2015年5月21日(木)(憲法千話)
憲法便り#1014 第九条:山崎岩男委員(日本進歩党)の質問:『検証・・・』(第六版)第六章(7)第六章の前回まで、
憲法便り#1013 第九条:笠井重治委員(無所属倶楽部)の質問:『検証・・・』(第六版)第六章(6)
憲法便り#1012 第九条:加藤一雄委員(日本自由党)の質問の続き:『検証・・・』(第六版)第六章(5)
憲法便り#1011 第九条:加藤一雄委員(日本自由党)の質問:『検証・・・』(第六版)第六章(4)
憲法便り#1010 第九条:山田悟六委員(日本進歩党)の質問:『検証・・・』(第六版)第六章(3)
憲法便り#1009 第九条:鈴木義男委員(日本社会党)の質問:『検証・・・』(第六版)第六章(2)
憲法便り#1008 第九条:野坂参三委員(日本共産党)の質問:『検証・・・』(第六版)第六章(1)
『検証・憲法第九条の誕生』(増補・改訂 第六版)(p.87ー90)より
第六章 第九十回帝国議会 衆議院憲法改正案委員会での逐条審議(7) 改正案委員会の審議は、第九回(七月九日)で一般質疑を終了し、第十回(七月十一日)から逐条審議を開始した。第九条に関する審議は、第十二回(七月十三日)の後半と第十三回(七月十五日)の前半において、集中的に行われた。
【第十三回委員会】七月十五日(月曜日)
午前十時二十四分開議、午後四時十五分散会
参加委員五十六・国務大臣六・政府委員四名山崎岩男委員(日本進歩党)の質問
「国際連合よりは、アメリカの力を借りて国際的な保護国の関係を作り上げることはどうか」芦田委員長 休憩前に引き続き会議を開きます―山崎岩男君。
山崎委員 第九条の戦争の放棄に付いてお尋ね申し上げます。本条は本草案の中におきまして最も特色を有しまする。日本政府としましての将来に関する重大なる発言でありまして、世界にも大きな影響を与えたことと、私、信ずるのであります。戦争の放棄ということを、私熟々考えまして日本の史実に徴して見まして、まことに我々国民としまして、感に堪えないものを、私は発見したのであります。
二千六百有余年のちょうど半ば、紀元千三百年の頃、天武天皇様の御代の当時でありまするが、天武天皇様の時代に三種の神器の一つでありまするところの草薙(くさなぎ)の御剣が朝鮮の坊さんに依って盗まれた。朝廷では大変驚きまして、これに対して追手を向けたのでありましたが、筑紫の大荒波に揉まれまして、その船がまた筑紫の方に打ち寄せ上げられた。そのために、朝廷におきましては、朝鮮の坊主からこの草薙の御剣を取り返すことが出来たのであります。朝廷では非常に驚きまして、これを禁廷の中にご保護申し上げて居たのであります。時たまたま天武天皇は非常なご病気に罹らせられまして、八方手を尽くしましてもご快癒を見ることが出来なかった。そこで神様に占いを立てて見ましたところが、それは草薙御剣の祟りであるというご託宣であった。陛下は非常に驚かれまして、この御剣を再び熱田神宮にお返し申し上げたところが陛下のお悩みがたちどころに癒られまして、そうして天武天皇のあの偉大なるところの政治というものが確立したと、私、承知して居るのであります。草薙御剣が熱田神宮に返されまして、そうして落ち着く所へ落ち着いた。天武天皇様の御治政というものは、歴史の上にも燦として輝いて居るのであります。例えば、古事記の草案を稗田阿礼をして作らせたが如き、天皇様の御治続の一つであります。私はこのことを考えてみまして、熱田神宮にお返し申し上げましたために、陛下のお悩みがお癒り遊ばされました。そうして立派なるところの御政治が出来上がったいうことを当代に比較致しまして、軍閥というものがこの機会に払拭されて、本当に平和国家が建設されるということは、その昔草薙御剣が収まるべき所の熱田の宮に収め返されまして、本当の平和が確立されたということと思い合わせて見ますれば、私はこの戦争放棄の条項というのもは、歴史的に考えて見ましても、まことに重大なる意義を持つものと考えるのであります。陛下の今日までのご軫念(しんねん=天子が心にかけられること)というものの大あら方というものは、軍閥のための、即ち剣の禍いであったと、私、断ずることが出来るのであります。満州事変といい、上海事変といい、支那事変といい、一つとして軍閥即ち剣の禍いでないものはありませぬでした。
然るに、この機会におきまして陛下が御敏くもこの戦争を放棄されて、日本の未来永劫に亘って武力に訴えることがない、剣を収められた。過日、国務相のご答弁の中にも、剣というものは必ずしもこれはまつろわぬ敵を平らげることだけがその使命ではない。我々の魂を治める点にも剣の使命があると仰せられたと、私、拝承したのでありまするが、私はこの一条は収まるべき所に剣が収まって、軍閥が本当に収まって、そうして日本の立派な平和国家が建設されるという陛下の大御心を偲んで、まことに感に堪えないものがあるのであります。過日も、本会議におきまして、森戸(辰男)代議士はこの点に言及されまして、陛下のご心情に思い致されて、臣下としての感慨を述べられたのであります。森戸先生にして、なおかつあの言あり、まことに私共はこの一条に対しましては、国民的感情を抑え切ることが出来ない、まことにありがたい極みであると考えるのであります。
