岩田行雄の憲法便り・日刊憲法新聞

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2013年 12月 21日

憲法便り#511 自著紹介③:岩田行雄編著『外務省と憲法第九条』(刊行のことば)

2013年12月20日

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正式なタイトルは、『外務省と憲法第九条―外務省極秘文書、内部文書を出発点に、内閣法制局、憲法問題調査委員会(通称「松本委員会」)、民間の憲法草案、GHQ文書を辿り憲法制定過程の真相に迫る資料復元と時事問題の書』と、長い副題が付いている。
二番目の著作『平和憲法誕生の真実』の刊行で一段落したと思っていたが、外務省外交史料館および国立国会図書館憲政資料室における調査で、外務省が三十年経過で公表した外交資料の中に、多数の憲法関係資料が存在することが判明した。
調べてみると、外務省と憲法九条の関係を深く追求した研究はない。したがって、『外務省と憲法第九条』と銘打って、真正面から取り組んだのが本書である。
幸い、30年経過で外交文書、外務省文書が公表されたから、検証や研究が可能であった。
秘密保護法では、秘密指定された文書の公表は、最長60年を可能としており、そのようなことが罷り通れば、事実上、検証は不可能となる。
それゆえ、刑罰による罰則規定を具備した「特定秘密保護法」なるものは、絶対に許してはならない。廃止すべきである。
本書は、B5判、287頁、一冊200円。2,000円の誤りではない。
憲法関係の出版はこれを最後にして、16-18世紀ロシアの書籍文化史研究に戻るつもりだったので、全国各地の多くの方々にご協力いただいた「韓国講演のためのカンパ」の残額(あとで計算してみるとこれは残額ではなかったが)をすべて印刷代の廻したため、このような価格設定が可能であったが、1冊売る毎に、500円の赤字となった。
予約注文が1,500冊を上回り、1,700冊を刊行したが、即完売となった。
以下、「刊行の」「目次」「主な参考文献」「あとがき」を掲載する。

