2015年 08月 06日
2015年8月6日(木)(憲法千話) 憲法便り#1106:哲学者フィヒテの言葉を利用した「愛国心」教育に異議あり! 去る7月2日に、新宿区教育委員会に対して、「教科書採択に関する要請書」を提出したこと、およびその全文については、すでに『憲法便り』において、四回にわたって連載している。 ここに紹介するのは、連載第二回に含まれている、自由社の公民教科書の「フィヒテ」に関する部分への批判である。 *ミニ知識:愛国心を訴えたフィヒテ(33) 1807年、ナポレオンの率いるフランス軍支配下にあったドイツで、哲学者フィヒテは『ドイツ国民に告ぐ』と演説し、愛国心と独立を訴え、ドイツ国民をふるい立たせた。(岩田注①) *ここがポイント(岩田注②) ①愛国心とは自分の生まれ育った国を大切に思う心である。 ②愛国心は国際社会の平和と発展に貢献しようとする精神的土台である。 ③優れた自国の伝統や文化は、継承するだけでなく、次の世代に伝えていかなければならない。 12.国家と私たち国民(34) *学習のまとめ(36) 「第1章」への問題点の指摘と〔岩田注①-②〕 〔問題点の指摘〕以下の、フィヒテの引用は、歴史的状況を無視した、「愛国心」への誘導。 *ミニ知識:愛国心を訴えたフィヒテ(33) 「1807年、ナポレオンの率いるフランス軍支配下にあったドイツで、哲学者フィヒテは『ドイツ国民に告ぐ』と演説し、愛国心と独立を訴え、ドイツ国民をふるい立たせた。」 〔岩田注①〕フィヒテについて 以下に示すのは、京大西洋史辞典編纂会議編『新編 西洋史辞典 改定増補』(平成12年)633頁右の説明です。 「フィヒテ Johann Gottlieb Fichte(1762-1814) ドイツの哲学者。苦学して大学を出、家庭教師をしながら『啓示批判試論』(1792)を出版、認められて94年イエナ大学教授。知識学を完成し、カントの実践批判を主観的形而上学に高め、ロマン派に影響を与えた。1807年フランス軍の侵入監視の中で『ドイツ国民に告ぐ』の講演をして国民の道徳的奮起をうながし、またベルリン大学の創立に尽力し、のち総長となった。従軍看護婦となった妻のチフスに感染して死す。イエナ大学時代、啓蒙的無神論を主張して論争をおこなったことがある。(広美)」 私は哲学者ではないので、この説明の概念を把握するだけでも難しい。 ここで、愛国心のためにフィヒテを引用するのは、適切ではない。 ナポレオンがヨーロッパに席巻した時代背景の理解がなければ、なおさらのことである。当時のドイツがどのような国であり、何をしていたのかが判らなければ、正しい認識には至らない。 18世紀~19世紀のヨーロッパを論ずる場合、国名も、版図すなわち領土も激しく変化していて、現在とは違う。 18世紀の後半に、プロイセン、ロシア、オーストリアの3国により、3次にわたってポーランドの分割が行われている。 第一次は1772年、第二次は1793年、第3次は1795年。 かつて、ポーランドはロシアに攻め入って、1610年にモスクワを占領、2年後の1612年に退却したが、それほどの強国であった。しかしながら、3回の「ポーランド分割」により、ポーランド王国は崩壊、第一次世界大戦末期まで、一世紀以上にわたって祖国を失い、列強の支配下にあった。ポーランド人の立場からは、オーストリアも、これと並ぶ、ドイツの指導国家プロイセン王国のどちらも侵略者であり、ポーランド軍団が1797年からフランス軍の一翼を担っている。 したがって、たとえどんなに有名な人物の言葉であっても、歴史の一局面だけを見て、一方の国の「愛国心」を引用し、日本の子どもたちに愛国心を煽るのは、正しくない。 なお、フィヒテが教べんをとったイエナ大学は、1558年の設立。 〔問題点の指摘〕自由社版の「ここがポイント」という項目の危険性 *ここがポイント(33) ①愛国心とは自分の生まれ育った国を大切に思う心である。 ②愛国心は国際社会の平和と発展に貢献しようとする精神的土台である。 ③優れた自国の伝統や文化は、継承するだけでなく、次の世代に伝えていかなければならない。 〔岩田注②〕「ここがポイント」は、目次には記されていない小さな記述です。しかし、若者に聞いた「ここがポイント」のとらえかた方は、「試験に必ず出るから、マーカーで印を付ける。」とのこと。このような若者の反応を見越した一定の政治的方向への「誘導」は、姑息であり、本来の教育とはかけ離れた政治的手法の濫用として、大問題です。 ■
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by kenpou-dayori
| 2015-08-06 15:32
| 教科書検定・採択問題
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