2015年 09月 08日
2015年9月6日(火)(憲法千話) 憲法便り#1304:昭和20年9月5日の東久邇宮首相の施政方針演説について【再録】 以下は、【再録】です。 ********************************************* 2013年 09月 06日 憲法便り#273 昭和20年9月5日の東久邇宮首相の施政方針演説について 昭和二十年九月四日と五日の両日、第八十八回帝国議会本会議が開催され、五日に東久邇宮首相が施政方針演説を行っている。翌六日の各紙は細かい活字を使って、その長い全文を報じている。『讀賣報知』も一面全部を使って詳細に報じている。紙面の三分の二は彼我の戦力比、敗戦に至る経緯と言い訳、残りは日本再建のための国民への叱咤激励である。この演説について、三つの問題点を指摘おきたい。 第一は、戦況についての認識の問題である。 首相はまず、開戦時と敗戦直前とを比較して、日本の船舶の保持数は四分の一程度、鉄鋼生産は四分の一以下に落ち、さらに、多分野での生産が落ち、近代戦の維持が困難になっていたことを述べている。 ついで彼は、日本の状況に反して、膨大な資源と工業力を持つ連合国側の国力は増大しており、ドイツの降服後は、連合国側の全戦力が日本に向けられたことにより勝利の見通しは持ち得なかったことを述べている。 敗戦からわずか二十日後に行った説明である。この認識がありながら、日本の支配層は「本土決戦」「一億玉砕」などの言葉によって、国民を戦争に駆り立てていたのであるから、責任は非常に重大である。 第二は、「大東亜戦争の陸海軍の損耗」という報告の問題点である。損害の「損」に、消耗の「耗」、この大きなくくりの中には、陸海軍機や艦船のみならず、陸軍戦死三十五万、海軍戦死十五万八千余も含まれている。「お国のため」に戦死した兵士たちは、大日本帝国の指導層からすれば消耗品のような扱いであったという事実である。 第三の問題点は、演説の最後のほうで、国民を鼓舞するために言った次の部分。 「我々の前途は遠く且つ困難に満ちて居る、然し乍ら御詔勅に御論を拝する如く、我々国民は固く神州不滅を信じ、如何なる時代におきましても、あくまでも帝国の前途に希望を失うことなく、どこまでも努力を尽さねばならんのであります。」 神州とは「神の国」のこと。敗戦後も、首相が戦前の思想そのままに、こんな馬鹿なことを言っていたのである。 以上の問題点を踏まえて、昭和二十年九月六日付『読売報知』より所信表明演説の一部分を引用する。 ただし、長文のため、☆印の二つの部分以外は新聞社がつけた中見出し(◇以下)のみとした。 【見出し】 「前途は遠く苦難に満ちて ―東久邇首相宮・御初の施政方針演説―」 「いざ文化日本建設へ 戦力相対比の破綻に敗る 悲局打開に出せ底力」 ◇大御心の下・自粛自省せよ ◇近代戦維持困難を加ふ ◇彼我戦力急速に均衡失す ☆終戦への大乗的聖断下る それより先、米英支三国はポツダムに於て帝国の降服を要求する共同宣言を発し、諸般の情勢、帝国は一億玉砕の決意を以て死中に活を求むるか、然らざれば終戦かの岐路に立ったのであるが、日本民族の将来と世界人類の平和を顧念せらるる大御心より大乗的御聖断が下されたのである、即ちポツダム宣言は原則として、天皇の国家統治の大権を変更するの要求を包含し居らざることの諒解の下に、涙を呑んでこれを受諾するに決し、ここに大東亜戦争の終戦を見るに至ったのであって、帝国と連合各国との間の降服文書の調印は本月二日横浜沖の米国軍艦上に於て行はれ、同日御詔書を以て連合国に対する一切の戦闘行為を停止し、武器を措くことを命ぜられたのである、私は顧みて無限の感慨を禁じ得ぬと共に、戦争四年の間、共同目的のために凡ゆる協力を傾けられた諸盟邦に対し、この機会をもって深甚なる感謝の意を表するものである 