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岩田行雄の憲法便り・日刊憲法新聞

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2015年 03月 29日

70年前の「平和国家」論の社説No.3:昭和20年9月5日付『神戸新聞』社説「平和への努力」

2015年3月29日

 昨3月28日、国立国会図書館での調査で、昭和20年9月5日『神戸新聞』一面掲載の社説『平和への努力』を確認したので、紹介します。
拙著『世論と新聞報道が平和憲法を誕生させた!』の執筆の時点では見落としており、このたび行った昭和20年9月に各紙に表れた「平和国家」論の「社説」の再点検により確認したものです。
新聞の周りが黒いのは、戦争中の火災によるものと考えられます。もっとひどい例を見かけることがあります。
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昭和20年9月5日付社説「平和への努力」
 二日午前九時東京湾上米戦艦ミズーリ号の艦上で行われた降伏文書調印式を以て、ここに大東亜戦争は正式かつ完全に終結を告ぐるに至った。この降伏文書の要求するところは、わが内外地にある全軍隊の降伏、ポツダム宣言の受諾とその義務の履行、並に降伏要綱実施のため、国家統治の権限を連合国軍総司令官の□□(権限?)下に置くというにある。この調印によってわれわれはわれわれの無条件降伏を明確に認めなければならないと同時に、世界もまたこの事実を認めるのである。全文を通読しても判るように、連合国の態度は極めて峻烈なものがあり、而もわが降伏条件の履行については、完全かつ迅速を要求している。われわれはこの完全かつ迅速という字句を深く肝に銘ずるとともに、冷厳なる現実に決して目を覆うことなく、あくまでもこれを大胆に直視し、やがて訪れるであろう大なる苦難の荊道を真一文字に進むの決意を固めなくてはならぬ。要するに調印後われらに科せらるべき義務、負担が如何に重かつ大なるとも、われらは敢然としてこれを受け入れるとともに、男らしくこれを履行すべきは当然のことである。また大東亜戦争の終結は世界的な意義を持っていることは当然であるが、この大なる歴史的事実が演ずるであろう世界平和将来への役割もたま重かつ大なるものがあることを忘却してはならないと思う。
 破壊と殺戮、呪うべき戦火は終息した。今や世界は新しい平和を希望するや切なるものがある。われらもまた真に健全なる世界平和の確立を希求してやまないことは勿論である。だがここで銘肝すべきは、日本人は軍国主義者、好戦的国民なりという刻印をおされているという事実である。実に残念なことではあるが、最早致し方がない。勿論そこには誤解もあり、またわれわれの努力、勉強の足りなかった点も多々あるのであるが、この際われわれが誠心誠意以って努力しなければならぬのは、日本人は断じて好戦的国民に非ず、むしろ如何に平和を愛する国民なるかを全世界に立証することである。この立証が連合国側に認められない限り、国際的友好関係の回復、引いては真の世界平和を確立することは望むべくもない。またこの問題が、民族的イデオロギー乃至理想を異にしている観念と観念とが、完全なる氷解点に達しない限り、決して解決するものではなく、それだけに極めて至難な問題であることも明記しておく必要がある。
 調印式に際し、トルーマン大統領が行った放送演説の中にも日本の軍国主義者という言葉が窺われるし、当日スターリン議長の演説中にも日本の侵略者という言葉を見出すのである。また本土進駐に従って各新聞特派員たちも、過去の観念を容易に清算し得ず、依然として日本人に触ることを極度に畏怖するかのごとき言辞を漏らしている。われわれは敗れた。而も実力で敗れたのである。今更思い残すことはあるまい。過去の責任を追及し、或は過去の幻影に恋々たるは大国民の襟度ということはできない。ただこの上は、苦難に満ちた現実を直視し、真正面からこれにぶつかり、新しい生活の創造、生気溌剌たる新国家の建設、猜疑のない真の国際友好関係の把握に一路邁進しなくてはならない。惟うに民族的イデオロギーを異にする観念を完全に氷解せしめることは至難な業であるが、しかしこれだけは是が非でもやり通さねばならないのである。われわれは今後いわゆる温室育ちの文化人であってはならぬ。大いに外氣を吸い、外界に触れ、敢然と大自然の真只中に飛びこまねばならぬ。己を知り、人を知ると同時に己を人を知らしめねばならぬ。世界は今平和建設の陣痛に悩(?)みつつある。勝者もまた敗者も過去の一切のゆきがかりや観念を一掃し、ただ誠意と努力によって揺ぎなき平和の金字塔をうち立てねば樹てねばならぬ。

(典拠は、国立国会図書館所蔵マイクロ資料:請求記号YB-677)

by kenpou-dayori | 2015-03-29 21:16 | 敗戦直後の「平和国家」論の社説


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