2014年09月03日
ここに紹介する昭和20年9月3日付『福島民報』の社説は、他紙に先駆けて、敗戦後、最も早く「平和国家」について論じた画期的な文章です。
九月二日付「詔書」および「降伏文書」では、国民を「臣民」と呼んでいますが、『福島民報』の社説では、「国民」と表現しています。
文章全体も、自由民権運動が最も盛んに展開された土地柄の福島県民らしい、「肚」のすわった文章です。
旧字体の漢字は、新字体に改め、旧仮名遣いも改めました。
昭和20年9月3日付『福島民報』一面掲載の「社説」。
「平和建設への強力な拍車」
「さきに時局収拾に関する大詔が渙発されてから約半月、停戦協定は極めて平和裡に成立した。同協定はいう迄もなくポツダム宣言を内容とする峻厳な降伏文書である。帝国が連合国に対し、完全に敗北し、完全に降伏した事実を、帝国政府の名に於て確認し、帝国に課せられた降伏条件を忠実に履行すべきことを確約した帝国の降伏文書である。われら国民の感情としては之を正視するに忍びないものであるが敗戦と降伏の惨憺たる境地からわれらの祖国を再建するためには、われらは断乎この感情を抑制し冷静に大胆に敗戦と降伏の事実を直視し之に対処するために最善の努力を払わねばならない。首相が告諭で御指示あらせられたように「潔ク降伏ノ事実ヲ直視シ、勅ヲ畏ミ飽クマテモ冷静秩序ヲ持シ政府及大本営ヨリ命セラルル所ニ□由シテ大道ヲ誤ラサル行動ニ終始」しなければならない。然うすることが祖国を救い祖国を再建するただ一つの途なのである。敵側で帝国が全面降伏を決定してから今日まで、われら国民は未だ嘗て経験したことのない歴史的な狂瀾の裡に立ったのであるが、爾来今日まで政府も国民もこの難局に対する大乗的措置に過らず、よく大国民としての態度を保持してきたのは、国民とともにわれらの窃かに悦びとするところである。しかし過去半ヵ月の苦難は、今日以後更に何カ月、何十ケ月となく続くであろう苦難に比するならば恐らく物の数ではなかったのであろう。日本及日本国民の行く手には、物心両面に於て真に忍び難いような苦難が待ち構えているものと覚悟せねばならない。今ではそれが日本国民に課せられた不可避の運命である。だが、われらは文字通り石に嚙付いてでもこの苦難を克服せねばならない。日本及日本国民の名誉に賭けて□に連合国に対する降伏条件を完全に履行するばかりでなく敗戦日本を世界最高の理想国として再建するために、国民の全力を余すところなく傾注しなければならない。國體を護持し正義と平和とを基盤として、新日本の平和建設に邁進せねばならない。
全連合国進駐軍の兵数は漸増し、進駐地区は更に増大され、連合国の飛行機の爆音は不断にわれらの耳朶を打つであろう。連合国は固より世界を挙げてわれら国民の国家再建の努力を凝視するに相違ないのである。この間に処して、われらは如何にその政治態勢を改善し、如何に精神文化の向上を図り如何に科学水準を上昇せしめるか、これはまさに世紀的大事業である。一方に於て降伏条件の完全履行という重荷を背負いながら、しかも一方に於ては世界を驚倒せしめる程の理想国の再建という文化的な一大展望の実現を期するのである。敗戦と降伏とは永久に拭い去ることの出来ぬ国民的屈辱であるが、この屈辱から日本及日本国民は新しい希望を目指す契機を掴むことが出来たともいえる。さきに渙発せられた時局収拾の大詔に於て「□□ヲ□クシ志操を鞏クシ國體ノ精華ヲ発揚シ世界ノ邁進ニ後レサランコトヲ期スヘシ」と仰せられたのは屈辱の彼岸に日本国民の生々発展すべき新天地の存することを御□示あらせられたものと拝察する。
このように日本及日本国民の進むべき途は昭々乎として一点の難を容れる余地がない。降伏条文の調印完了という事実は
却って日本及日本国民の平和建設への努力に拍車をかけるであろう。ただこの平和建設への努力は、政府並に一般指導層の猛省と勇断を必要とし、国民の努力は飽くまで組織的且つ能率的なものに仕組まれねばならない。国民の肚は出来ている。平和建設に対する政府当局の最善の努力を重ねて希求してやまない。
※平和憲法を守る闘いに寄与するため、5月に下記の新著を緊急出版しました。
『世論と新聞報道が平和憲法を誕生させた!』
―押し付け憲法論への、戦後の61紙等に基づく実証的反論―
(これは『心踊る平和憲法誕生の時代』の改題・補訂第二版です)
闘いは、まだこれからも続きます。「押し付け憲法」論、自主憲法制定論に対する闘いに、是非とも本書を活用していただきたい。
ご注文は、下記の書店へ
美和書店 電 話03-3402-4146
FAX 03-3402-4147