一方、私はこの条項に依りまして、日本は日本の有すべきところの自衛権というものを放棄したのであります。果たして、この妖怪変化(ようかいへんげ)とも言われなければならぬ、また複雑雑多なるところの世界の情勢を、この日本が本当に無手勝流で以って、全く素裸(すっぱだか)で以って、この大荒波を乗り切ることが出来るのであろうか。日本丸の前途というものは、まことに私は多事多難であると思うのであります。その大海原の対岸には、政府や国務相が言われるように、如何にも国際連合というものがありまして、これが水難救助の仕事をやってくれるかもしれない。けれども水難救助の行き届かないうちに、日本丸が世界の国情に押されて、揉まれて大海原の藻屑(もずく)になってしまわないとも限らないという懸念をも私は持つのであります。私はこの機会において、むしろ国際連合というものよりも更に一歩進めて、かつて日英同盟があったように、日本は国際上の保護国関係というようなものを作る、例えばアメリカの力をかりて国際間におけるところの保護国の関係を作り上げてやって行くような状況になったならば、私は日本がこの国際場裡を漕ぎ抜けて行くにはまことに困難が多かろうと思うのでありますが、この点に付きまして総理大臣は先ほどご答弁があったのでありますが、国務相は如何なるお考えがありますでしょうか、承りたいと存じます。
金森国務大臣 お尋ねの点は、この第九条に依りまして、日本が真に捨身の態勢を取って、世界平和の先頭に立ってこれを提唱するというのでありまするが故に、余程の大いなる決心と正義を愛する熱情とを以って臨まなければ、十分の結果は得られないと思う訳であります。
いま仰せになりました特殊なる国際関係を結ぶことに依って、果たしてその趣旨が十分達成せられ得るであろうか、或いはまた、この九条におきまして我々が世界の第一線として平和を主唱するその態度と、いま仰せになりました行き途とが、果たして一致し得るであろうかというようなことは、今後の国際情勢の動きが我々の持って居る理念と同じように、全般的に動いてくれるかどうかというようなことをはっきり見定めまして、十全の方途を執らねばならぬのでありますから、お示しになりました一つのお考えは、非常に貴重なるお考えとは思いますけれども、今日何事もまだそれに対してはお答えすることが出来ないと思います。
山崎委員 治安維持の関係に付いてお尋ね申し上げます。これからの警察官が日本の治安維持というものの全般に亘っての責任を持って行く訳でありまするが、この警察官の教養の点に付いて、私の希望は、警官は中等学校以上を卒業した人を採用するということを条件にするご意志があるかどうか、それを承りたいのであります。今日までの警察官という者は、教養がまことに足りなかった。そのために色々の点において悶着(もんちゃく)を起したのであります。警官にして、いま少し教養があったならば、私は立派に国民指導という役割も果たして、しかも警察本来の使命を達成することが出来ると思う。そこで私は、この機会に警察官全部を、少なくとも中等学校以上の教育を受けた者を以って充てるということが必要だと考えるのでありますが、この点に付いてのご所見を承りたいと思います。
金森国務大臣 現実の制度に付きましては、内務大臣からお答えになるのが適当だと思って居りますが、ただ一般的なるお答えと致しましては、私は私に(ひそかに)平素抱いて居りまする考え方から言えば、日本の官職を分担して、ことに人民と接触している面、いわば或る意味において窓口と言われて居りますが、ひとり窓口とは限りませぬ。直接に人民に接触する部面におきまして、その人の各面における知識及び知識以外の面に付きましての教養があまり十分ではないということが、私深く考えて居るのでありまして、もしもこれらの人の教養が望むべき深さまで達しまするならば、日本の各方面の行政は相当発展するものであろう。如何に制度を改正致しましても、これに盛り込むところの人間が不十分でありますれば、なんの役にも立たないと思うのであります。
そこで、いま仰せになりました警察官の制度は、これは明治の初め頃から順次発達して来たものでありまして、その当初は例えば士族の出身であって、他に適当なる職務もないというような人でありましたがために、或る面におきましては欠けて居る所もあったかも知れませぬが、また或る面においては男らしい面を持って居って、相当に信頼されたということも言えるのであります。しかし、その時代が過ぎ去った後におきまして、知識と性格との双方面におきまして、色々思わしからざる要素が加わったことは否定は出来ないのであります。私共の知って居る範囲におきましても、内務当局においてはその面に付いて相当注意されまして、教養の程度も出来るだけ高くして行くという風に努力せられて居るように思いますこの勢いは漸次進展されて、実質上の高き能力、人格の人が当らるるようにしたいものと思って居ります。
『憲法便り#1015』へと続く。