憲法便り#571 司法改革は喫緊(きっきん)の課題―静岡地裁による袴田巌さんの再審決定に思う!
「これ以上、拘置を続けるのは、耐え難いほど正義に反する状況にある」。
これは、捜査機関の証拠捏造を認定して、再審の決定を読み上げた静岡地裁裁判長が最後に述べた言葉である。
戦前からの「化石」のような静岡地検は、再審決定を不服として、東京高裁に即時抗告をすると伝えられているが、彼等に正義はない。
再審を直ちに開始し、袴田さんの無罪を決定すべきである。
日本国憲法の制定過程では、昭和20年10月の段階から、司法の民主化と司法改革について、様々な提案が行われている。
私は、以前からこの問題に注目し、執筆途上にある論文でも詳しく取上げている。
その中から、『心踊る平和憲法誕生の時代』でも、103頁から104頁にかけて、要点を簡潔に示してあるので、ここで、紹介しておこう。
これを見ると、先人が問題点を網羅して改革案を述べていること、それに反して日本の司法が如何に旧い体質のままで存在し続けているか、その原因はどこにあるのかが良く判る。
岩田行雄編著『心踊る平和憲法誕生の時代』より
【司法の民主化及び司法改革】
戦時下の法体系から、戦後の社会改革、経済復興に合わせた法律の改廃が進められたが、それに止まらず、「司法の民主化」の問題提起が数多く行われた。憲法学者は保守的な意見の人物が多かったが、他の分野の法学者、弁護士、さらには新聞が積極的な提言を行っている。
当時の裁判所は、司法省の管轄下に置かれており、三権分立は特に大きな課題であった。
政府の三月六日草案発表以前の新聞報道に見る司法改革の提言には、次のようなものがある。
『讀賣報知』一九四五年十月十九日「社説」「司法制度を改革せよ」
『毎日新聞』一九四五年十一月十四日「社説」「司法権の確立を望む」
『朝日新聞』一九四六年一月一日一面記事「司法制度を根本改革」
①「裁判所と検事局分離 判検事に弁護士任用」
②「予審を廃止」
③「三権分立を推進」
『東京新聞』一九四六年一月五日「検事至上主義脱皮」
『毎日新聞』一九四六年二月十四日社説「徹底せる司法制度改革を」
『朝日新聞』一九四六年二月二十四日「声」欄「司法の民主化」・今村力三郎の投稿
また、政府案発表後、『法律時報』が司法制度に関する論文を、次のように積極的に掲載している。
①末弘嚴太郎著『憲法改正案の司法規定について』(『法律時報』一九四六年四月号三頁)
②中村宗雄著『司法制度の民主化』(『法律時報』一九四六年六月号三頁)
③鈴木義男著『司法制度の改革』(『法律時報』一九四六年六月号七頁)
④岡林辰雄著『司法制度の民主化』(『法律時報』一九四六年六月号十頁)
さらに法曹界からは、政府案に対して、司法に関する条文の修正提案が行われている。
一つは、司法改革同士会の『改正憲法改正草案に対する修正案』。「同志会」という名称を見た瞬間は右翼的な感じを受けたが、この修正案は一九四六年五月十七日付で作成され、前文と六項目から成る司法の民主的改革を目指す具体的提案である。例えば、
「最高裁判所長官は、弁護士又は判事の中から任命する」こと、「最高裁判所の裁判官」及び「下級裁判所の裁判官は、弁護士の中から任命する」ことを提案している。
これは、学生生活から社会経験がないままに裁判官になり、化石と評されるほど一般社会とかけ離れた非常識な官僚集団と化した裁判官の現実を変革するためである。
第七十九条では陪審制、いまの裁判員制度より、もっとハッキリした、アメリカ映画でよく見るような陪審制を提案している。これは、「裁判も国民のためのものでなければならない」という立場からの提案である。この制度は、被告人または弁護人から要求があった場合には、第一審の裁判所は事件を陪審に付さなければならない。陪審員の審議で「無罪」の評決が出た場合には裁判は終結する。
もう一つは、日本弁護士協会と東京弁護士会が共同で一九四六年六月に発表した『政府の憲法改正案に対する修正案とその理由』(文献③の一一七)
この提案は、司法改革同士会の提案より二項目多いが、内容はほとんど同じで、文章も全く同じ箇所があることから、起草する段階で同じ人物が関わっていたと考えることが出来る。
※本書『心踊る平和憲法誕生の時代』の注文については、
こちらから歴史的事実をもって、安部首相と石原慎太郎議員の「押し付け憲法」論のデタラメを打破するこの本が十万部普及すれば、闘いは必ず勝てると思っています。
安倍政権とその補完者である維新の会の暴走を食い止め、憲法改悪を阻止しましょう!