2016年4月5日(火)(憲法千話)
憲法便り1661:【連載:外務省と第九条シリーズ】元外務省条約局長西村熊雄氏の証言(第5回)
高柳会長: 政府の解釈では、自衛権というのは、いわゆるテリトリアル(領土の)なんだから海外における日本人の保護とか、そういうために兵力を使うというのは、これは自衛権の範囲ではないということですね。アメリカあたりの解釈は、そうではないでしょう。自衛権の解釈は……。
西村参考人 : 自衛隊法にそれをカバーするような条文がないのです。
高柳会長 ただ、これは憲法の解釈が現在、変ってきておりますね。当初から今日まで……。
西村参考人 : そうです。
下田参考人: さきほどの広瀬先生の、外国はどうみているかということは、常識的にはやはり軍隊とみております。日本では一佐、二佐といっておりまするけれども、外国人は何といっておるかというと、カーネル、リューテナント・カーネルと呼んでおります。常識的には。
広瀬委員 : 軍隊でしょうね……。
下田参考人 : そうです。
広瀬委員 : 将来、警察軍になると思いますが、やはりそれは軍であって、警察官ではないと思うのですね。問題はそこですね。
西村参考人 : 警察官ではないですね。
広瀬委員 : 警察官ではない。やはり軍隊だ。警察軍なんだ。そこで、軍隊はやはり国内的にも普通の警察をバック・アップしている警察のうしろにある一つの機関だ。それは同時に世界的な国際警察軍の一翼を担当する、こういうふうにいかなければ、ダメなんだと思う。
高柳会長 : これは少し話が離れますが、吉田さんの「回顧十年」の中に、MSA協定について、幣原さんと吉田さん、その他の方が会って話しをされたことがのっている。そのときに幣原さんは、普通の人と違った発言をされたとかいうようなことをちょっと書いてあるのですが、その会談にはお出にならなかったのですか。それにどんな発言をされたのか知りたいと思って、何か資料がないかと思っておったのですが、それにはお出にならなかったのですね。
西村参考人 : 私は出ませんでした。
下田参考人 : 私も出ておりません。
広瀬委員 : それからもう一つ伺いたいのは、いつかニクソンが来て、日本の憲法に、ああいう言葉を……、第九条を入れてあるのは困る、というような意味のことを言いましたね。あの後、マッカーサーが代わって、リッジウエイになったのですが、その間、ダレス氏は非常に強硬な意見で、日本はとにかく独立国としても重要だし、また世界の一国として世界の平和のために寄与すべし、というような意見をもっておった。それにもかかわらずアメリカあたりも日本の憲法改正について何ら向うからは日本に対して要請しては悪いという態度ばかりだったですか。
西村参考人 : 私の関係しておりました五か年間を通じまして、先方から憲法改正をうんぬんしたことは、一度もございませんでした。
下田参考人 : 私もアメリカに三年おりました間に、官辺筋のみならず、アメリカの国民からも、日本の憲法を改正した方がいいということは、一度も聞きませんでした。これは完全に日本国民の自由だ。自由に決める問題だという態度ですね。
高柳会長 : これは反対党の方からは、アメリカ政府から要請がなされた、ということを始終いうのですが……そういう発言がされておりますね。これは事実と違うのですね。
下田参考人 : はあ、違います。
広瀬委員 : 今度の安保条約について非常に苦労をされたわけですが……まあ、不当な苦労をしたようにわれわれは思うのですが……ああいうことになったことについては、あなた方はどうお考えですか。安保条約の問題を、どうお考えですか。あるいは憲法第九条の問題だとお考えになりますか。これは非常に重要な問題ですね。
外国では、どうなっておるのでしょうか。やはり安保条約自体の問題だと見ておるのでしょうか。
下田参考人 : 安保条約だけの問題とは、見ておりませんですね。うしろに非常にバック・グランドがあると見ておるでしょうね。
広瀬委員 : そのバック・グランドは、ただコミニズムだけと考えるのでしょうか、私は、全学連の活動あたりについて外国の批判はどうあるか、よくわかりませんが。
下田参考人 : 外国人には非常にわからないようですね。理解し難いようです。
広瀬委員 : 国際共産主義だけということに、おっかぶせておいていいだろうか、安保条約を社会党は、これから破棄するといっておる。ああいう大事件があったことについての背後関係というのは、やはり明かにしなければならないと、私は思うのです。外国などにたいしても明らかにしてやらなければ、いけないのではないか……。
高田委員長 : それではこれで本日の会議を終ります。どうも有難うございました。
なお次回は八月二十五日、第四木曜日に開催します。当日は、前法制局長官佐藤達夫氏、法制局長官林修三氏、それから防衛庁の参事官の佐伯喜一氏に、参考人として御出席をいただきます。佐藤、林両参考人からは、憲法運用上の各般の問題について、また佐伯参考人からは、各国の防衛制度について、それぞれ御説明を伺いたいと思います。
午後四時十五分閉会
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