1月3日
本書は、執筆途上にある『日本国憲法成立史の実証的再検討』と題する学位論文の中から、新聞報道による「憲法民主化の世論形成」、および「日本国憲法を国民がどのように迎えたか」という部分を判り易くまとめたものです。
『心躍る…』の書名は、1946年11月1日付『徳島民報』一面に掲載された《新憲法祝賀おどり》の広告の、次の喜び溢れる言葉に因んでいます。
「11月3日は新憲法公布の日だ、新日本の黎明だ、平和だ、友好だ、豊年じゃ、満作じゃ、みんなで祝う、阿波踊りが許された、踊りおどるなら華やかに踊ろう」(〔日時〕11月3日朝9時から夜11時まで〔会場〕市役所前〔主催者〕徳島商工会議所と徳島民報)。これが当時の国民の姿です。
調査した65紙に関しては、上記の標題紙に示してあります。新聞名を四角で囲んであるのは、調査した当時に国会図書館に所蔵がなかったので、各地の県立図書館(広島は市立図書館)を訪問して、現地調査したものです。
【本書の特徴】
本書は、私が二〇一〇年末以来準備をしてきている博士論文『日本国憲法成立史の実証的再検討』から、新聞報道及び国民の動きに関する部分を纏めたものである。
研究の手法は、国立国会図書館、国立公文書館、外務省外交史料館、各県立図書館等の原資料に依拠し、あくまでも実証的研究を基本としている。
本書の最大の特徴は一九四五年八月から一九四七年六月までの期間が調査可能であった戦後の新聞六十一紙の報道に基き、歴史的事実の検証を行っていることである。地方紙の存在を強調するため、紙名を標題紙に掲げた。
敗戦後、日本の国民は、食糧難とあらゆる物資の欠乏に苦しみながら、焦土、そして廃墟の中からの復興の努力を続けた。この時代の重要なキーワードとなったのは、戦争への反省を踏まえた「平和国家」、「文化国家」、「民主主義国家」の実現であった。
その中でも特に「民主化」は単なるスローガンではなく、日本の社会のあらゆる分野で「民主化」が提起され、具体的な改革が進められた「戦後の改革」の柱であった。そして「憲法の民主化」も、日本の将来に関わる最重要な問題として提起された。この「憲法の民主化」の世論形成を最も大きく担ったのは、新聞報道であった。
従来の日本国憲法成立史の研究では、主に「日本政府対GHQ」という対立軸で考えられてきた。そこでは国民や地方紙の存在について詳しくは触れられてはいない。
しかしながら、戦後の憲法改正問題に関する資料を精査し総合すると、新たな対立軸が浮び上がってくる。
この新たな対立軸とは、「日本国民への明治憲法押し付けに固執する松本国務相」対「憲法の民主的改革を望む幅広い国民」である。後者には、改革を望み憲法改正草案作成に携わった研究者、弁護士を含む法律家、ジャーナリスト、政治家、政党、官吏、市民、さらには通称「松本委員会」の中の委員、閣僚、新聞の社説、新聞記事と投稿、書籍、雑誌論文、世論調査等に示された広範な国民各層の意見が含まれる。
本書の主要な部分は、第九十回帝国議会で審議が始まるまでの過程(第一部―第三部)と、新憲法公布と施行の際の祝賀行事及び祝賀広告(第四部―第六部)から成っている。第九条に関する第九十回帝国議会での論議の詳細は、すでに拙著『検証・憲法第九条の誕生』で明らかにしているので、同書を参照して頂きたい。
戦争協力への反省を表明して以後、当時の新聞は翼賛報道をやめ、権力の代弁者とはならず、権力との距離を保ち、ジャーナリズムが本来あるべき「批判者」の姿勢がはっきりとしていた。
現在のマスコミが、戦前のような翼賛報道一色に染まらないことを強く望みたい。
本書は、日本国憲法成立史に関する書であると同時に、社会正義に立ち、真実を伝える努力を続けているジャーナリスト、言論・出版・報道に携わる人々への期待と激励の書でもある。
平和憲法誕生の時代に記者として活躍なさった方では、元北海道新聞の富原薫さんと電話で話しただけだが、多くの記事を残して下さった記者の方々に本書を捧げたい。
二〇一三年三月八日(国際女性デーに)
「目 次」
はじめに(4)