【刊行のことば】
 このたび新たに『外務省と憲法第九条』を刊行することを大きな喜びとするものです。
昨年四月に『平和憲法誕生の真実』を三千冊出版した段階では、憲法に関する普及書の執筆はこれで最後になるものと考えておりました。
しかし今年四月に、外務省の外交記録の中に約九十点に及ぶ憲法関係資料が存在することが判り、従来の研究でほとんど触れられていないことも判りましたので、出版を決意した次第です。
文書は、外務省が三十年経過で一九七六年に行った第一回、第二回公開外交記録(マイクロフィルム版)の中にありました。文書の作成は、敗戦の翌月である一九四五年九月に始まっています。詳しいことが判ったのは、二〇〇四年から足掛け六年通い続けている国立国会図書館の憲政資料室に於いてです。
国家の最重要機関である外務省文書の中に出てくる「不純物(内大臣、枢密院など)を除去すること」、「特権階級の絶滅を期すべきなり」、「軍国主義の抹殺」などの言葉は驚きです。明快であり、「過激」でもあります。軍の消滅を惜しむ声は全くありません。
また、外務省での一連の第九条研究は優れた啓蒙の書です。日本の永世中立国化、日本と朝鮮半島を中立地帯とする構想の検討があったことも注目に値します。
外務省の憲法関係資料に気づいたのは、今年五月十六日に予定していた講演の準備をしていた時のことでした。
私は、講演を行なう度ごとに、帰りの乗り物の中で、その日不十分だった点、失敗した点について反省をし始めます。そして、さらに研究を重ね、より良い講演を目指します。そして、それぞれの講演ではその前日までの研究成果を駆使して、最善を尽して来ました。
しかしながら、ひとつの大きな課題が残っていました。それは、憲法をめぐる当時の日本社会の実相を明らかにしきれていない、漠とした点が残ることでした。そのため、かなり緻密な研究を積み重ねてきたつもりでも、常に「画竜点睛を欠く」というような思いがありました。
これまで憲法制定過程は、「松本委員会」対GHQという対立軸の狭い範囲で捉えられてきました。そして、その論議の対象は、成立過程に直接関係したごく一部の人々の動静であり、国民が何を望んでいたのかという最も重要なことについては語られてきませんでした。唯一の例外は、「憲法研究会」についての言及です。
しかし、国家の最重要機関である外務省の文書の中に存在していた憲法関係文書に光を当てることにより、新たな視点からの検討が可能となりました。そして、日本社会の実相に基く対立軸を明確に描くことが出来ました。
それは、外務省資料を加えての「日本国民への明治憲法押し付けに固執する松本委員会」対「憲法の民主的改革を望む幅広い国民」という対立軸です。これは日本で始めての、具体的で明確な提起と言えます。
「憲法の民主的改革を望む幅広い国民」には、「憲法研究会」に集った人々のみならず、改革を望み憲法改正草案作成に携わった研究者、弁護士を含む法律家、ジャーナリスト、政治家、政党、官吏、市民、さらに松本委員会の中の少数意見、及び新聞記事、雑誌論文、世論調査等に示された広範な国民各層の意見が含まれます。
こうした視点から検討をすると、これまで省みられることのなかった民間で個々に発表された草案も、当時の国民の意見として大きな意味合いを持ち、光を放ちます。
この提起を揺るぎないものにするために松本委員会、法制局、外務省の憲法改正草案のみならず、民間で作成された個々の憲法改正草案にもすべて目を通し、当時の『朝日新聞』、『毎日新聞』、『讀賣報知』新聞をも読み返しながら検証を行ないました。この検証の過程で数多くの「発見」がありました。天皇と天皇制、戦争責任追及は勿論のこと、朝日、読売をはじめとする報道機関の民主化、農業の民主化、国語の民主化運動、お相撲さんも民主化、警察改善、官僚制度改革等、日本の民主化が日常的に新聞の見出しとなっていました。
この時代には、自由、平和、民主主義、憲法改正、戦線の統一を求める思想、信条、党派を超えた巨大なエネルギーがありました。深刻な食糧不足、失業問題を抱えながらも、日本の再建が熱く語られていました。
これらを感じ取って頂くため、収録を大幅に増やしました。従って、内容は当初予定した『外務省と憲法第九条』という狭い範囲を大きく超えましたが、本書の出発点を明確にするために標題をそのままとしました。
本書では、敗戦直後からの憲法改正を巡るを動きを同時並行的な記述に近づけるため、外務省、法制局、民間の研究団体「憲法研究会」、政府が松本烝治を委員長として組織した憲法問題調査委員会等について、それぞれの章を細かく設定して説明を行なっています。社会の状況を伝えるため、重点的な【時事解説】も挿入しました。
本書の執筆で、ようやく、竜に睛(ひとみ)を描き入れることが出来たと思います。
今回も、自費出版を選択し、歴史の真実以外からは如何なる制約も受けずに、本の完成を目指して来ました。
