人気ブログランキング | 話題のタグを見る

岩田行雄の憲法便り・日刊憲法新聞

kenpouq.exblog.jp
ブログトップ
2014年 09月 11日

憲法便り654 必見!「平和日本の産業復興」(昭和20年9月11日付『長崎新聞』社説)

昨年9月11日に『憲法便り#286』「日本民主化の日歴」で紹介した『長崎新聞』の「社説」の再録です。
8月9日に原爆を投下されてから、わずか一ヶ月と二日の時点で発表されたものです。

これは、当時の社説の中で最も優れた社説です。
すでに紹介した朝日、毎日、讀賣の三大紙の社説と違って、天皇の詔勅や東久邇宮首相の言葉におもねることなく、自らの言葉で、ポツダム宣言の条文の解釈を問い、平和日本の産業復興を真正面から説いています。「骨太」とは、こういう言説を指します。

昭和20年9月11日付『長崎新聞』社説「平和日本の産業復興」
「戦争終結と共にわが産業界は極めて大規模且つ困難なる再編成、再転換の渦中に投ぜられた。ポツダム宣言に規定する各種の制約の下、巨大なる賠償物資の重圧に耐えつつ遂行さるべき点に於てその困難さは更に数倍する。而して日本が直面する現実の事態が国民食糧確保について極めて大いなる努力と工夫を要すべき事情にあることは衆知の事実であり、更に国民生活に欠くべからざる各種の、資料、鍋釜、コンロ等の最も手近なものですら、極端なる窮乏の状態を示して居ることも悲痛なる事実なら、住居、衣料等に関し、単に雨露を凌ぎ、暖を保つに弛ものさえ行届き得ぬことを憂えしめるのも、之亦胸を抉(えぐ)る現実なのである。一般的無差別的な焼爆攻撃の被害はかくも深刻なのであって、平和日本産業再編の第一重点として民主的平和産業復興の急務なること真に眉を焦がす程のものがある、と云わなければならぬ。
 連合国側が純平和的なる産業の復興□作に就て、格別干渉の意思も権利も有せざることはポツダム宣言の条項に照し当然のことであろう。しかも之等純平和産業と雖も、その所要器具、所要資材、所要設備の点にふれるやこれが調達には各種の重工業、化学工業の協力を要するのであって、ポツダム宣言を最も峻烈無残に適用する場合、忽ち幾多の疑義を生ずることを免れぬ。宣言に所謂軍事産業□絶の意義並に範囲如何『原料資材の入手(支配と区別す)を許容す』と云う同宣言の解釈如何。終戦の際に当り日本産業界が、昏迷状態に陥り一種気抜けの相貌を呈し、現在なお到底立直ったと云い得ぬのは、事態の急変、真に已むを得ぬ所としても、又一面、降伏文書の内容たる産業関係の諸条項が極めて抽象的且つ微妙であって寛厳自在、むしろ生かすも殺すも一に連合国側の解釈に係る、とも云い得る□幅広きものであり、敗戦国たる悲痛な立場上、これが適正なる解釈に甚だ昏迷を覚えたこと云うことも亦強力なる一原因であったことを掩い得ぬ。重光外相は過般来、マックアーサー司令部との間に折衝を重ねた結果、連合国側の本問題に対する態度は相当理解あるものであって、我国の社会経済秩序維持、国民生活の安定に関し必ずしも苛酷を極めるものでないことが判明し、一二の重要産業に関しては、具体的内容にまで入って諒解に到達したと伝えられることは、日本産業再建の前途に一の炬火を□したものと云うを憚らぬ。
 併し乍ら、日本の経済を維持し賠償物資□□の能力を保有するに必要な産業はこれを維持せしむべき旨はポツダム宣言に於ても明らかに規定する処であり、しかも連合国は日本人を民族として奴隷化せんとし、又は国民として滅亡せしめんとするの意図を有せざることは彼等の犀々言明せる処なのであるから、たとえポツダム宣言に云う所の『戦争のため再軍備をなすことを得しむる如き産業』の範囲、内容に関し解釈上幾多の疑義は存するにしても、その目的、用途さえ純平和的、平和的である限り、常識に所謂軍需産業であっても、これを平和的産業に切換えるに、理論上遠慮は要らぬ筈である。即ちわが産業界としては一々受動的に連合国側の指示を俟つ迄もなく、誠実、真率たるポツダム宣言履行の根本方針に立つ限り、必要なる作業転換は此の際、急速、大胆に、自らの責任において実行する程の気魄と信念とを持すべきものであろう。此の場合正当なる国家機関を通じ連合国側最高機関との連絡、諒解の手続きを苟くもすべからざるは固よりである。
 嘗て特に平和的産業の諸部門に於て世界の最高水準にまで到達した日本である。戦後世界復興の為、平和日本の荷うべき産業的役割は決して軽からざるものであることを確信する。しかも現に日本は、国内民生の最低限確保の為にすら、今後永きに亘ってあらゆる困難を□べき運命にあることは、これを敗戦の責任に処すべきは無論としても、連合国側に於ても亦□に十分なる認識と考慮とを要請せざるを得ぬ。日本経済連盟其他の四団体が、日本経済再建のため五項目に亘る目標を定め、これがため連合国側の公正なる判断を要請したことは、真に時宜を得た措置と云うべく、今後わが産業界としてその実相を明かにし、平和建設の為の所要に応ずべく、的確なる資料と真率なる決意を表明するにあらゆる機会を逸してはならぬのである。」

※平和憲法を守る闘いに寄与するため、5月に下記の新著を緊急出版しました。
『世論と新聞報道が平和憲法を誕生させた!』
―押し付け憲法論への、戦後の61紙等に基づく実証的反論―
(これは『心踊る平和憲法誕生の時代』の改題・補訂第二版です)

闘いは、まだこれからも続きます。「押し付け憲法」論、自主憲法制定論に対する闘いに、是非とも本書を活用していただきたい。

ご注文は、下記の書店へ
美和書店 電 話03-3402-4146
FAX 03-3402-4147

by kenpou-dayori | 2014-09-11 14:00 | 社説


<< 憲法便り#657 新潟日報社説...      憲法便り#655 必見!社説「... >>