第一 「押し付け憲法」論のでたらめ
第二 安倍首相の所信表明演説に見る国民騙し
第三 「美しい国」「強い日本」のルーツ
平和への私の思い
三つのプロローグ(12)
プロローグ①…吉田茂元首相が『回想十年』に記した「押し付け憲法」論への反論(12)
プロローグ②…ポツダム宣言受諾と憲法改正の必然性(14)
プロローグ③…報道の違いで生じる差異(17)
第一部 新聞報道により一九四五年末までに形成された「憲法民主化」の世論(21)
外務省による意図的な誤訳(21)
「ポツダム」宣言受諾による民主化及び憲法改正の必然性(22)
民主化を進めなかった東久邇宮内閣(22)
法制局が自主的に行った憲法改正案研究(24)
外務省内での自由闊達な論議(26)
内大臣府の憲法研究(28)
憲法改正に消極的だった幣原内閣(31)
幣原内閣が憲法問題調査委員会を設置(33)
「平和」及び「平和国家」論の社説登場(38)
日本全国に吹く民主化の風(39)
憲法民主化の世論(41)
日本国憲法の原型「憲法研究会」案の報道(44)
書簡・出版物等に見る「憲法民主化」論(51)
第二部 新聞報道により追いつめられる松本国務相と幣原内閣(60)
憲法問題調査委員会無視の松本路線(60)
閣議における初めての憲法論議(64)
一月の新聞報道(64)
二月一日・衝撃の「スクープ」報道(66)
全国二十一紙の「追い打ち」報道(68)
日本輿論調査所の調査結果(70)
GHQの動き(70)
GHQ民政局の憲法制定会議(74)
二月十三日・外務大臣官邸(74)
松本国務相への不満が爆発した二月十九日の閣議(80)
「押し付け憲法」論の始まり(82)
政府案作成を閣議決定(84)
松本・ホイットニー会談(86)
「戦争放棄」の原点は「パリ不戦条約」に!(87)
松本・ホイットニー会談以後について(88)
「政府、難局に直面」報道(90)
第三部 政府案についての国民的論議(92)
三月六日政府案の全文報道及び社説(92)
政府案の対する各党の態度(97)
「松本体制」から「金森体制」へ(98)
「憲法研究会」による批判的な声明(98)
讀賣新聞社主催『憲法草案批判講演会(99)
「庶民大学三島教室」主催の討論会(101)
各省庁の反応(102)
司法の民主化及び司法改革(103)
共和制を規定した二つの憲法草案(105)
二つの世論調査に見る国民の意見(105)
国民の国語運動と「ひらがな口語体」草案の実現(108)
『憲法改正草案逐条説明』及び『憲法改正草案に関する想定問答』(110)
第四部 新憲法公布の記念行事(113)
北海道・東北地方(114)
関東・甲信越(134)
北陸・東海地方(151)
近畿地方(164)
中国・四国地方(172)
九州地方(186)
第五部 新憲法祝賀広告・・・大企業からキャバレーまで、そして露天商の組合も!(200)
北海道・東北地方(203)
関東・甲信越(204)
北陸・東海地方(206)
近畿地方(208)
中国・四国地方(210)
九州地方(212)
第六部 憲法普及会による多彩な活動
(一九四六年十二月―一九四七年十一月)(216)
『新しい憲法 明るい生活』の前文(216)
憲法普及会の創設(217)
第一項 講習会及び講演会(218)
第二項 出版・刊行物による普及活動(219)
第三項 芸能並びに民衆娯楽による啓蒙運動(220)
第四項 記念作品の募集(223)
第五項 諸団体との提携事業(229)
第六項 記念週間の設定並びに行事(229)
平和精神昂揚運動(231)
結びにかえて・・・吉田内閣の答弁より(234)
主な原資料と参考文献(236)
おわりに(237)
表紙デザイン 岩田行雄
※本書『心踊る平和憲法誕生の時代』の注文については、
こちらから
歴史的事実をもって、安部首相と石原慎太郎議員の「押し付け憲法」論のデタラメを打破するこの本が十万部普及すれば、闘いは必ず勝てると思っています。
自公政権とその補完者である維新の会の暴走を食い止め、憲法改悪を阻止しましょう。