2019年 12月 19日
2019年12月19日(木)(憲法千話) 憲法便り#2925:憲法調査会第六回総会議事録より:中曽根委員VS白洲次郎を中心に! 仮名遣いは、現在の仮名遣いではなく、原文通りに入力しています。 例:現在の仮名遣い「ずっと」→原文「ずつと」 「それじゃ」→原文「それじや」 以下の議事録に登場する会長、委員、参考人のフルネーム ○高柳会長→ 高柳賢三 ○白洲参考人→白洲次郎 ○大石委員→ 大石義雄 ○中曽根委員→中曽根康弘 ○稲葉委員→ 稲葉 修 ○坂西委員→ 坂西志保 ○佐藤参考人→佐藤達夫 ○岸参考人→ 岸 倉松 憲法調査会第六回総会 日時:昭和32年(1957年)11月20日 午後1時40分開会 午後4時55分閉会 場所:内閣総理大臣官邸 憲法調査会報告書は、昭和三十九年(1964年)七月刊 この報告書の原本は、国立国会図書館憲政資料室が所蔵する「西沢哲四郎関係文書」に含まれる。 原本は、憲政資料室でのみ閲覧可能。 ここ紹介するのは、同図書館が作成したデジタル資料から複写したものに基づく。 デジタル資料は、東京の国立国会図書館の館内でのみ閲覧及び複写が可能である。 したがって、私としては、遠隔地の方々に資料提供するために、この紹介を行う次第である。 紹介する目的は、中曽根康弘元首相が逝去して以来、彼を誉めたたえる報道が続いていたが、私は全く違った感想を持っていることを綴っておきたかったからである。 彼は、一貫して憲法「改正」を叫んできた。私は、「改正」ではなく「改悪」と呼んでいる。 そして、国鉄の分割「民営化」によって、地方を切り捨てた張本人として、決して許せない人物である。 日本では、亡くなると、みんな良い人になってしまうようなところがある。 だが、私はそのような考えはとらない。
中曽根元首相の訃報に接して、まず思い出したのは、ここに紹介する議事録であった。 この憲法調査会の議事録は、彼が、吉田茂元外務大臣や、幣原元首相の側近に対して、言質を取ろうとして、執拗に迫る姿が目に見えるようで、忘れられないのである。
まず最初に、文字起こしをした主要な部分、そして次に、全頁の複写をスキャンして紹介する。 白洲次郎の発言に対する注釈は、のちほど、加筆する予定である。 ○高柳会長 どうも有難うございました。 今日、白洲さんとそれから岸さんに参考人として御出席をお願いしたのでありますが、白洲さんはほかの会合の都合によって四時半には退席されたいというお話でありまして、まず白洲さんからお願いしますが、白洲参考人は終戦連絡事務局の参与を、それから次には次長をされておられて、いろいろ在日司令部側との折衝等についてはいろいろ機微な場面に接せられておられたのでありますが、それらのいろいろな感想を率直にいろいろなことを言つてみたところが、これは将来、日本のために積極的な建設になるかどうかというようなことで、だいぶ今日お出でになるのをしり込みされておつたのですが、それからまた一つ原稿を作つて佐藤さんのようにずつとやるというのは大へんだからというので、それじやとにかくいろいろ御質問があるだろうから、その御質問に答えるようにお願いしたいというので今日お出で願つたのであります。まだ白洲さんはほかの会議にでられたということはないので、今日初めてこんなふうな会議に出られたので、どうですか、御質問にあれしますか、あるいはちよつと何か御話しお願いしますか。 ○白洲参考人 別にあらたまつて申し上げることもないのでありますが、何か質問でも……。あまり十何年前のことで、正確に覚えているかどうかもわからないのですが、御質問がございましたら、覚えている範囲で……。 ○大石委員 私はアメリカに行つたときに、ある人から司令部案を作ること、そのことにお入りになつている日本人の一人としてまあシラスというような発音を聞いたように思いますので、司令部案を作ること、そのことに何か御関係を持たれましたのでしょうか。そのもしあれば……。 ○白洲参考人 あれは今、坂西さんお読みになつたことで、司令部案の原則を日本の政府筋の人に外務大臣の官邸、そのときには麻生の市兵衛町の原田積雲会の家を借りていたのですが、そこでその日本側に示したという話が、坂西さんがお読みになりました中にありましたけれども、あれは原則じやなくて、そのときにもう日本の憲法の原案なるものが全部書いてあつたものをくれたので、原則を示したというのはそうじあないのであります。全部書いてあつたのです。 ○中曽根委員 幣原さんが、今の話によりますと、憲法第九条の発議者であるというふうに言われましたが、この点は今までいろいろ議論がありましたけれども、白洲さんはその点はどう思いますか。 ○白洲参考人 どう思うかということはこれはあまりこの調査の問題じやないでしようが……。 ○中曽根委員 どちらの発議から来ておりますか。 ○白洲参考人 別にマッカーサーがこれを考えたのだとか、幣原さんが自分でお考えになつたとかいうことは、そういうことは別に御両人に話したことはございませんから、正確なことは存じませんが、私の印象では、幣原さんがその程度まで、軍備を全部放棄するというということをお考えであつたがどうかということは非常に疑問を持つ程度でございます。 さつきの大石さんのおつしやつた、憲法草案を、アメリカ側が日本の政府に憲法草案を作るについて、私も関係したかという御質問でございますか。 ○大石委員 シラスさんという発音がちよつと出たものですから、あなたじあないかと思つてお聞きしたのです。 ○白洲参考人 いえ、おそらくあのアメリカ側が日本の政府に外務大臣官邸で示した憲法草案というものについて、あらかじめ日本人で何らかの形において関係した人というものはいたとは思いません。私の知つている範囲では……。 ○稲葉委員 ちよつとお聞きしたいのですが、先ほど坂西委員からホイットニーの報告書を翻訳された部分について、白洲さん、幣原さん、松本さんそれから芦田さん等向うと折衝された経過報告は、あなたお聞きになつて、大体あなたの御記憶と一致しておりますか。違つておりますか。 ○白洲参考人 今、坂西さんがお読みになつたことでございますか……たとえて申しますと、外務大臣の官邸で憲法草案をアメリカ側が出したなんというのですが、シーンが非常にこう劇的に書いてありますがね。これはまあ劇的かどうかということは、これは人間の感情問題なので、劇的と思う人もいるでしようし、劇的と思わない人もいるでしようから、劇的なシーンのように本に書いてあることが違つているとは申しませんがね。私はそんな、いわゆるホイットニー氏のように劇的感情があるかどうか存じませんが、そういうふうには感じなかつたのですね。 ○稲葉委員 しかし事実は大体羅列してある事実は合つておりますか。合つておりませんか。 ○白洲参考人 私の知らないこともずいぶんございますからね。だけれども、今さつき申し上げたように、憲法の、何と書いてありますか、原則と書いてありましたね。 ○坂西委員 まず原則をいうことだつたのですけれども、このような原則を作成する唯一の実際的な方法は憲法の法典の形で作成するということに決めたのです。憲法そのままの形で、もう持つていくというふうに……。 ○白洲参考人 それはもう全然、案のようにでき上がつたものをあそこでくれたのです。そしてそれがあとの方で何日かの間に早く日本文を作らなくてはいけないといので、そして英文を日本文に直して松本さんのところへ行つたらどうかと、さつき言われましたが、あの夜には小畑さんという外務省の翻訳官の方がいて、それから長谷川元吉さんという方がいて、大体その二方が翻訳なさつたのでその翻訳……、私なんかの知つている範囲では、翻訳したので、相談してああいうものを日本文に書いたというようなことではなかつたと思います。その時には佐藤君もいたのではなかったか。朝まで徹夜したのです。だからあの大体の草案の翻訳というものは一晩徹夜して日本文になつたということなんです。だからその日本文に書き直すときに、それを相談しつつやつたというふうに書いてございますがね、そんなようじやなかつたように思いますがね。 ○中曽根委員 今の坂西さんのお読みになつた中に、司令部の草案に対して一番反対したように見えたのは松本博士と吉田さんというように書いてありました。それで今までわれわれがここで聞いた話では、当時、閣僚であつた芦田先生や村上先生は非常に不満であられたようで、そういうことも聞いておりますが、吉田さんについてはあまりその点について表現がないのです。吉田さんが、一体そこに書いてあるようにあるように、あの憲法草案について不満であり、また頑強に反対したのかどうか。あなたは吉田さんの側近で一番側におつた人ですからおわかりだろうと思うんですが。吉田さんのその当時のお考え、態度がおわかりでしたら、教えていただきたい。 ○白洲参考人 私その時分にやつていたことは、日本の政府とアメリカの司令部との間の連絡をやつていたのでありましてね。その両方の人がどういう気持を持つてやつているなんて、私の仕事以外のことなので、あまり立ち入つてですね、そういうことを話したこともない、聞いたこともないのでありますけれども、私がまあ第三者的に外部から見ている範囲においては、あの憲法に対して吉田外務大臣が反対したとか、不満であつたというようなことは、そういうような機会に私はあの時代には一度も会つたことがないのです。 ○中曽根委員 今、坂西さんがお読みになつたのとだいぶ違うようでありますが、私は吉田さんの性格からすれば、おそらく内心は非常に反対であり、まわりの人にはそれぐらいのことは言つていると思うのですが、全然そういう気配はなかつたのですか。 ○白洲参考人 全然そういうことは聞いたことはありませんね。 ○中曽根委員 吉田さんの回顧録を読んでみると、中には賛成している部分もあるけれども、一番大事なファンダメンタルあるいはベーシックという表現をされているところに必ずしも賛成されていないように書かれてありますが、そういうことはなかったのですか。 ○白洲参考人 あったかどうか。今申し上げたような事情で正確なことは別に本人に伺つたことはありませんから知りませんが、あの当時の一般の人というのはみんな、ああいう今までの主権在君的な憲法から急に主権在民の憲法に一足飛びに飛んだということに対して、不満というよりも、何というのですかね、あまり乱暴すぎるというような、不満というよりもちよつとびつくりしたようなところがあつたのじやないですかね。 ○中曽根委員 市兵衛町の外務大臣の官舎かで、ホイットニーから草案を受け取ったときに、今の表現によりますと、あなたは非常に動揺したと書いてある。そのほか詳細に書いてありますが、吉田さんはそのときどういう態度であつたのですか。 ○白洲参考人 今申したように、動揺したとか何とかいうことはホイットニーの個人感情なのでね。どういうわけでほかの人が動揺したと思つたか知りませんが、あそこにいた日本の人で動揺したというような顔した人はいたように思いませんね。 ○中曽根委員 吉田さんはどうでした。困つたような顔をしたのですか。 ○白洲参考人 いや、困つたよりも、困らないよりも、ただそのときに初めてああいうものを、憲法草案と称するものを、何部ありましたか、番号が打つてありましてね。十四、十五部あつたのですが、それを渡されて、そして何分ぐらいの間でしたか、ほんの短い時間の間に憲法の条文のようなものをところどころみんなの人が拾い読みをした程度で、その憲法というものは実際はどういうような憲法だということをはっきり見究める時間なんかあり得るものではなかつたのですね、あのときは……。だから不満であろうが、動揺しただろうが、動揺しなかつただろうが、それだけの時間的の余裕がなかつたように思いますね。 ○大西委員 今、坂西委員が読み上げられましたホイットニーの書いたものをお聞きになつて、白洲さんあるいは佐藤さん等が、このホイットニーはとてもやつぱり第三者的の立場ではこれは書けなかつた。第三者的な立場でこれは書いたのじやないと、多分にマッカーサーの政策を弁護するという立場で書いたというような印象は受けられませんか、今のをお聞きになつて……。 ○白洲参考人 それはもう個人的にそういう印象を非常にものすごく受けますですね。 ○大西委員 それから今一点ですが、このホイットニーが書いたときは、もう朝鮮事変も始まつたとき……。もしもホイットニーが今の憲法が制定された直後にこの報告書を書いたとするならば、今ホイットニーがそこで述べているとはあるいは幾分異なつたことが書かれるべきであつたというような印象は受けられませんか。 ○白洲参考人 さあどうですかな、これは……。 ○大西委員 佐藤さんいかがでしょうか。 ○佐藤参考人 私もその前段の方は白洲さんと全く同感ですが、あとの方はやつぱりわかりませんですな。 ○高柳委員長 それでは一応その程度にして、もう一人の岸 倉松参考人がお見えになっておりますから、そのお話をまず伺つてから、それからあとまた白洲さんに時間がありましたら、ご一緒にいろいろ再質問をお願いいたします。 それじや、岸 倉松参考人は幣原内閣総理大臣の秘書官をされて、おそらく一番接触されておつて、幣原さんの考え方とかそういうようなことは、よく御存じの方だと思います。ホイットニーの報告書の中にも、岸さんのお名前が出てくるというので、今日は一つ参考人として、特に幣原さんと第九条との関係についてのお話を願いたいと思います。岸さん……。 ○岸参考人 私はわが憲法の第九条の戦争放棄の条項につきまして、第一に、幣原先生が直接に何ら関係していなかつたということについて申し上げ、第二に、戦争放棄の悲願は幣原先生の熱心なる主張によつてマッカーサーが深く感動され、これが動機となつて第九条が司令部の新憲法草案のうちに規定され、二月十三日、日本政府に手交さられた新憲法草案となつたことと確信いたします。(以下、略)
by kenpou-dayori
| 2019-12-19 10:29
| 憲法調査会総会・小委員会報告
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