発行日を八月二十七日としたのは、パリ不戦条約(正式名称は「戦争放棄に関する条約」)が締結された一九二八年八月二七日を記念してのことです。
表紙をライトブルーにしたのは、それなりの理由があってのことです。『平和憲法誕生の真実』の桜色は、憲法公布の日に紅白のお饅頭が配られたとの友人の話に因んで、『検証・憲法第九条の誕生』の白に合わせてのことでした。今回のライトブルーは、前二作と併せて、フランスの三色旗を想い描いてのことです。
この本は、前回の『平和憲法誕生の真実』と同様、講演活動の中から生まれました。従いまして、これまで講演にお招き下さった方々、講演をお聞き下さった方々、著作を普及して下さった方々、カンパや励ましの手紙や電話を下さった方々に対する感謝の気持ちを込めて、価格は一冊二百円としました。採算は全く度外視です。
短く、そしてやさしくまとめた本の出版の要望を受けることがあります。それはそれなりの役目を果たしますが、やさしくまとめたパンフレットを何冊読んでも、本当に知りたいことには辿りつけません。
個人を英雄化した映画も、史実の不正確さという限界があります。ドラマは歴史の真実ではありません。例え近く予想される国民投票に勝利したとしても、改憲の策動は執拗に繰り返されます。歴史的事実にしっかりと根ざした確信がなければ、不十分さや不正確さに攻撃を向けられた場合、確信が崩れ、有効な闘いは組めません。
本書を執筆中に、東京近県に十七年間に亘り、毎月一回の学習会を開いている市民団体があると聞きました。毎回五十人近い参加者があるそうです。「改憲」を主張する元自衛官の人たちを中心とする会だということです。すごいエネルギーと持続力です。改憲勢力をあなどってはならないと思います。
憲法をめぐる最大の問題は、八月三十日の選挙結果でどのような政権が実現しても、憲法をめぐる情勢がますます切迫して来ることです。自民党も民主党も改憲派が多数をしめており、鳩山由紀夫民主党代表も改憲論者で、第九条を変えることを主張しているからです。
力強く運動を進めるためにいま最も大切なことは、原点に立ち返り、歴史の真実を我がものとし、確信を深めることだと思います。
真実は十年後、二十年後の闘いにも十分に通用します。古くて新しい攻撃である「押し付け憲法」論を、説得力により押し返すことの出来る第一級の史料として、本書を世に送り出します。
二〇〇九年八月九日(平和を祈念しつつ)
〔凡例〕
*大日本帝国憲法以外は、読み易さを優先し、カタカナを平仮名に改めた。カタカナを平仮名に改めた資料には、その旨を記した。
*旧仮名遣いを現在の仮名使いに改めた。
*カタカナ文語体の文章には濁点がなく、また句読点も非常に少なく読みづらいので、著者の判断で、濁点、句読点を付した。
 ただし、条文には句読点は追加していない。
*送り仮名を次のように改めた。
(例)及→及び、且→且つ、速に→速やかに、並に→並びに、従て→従って、以て→以って、於て→於いて
*旧字体の漢字を、現在の字体に改めた。
(例)聯合→連合、國體→国体
ただし、新聞の見出しなどでは強調するためにあえて旧字体を残した場合もある。
*難しい漢字は、読み仮名と意味をカッコ内に付した。
*編著者による(注)は、はっきりと区別出来るように、あえて(岩田注)と表記した。
*記述の対象期間はほぼ一年間なので、年号は西暦ではなく、「昭和」に統一した。
*判読不能な箇所は□□で代用した。
*大日本帝国憲法は、巻末に参考資料として収録した。
*つぎの語彙は、本文中でも適宜説明を挿入した。
[欽定憲法(きんていけんぽう)]君主の単独の意思によって制定された憲法。
【国体】主権又は統治権の所在により区別した国家体制。
【諮詢(しじゅん)】問いはかること
【諮詢機関】明治憲法下で、天皇の諮詢に応じて意見を上奏した機関。枢密院、皇族会議、元帥府、軍事参議院の類。
【枢密院(すうみついん)】天皇の諮詢機関。昭和二十二年五月二日に廃止。
【天皇機関説】天皇は法人としての国家の最高機関で、統治権は国家にあると、美濃部達吉らが唱えた学説。明治憲法の解釈では、国家の統治権は天皇にある。
【大権(たいけん)】明治憲法下、広義には天皇が国土・人民を統治する権限、即ち統治権。狭義には憲法上の大権として、帝国議会の参与によらず、輔弼(ほひつ)機関のみの参与によって天皇が行使する権限
【内大臣(ないだいじん)】天皇の側近。昭和二十年十一月二十四日に廃止。
【内府(ないふ)】内大臣の別称
【輔弼(ほひつ)】天子の政治をたすけること

*『憲法便り#512』に続く。

by kenpou-dayori | 2013-12-21 22:09 | 自著紹介


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