2015年3月31日(憲法千話)
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5月3日付『新潟日報』の一面下に、二段にわたる『祝 新憲法実施記念』の祝賀広告が掲載されている。
祝賀広告には、憲法普及会新潟県支部長を務めていた新潟県知事に続き、新潟市長、参議院議員、衆議院議員等が名を連ねている。参議院議員の名前が衆議院議員よりも優先的に掲載されているのは、参議院が貴族院にとって代わったものとの受けとめの反映と考えられる。
この祝賀広告の中でひときわ目を惹くのは、新潟庁裁判所長と新潟地方検察庁検事長の連名の祝賀広告である。
昭和22年5月3日付新潟日報社説「新憲法を生かすもの」
平和と民主主義の国として明るい将来を約束されている日本の政治的骨格である「日本国憲法」は去る十一月三日公布以来□六ヵ月の今日、いよいよ実施されることとなった。長い日本の歴史を通じて、日本国民を□い□□のうちに閉じ込めていた封建的な社会秩序と□□な中央集権的な政治機構とはここに抹消されて、個人の尊厳を基本とする新たな自由な政治社会秩序が与えられる。新憲法の進歩的な内容はこれを守り育てようとする日本国民の決意とともに、これは日本にとってのみならず、世界的にも一つの歴史的な日といえるであろう。
明治二十二年輝かしい欽定憲法として制定以来五十八年その精神と運営を誤って軍閥官僚の専横を許す結果をもたらしたとはいえ、ともかく近代日本の根幹をなして来た「大日本帝国憲法」はここに終止符を打ち、国民は明かに国家の主權者としての地位に立ち、天皇は神権的な統治権の総攬者から国民の総意に基く国家の象徴たる立場に移られる。国家は即ち国民であって、常に国民に犠牲を強いて来た抽象的な上部構造たる国家は、民法の「家」の概念とともにもはや存在しない。新憲法の前文は「そもそも国政は国民の厳粛な信託によるものであって、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する」として、全編を貫く民主主義の理念を人類普遍の原理あるとして明かに規定している。われわれは従来成らされて来た国家概念から、先ずこの新理念を把握し、これに徹することに努めなければならない。
新憲法の放棄的要素は、いうまでもなく国民主権、議会政治の確立、基本的人権の確保及び戦争の放棄にある。そこには日本国民が将来世界の尊敬を受けるに足る人類の崇高な理想が含められている。しかしいかに憲法の条章に」おいて進歩的内容を誇ろうとも、どこまでもその根底をなすものは個人であり、国民である。即ち新憲法をその精神と理想にそって真にこれを生かすものは、われわれ自身でなければならない。その点において国民はこの歴史的な新憲法実施の日に当って、再び日本国民に与えられた責務と努力の目標について反省を新たにしなければならないと思う。
敗戦によってもたらされた日本国民の最大の責任はいうまでもなくポツダム宣言の履行であり、日本民主化の達成である。しかも日本の民主革命は外的な力によって与えられたものであるだけに、その内部的な条件と国民の実質とは、これを自主的に健全に推進するまでに成熟していないといわなければならない。そこに多くの独断があり、観念的な行過ぎがあり、混乱がある。勿論その背景には日本の直面している種々の経済的困難もあるが、われわれはお互いの研鑽と努力によって、この障害を乗り越え、一日も早くこの民主化をわれわれ自身のものとしなければならないのである。そのためには国民個々の自我の主張から、先ず謙虚さを取り戻すことが必要であろう。
新憲法によって国政の最高機関となった国会は、すでに参議院及び衆議院の総選挙によってその基礎を整え、また憲法の施行と同時に地方自治法もまた実施されるが、これも地方首長と議員の選挙によって一応の陣容は整備された。ここに日本国民の総意を反映して、新憲法はその輝かしい発足を遂げたわけだが、これは日本の民主化の完成ではなく、あくまでもその第一歩である。われわれは日本の固い旧殻を打破して、ともかくここまで導いたマッカーサー司令部の偉業に改めて敬意を表すると同時に、日本の現実に省み、名実ともに新憲法が中正なる民主日本の根幹となるようたゆまぬ努力を続ける必要を痛感する。
(典拠は、国立国会図書館所蔵マイクロ資料・請求番号YB-28)
【今日のひと言】:新憲法の放棄的要素は、いうまでもなく国民主権、議会政治の確立、基本的人権の確保及び戦争の放棄にある。そこには日本国民が将来世界の尊敬を受けるに足る人類の崇高な理想が含められている。しかしいかに憲法の条章に」おいて進歩的内容を誇ろうとも、どこまでもその根底をなすものは個人であり、国民である。即ち新憲法をその精神と理想にそって真にこれを生かすものは、われわれ自身でなければならない。
(典拠は、国立国会図書館所蔵マイクロ資料:請求記号YB―28より)