連合国軍は既に我が本土に進駐致して居る、事態は有史以来のことであり、三千年の歴史において最も重大局面と申さねばならぬ、この重大なる国家の運命を担って、その□(一字不明)ふべき所を誤らしめず国体の弥(いや)が上にも光輝あらしむることは、現代に生を享けているわれわれ国民の一大責務であり、一に懸って今後に処する我々の覚悟、我々の努力に存する 今日に於て現実の前になほ眼を覆ひ、当面を糊塗して自ら慰めんとする怯懦や、激情に駆られて事端を滋くするが如き軽薄は、到底国運の恢弘を期する所以ではない、一言一行盡く天皇に絶対帰一し奉りいやしくも過たざるこそ、臣子の本文であって、われわれ臣民は大詔の御誡めを畏み、堪へ難きを堪へ、忍び難きを忍んで、今日の敗戦の事実を甘受し断固たる大国民の矜持をもって、潔く、自ら誓約せるポツダム宣言を誠実に履行し、誓って信義を世界に示さんとするものである、今日我々は不幸敗戦の苦杯を嘗めて居るが、我々にして、誓約せる所を正しく堂々と実行するの信義と誠実を示し、正と信ずる所は必ずこれを貫くと共に、非は非として速かにこれを改め、理性に悖ることなき行動に終始するならば、我が国家及国民の真価は必ずや世界の信義と理性に訴へ、列国との友好関係を恢復し、茲に萬邦共栄の永遠の平和を世界に顕現し得べきことを確信する次第であって、今後における我が外交の根本基調も、正しく是に存するのである、畏くも大詔おいては「世界ノ進運ニ後レサラムコトヲ期スヘシ」と曰はせられた、私共は維新の大業成るに当り、明治天皇御自ら天地神明に誓はせられた五箇条の御誓文の御精神に□(一字不明)り、この度の悲運に豪も屈することなく、自粛自重、徒に過去に泥まず、将来に思ひ惑ふことなく、一切の蟠(わだかま)りを去って虚心担懐、列国との友誼を恢復し、高き志操を堅持しつつ、長を採り短を補ひ、平和と文化の偉大なる新日本を建設し、進んで世界の進運に寄與するの覚悟を新にせんことを誓ひ奉らねばならぬと存する ◇心機一転戦後建設に邁進 ◇国民衣食住の安定期す ◇インフレと失業克服せよ ☆挙国勠力(りくりょく)帝国の前途洋々 我々の前途は遠く且つ困難に満ちて居る、然し乍ら御詔勅に御論を拝する如く、我々国民は固く神州不滅を信じ、如何なる時代におきましても、あくまでも帝国の前途に希望を失うことなく、どこまでも努力を尽さねばならんのである、洵に畏れ多き極みであるが「朕ハ常ニ爾臣民ト共ニ在リ」と曰はせられた、この大御心に感奮し、我々は愈々決意を新にして将来の平和的文化的日本の建設に向って邁進せねばならぬと信ずるのであって、全国民が盡く一つ心に融和し、挙国一家、力を勠(あわ)せて不断の精進努力に徹するならば私は帝国の前途はやがて洋々として開けることを固く信じて疑はぬ次第である、かくしてこそ宸襟(しんきん)を安んじ奉り、戦線銃後に散華殉職(さんげじゅんしょく)せられたる幾十万の忠魂に応へ得るものと信ずる」 ここで見るように東久邇宮の演説は、国民を守り、生活を守り発展させることではなく、旧態依然としたものであった。 (岩田注1)昭和二十年代においては、ラジオ放送は新聞と並んで最も重要な報道機関であった。しかしながら、私が主な研究対象の期間としている昭和二十年八月から二十二年六月までの新聞にはラジオ放送の番組表がないので、系統的な追跡調査を行っていない。 ■
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by kenpou-dayori
| 2015-09-08 21:07
| 戦後日本と憲法民主化報道
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