻シリーズ 戦後社会運動資料)(法政大学出版局) 森戸辰男著『遍歴八十年』(日本経済新聞社、昭和五十一年) 『[現代日本]朝日人物事典』(朝日新聞社、一九九〇年) 『日本人名大辞典』(講談社、二〇〇一年) 『朝日新聞』昭和二十年~二十一年 『毎日新聞』昭和二十年~二十一年 『読売報知』昭和二十年~二十一年 総合雑誌『新生』創刊号(一九四五年十一月)―第二巻第二号(一九四六年二月)
by kenpou-dayori
| 2013-12-20 17:11
| 自著及び文献紹介
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