2014年9月12日
安倍内閣が、日本を「戦争が出来る国」にしようとしている今、「平和国家論」の優れた「社説」として、是非とも多くの人々に読んで欲しい文章である。
敗戦から一カ月も経たない時点の文章であるから、この論説の筆者には、まだ戦前からの思考の残滓もあるが、文章全体は高く評価出来る。
この社説は、9月10日付『毎日新聞』によるものだが、9月12日に『新潟日報』が『毎日新聞』の社説を借用している。
米軍の爆撃により壊滅的な打撃を受けた『香川日日新聞』および『徳島新聞』は、当時、『毎日新聞』(大阪本社)に紙面の編集委託をしており、9月10日に全く同じ社説を掲げている。
さらに、翌9月11日に『福島民報』が借用し、掲載している。したがって、『毎日新聞』の社説を、他の四社が掲載したことになる。
社説「平和国家の使命」
「文化とは人類の生活を、より高く、より美しく、より良くせんがための努力であり顕現である。従ってその究極するところは当然平和の状態でなければならない。最近数年間戦争文化という言葉が用いられて来たが、こうした言葉は逆説的であって、むしろこうした言葉が用いられるところに文化が本来平和のためであるべき真実が潜んでいると考えられるのである。大御心に従い奉って日本は平和国家として、人類の文化に寄与すべき国家として再建されることとなった。聖旨畏しとも畏し、今は億兆一心ひたすら文化日本の建設に邁進すべきときである。
日本人が知識を世界に求めるに吝かならぬ民族であったことは歴史が証明している。仏教の伝来然り、奈良朝時代における唐代の文物制度の移入採用また然り、幕末における西洋事物の探究の如き日本人の旺盛なる知識欲、未知に対する絶大なる関心をよく物語っているのである。日本はかくして短をおぎない無を塡(うず)めつつ古来の文化と渾然一体たる新文化形体を創造し民族の繁栄をその上に築き上げて来たのだった。
支那事変以来の八年間は文化的には停止期間であった。一切を挙げて戦勝という至近目的に集中する以上、文化活動も当然その埒外に止まるを許されなかったことはいうまでもないが、最も重大なことは戦争期間にあって日本が文化的に唯我独尊に陥ったことである。民族の純粋を強調するに急なる余り他の世界を忘れた観があったことである。われらの祖先は耳目に触れるあらゆるものに素朴に興味をもち、率直にこれを受入れ、自己の批判と好尚においてこれを咀嚼し消化して来たのであるが、こうした素朴が忘れられて独り自ら高しとするの観なきにしもあらずであった。徳川三百年の鎖国は短しとはいえぬ。だがある意味で過去八年は三百年より長かったとさえいえるであろう。しかもこの期間に敵国だった米英は、卑近な例をとればペニシリンを創り原子爆弾を発明している。日本だけからいえば文化の停止とみられるこの期間が、世界的相対的にみれば明かに後退であったのである。この意味で過去八年の日子は明かに三百年以上の鎖国であった。
われわれはまづこの遅れを取り返さねばならぬ。しかしいうまでもなく遅れを取返すことが徒なる競争心や敵愾心から出発するのであってはならない。ペニシリンに優る薬剤の発見は民族の幸福であること勿論であるが、進んでこれが人類の救いであることを念願としなければならない。頃日来(きょうじつらい)科学の振興、科学教育の充実が頻りに叫ばれているが、敗戦の原因が科学の貧困にあったからあというのでは余りにも功利的でとるに足らない。進んで人類の文化に貢献せんがための科学振興、科学教育であってこそ世界はこれを至当の要求として公認するであろう。首相宮殿下が「我大和民族は他の如何なる民族とも相共に携えて世界文化に貢献することによってのみ日本の将来に光明が輝くと思う。徒に優越感に捉われ或は排他的な考え方は日本の将来のためにいけないと思う」とこの意味かと拝察せらるるのである。
事がましくいうまでもなく、われわれは高度の文化を持って来た。しかし日本の文化の特質はいわば静的、内包的なものであった。日本が文化国家として再建され、これをもって世界平和に寄与するためには、在来の文化の特質に加えて動的、外延的なものをも併せもたねばならない。あらゆる文化行動はまづこの点から出発すべきである。戦争に捧げたと同じ努力をもってすれば、デンマークにもまさる集約農業国として立上り得るであろうし、スイスにも劣らぬ精密工業国として発展もし得よう。平和国家の使命はここにあり、日本民族はこのことに新たなる生き甲斐を感ずるのでなければならない。」
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『世論と新聞報道が平和憲法を誕生させた!』
―押し付け憲法論への、戦後の61紙等に基づく実証的反論―
(これは『心踊る平和憲法誕生の時代』の改題・補訂第二版です)
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