2013年 09月 06日
すべての新聞に先駆けて書かれた9月3日付『福島民報』の社説、天皇の詔勅を受けた翌日の9月5日付『朝日新聞』社説に続いて、「平和」を論じた三番目の社説で、9月5日の東久邇宮首相の施政方針演説を受けた翌日の6日に発表されています。
社説「平和建設の道」
「東久邇首相宮殿下には、開会劈頭の議会において、敗戦に至る諸般の経緯、新しい事態に処する国民の覚悟、今後施策の要点などについて詳細に論ぜられた。烈々たる闘魂を懐き、且つ吾が戦力について揺がぬ信念を持していた国民としては、戦争終結の大詔は誠に青天の霹靂と称すべきものであったが、今戦力の実情を窺い、事の茲に立ち至らざるを得なかった理由を知って、□めて驚愕を新にするのである。航空機の生産額といい、船舶の保有□といい、久しきに亘って楽観的な解釈を注入されて来たのであるが、今にして思えば、吾々は文字通り精神力のみを以て戦って来たのである。固より精神力は最も重要視すべきであるとしても、かかる貧弱な物力によって無量の感慨を禁じ得ないのである。広く世界の諸国民も、日本がかかる物力を以て茲まで勇戦力闘を続けて来たことに深き驚きを感ずるであろう。
勿論吾が国の敗北を決定したものは、ひとり物力にとどまらぬ。物力というも一塊の士のことではなく、凡てこれ科学により精神によって媒介された機械であり生産物であるに外ならず、考えて茲に至れば、敗北は実に物心両面に及ぶ全体的の根柢に立つものと観ぜざるを得ない。これを強いて物量の敗北となすものは、好んで真実に眼を蔽わんとするものである。今回の敗北が偶然や過失に基づくものでなく、真実の力の不足に由来すること、偶然や奇蹟の入り込む隙のない近代戦の面目が遺憾なく発揮されていることを、首相宮殿下の御言葉は国民の前に明らかに示されている。宣伝の重要なる所以は何人もこれを疑わぬが、戦争の最後を、戦争の全体を決定したものは、やはり真実の力以外にはない。それ以外は凡てこれ一片の挿話に過ぎぬものである。
だが真実が決定的の意味を持つのは、単に戦争ばかりではない。吾々は新しく偉大な平和の曙に立っているが、この平和もまた真実を措いて何処にもその足場を求めることは出来ぬ。世上往々に信ぜられる如く、平和とはただ戦争の終った状態ではなく、また戦争の欠けた状態ではない。平和はそういう消極的なものでなく、実に人類の、国家の総力を挙げて営々とその建設に努力すべき積極的のものである。凡ゆる努力を傾けて漸く確立し、確保し得べきものである。これを保守的に或は消極的に考えたところに、第一次世界大戦後における戦勝諸国の許し難い無気力と過誤とがあり、また第二次世界大戦の究極の因由もこの点に認めらるべきものであった。
今や実現せらるべき平和は、かかる□□の轍に顧みて、積極的且つ計画的に樹立せらるべきであるが、この問題については第一に諸国民の平和への意思が重大である。吾が国は既にこの意思を聖旨によって中外に宣明した。今後吾が国民の努力はこの聖旨を如何に実現するかに向けられねばならぬ。だが平和への意思が一切を決定する如く信ずるは、総てを捧げて精神力に委ねるというに等しい。それ故にこの意思と共に、第二に必要なのは、各国民の生活の実情、その条件としての経済的な力の真実である。この条件の下に如何なる物質的福祉が実現せられ得るかの問題である。これは一国民の意思のみでは動かすことの出来ぬ事柄であって、諸国民の協力を俟って始めて改善し処理し得るところである。戦争の帰趨を最後的に決定したものが何物も蔽い得ない赤裸々の国力があったと同様、今後の平和に断乎たる基礎を与えるものも、各国の国力に関する真実である。この真実を承服し、その上に平和への意思に基く新たなる均衡ある組織を形作って行くことによって明日の平和は約束されるのであろう。第一次大戦後における所謂平和愛好国は、多くの場合かかる真実を直視せず、却って無力なる□□に頼ることによって新しい戦乱の可能性を作り出したのであった。この経験が二度と繰返されてはならないのである。吾が国も世に平和への意思を表明するのみでなく、進んで真実に基礎をおく平和の確立のために凡ゆる努力を惜しむべきではない。
「和を結ぶのは戦うのより恐ろしい」と一九一九年春クレマンソーはいったが、勝利者にとってさえも恐ろしい講和を、日本は敗者として結んだのだ。まだ今のところは戦争が終ったという結果しか生れていない。敗戦の苦悩と、これに劣らぬ平和建設への苦悩とは、漸く今後に至って現われるものである。飽くまでも真実に立脚しながらこの苦悩を乗り越えて行くのが、吾々に残された唯一の道であるといわねばならない。」
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『世論と新聞報道が平和憲法を誕生させた!』
―押し付け憲法論への、戦後の61紙等に基づく実証的反論―
(これは『心踊る平和憲法誕生の時代』の改題・補訂第二版です)
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