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岩田行雄の憲法便り・日刊憲法新聞

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2020年 08月 19日

憲法便り#3564:第二次世界大戦期・リバイバルシリーズ⑥;「ナチスの憲法の完成(=ワイマール憲法の形骸化)」の過程:連載第1回(本文編)!

2020年8月19日(水)(憲法千話)

憲法便り#3564:第二次世界大戦期・リバイバルシリーズ⑥;「ナチスの憲法の完成(=ワイマール憲法の形骸化)」の過程:連載第1回(本文編)!

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【再録】

2020年6月16日(火)(憲法千話)
憲法便り#3379:「ナチスの憲法の完成(=ワイマール憲法の形骸化)」の過程:連載第1回(本文編)!
第2回は、翻訳された原注37項目をまとめて掲載。訳書は、それぞれのページに対応して、脚注にしてあるが、煩雑になるので、第2回では、文末に一挙に紹介する。

「ナチスの憲法の完成(=ワイマール憲法の形骸化)の過程」


1933年

1933年2月27日夜の国会議事堂放火事件の翌朝、1933年2月28日に、「民族および国家の保護のためのライヒ大統領令」を公布しました。これが、いわゆる「ナチスの憲法」の始まりです。
 国会議事堂放火事件を利用した大統領令の発布は、1月30日にヒトラーが首相に就任し、ナチス政権が誕生してからわずか1カ月後のことです。
 「ワイマール憲法は、いつの間にか変わっていた」という麻生副総理の発言は、まったくの誤りであり、デタラメです。
 安倍首相の答弁のデタラメぶりは、すでに5月4日の憲法便り#1及び7月16日の憲法便り#120で明らかにしていますが、麻生副総理のデタラメはそれ以上のものです。
 一夜にして、ドイツを事実上の戒厳令状態にした、ナチスの手口を見習うということは、民主主義の破壊を意味します。


 その内容と問題点を正確に伝えるために、次の文献を引用致します。高田敏(たかだ・びん)・初宿正典(しやけ・まさのり)編訳『ドイツ憲法集〔第3版〕』.

文中の、ライヒは「国」、ラントは「州」を意味します。
ヴァイマルは、一般的には「ワイマール」と表記されています。
まず、同書の153-155頁から、訳文および(注1)を紹介します。

ナチスの憲法(1933-1934)の始まり
 37項目に及ぶ原注は、翻訳では脚注として各ページ下に示されているが、煩雑になるので、ここでは全体の文末にまとめた。


I 民族および国家の保護のためのライヒ大統領令(1933年2月28日)(注1)

 ライヒ憲法〔=ヴァイマル憲法〕第48条第2項に基づき、共産主義的な、国家公安を害する暴力行為を防止するため、以下のことを命令する。


§1〔基本権の停止〕
 ライヒ憲法第114条、第115条、第117条、第118条、第123条、第124条、および第153条は、当分の間効力を停止する。人身の自由・言論の自由権(出版の自由を含む)・結社および集会の権利の制限、信書・郵便・電信・電話の秘密に対する干渉、家宅捜索および押収の命令並びに所有権の制限等は、これに関する一定の法律上の制限を超えるときにおいても、認められる。


§2〔ライヒ政府によるラント官庁の権限の行使〕
 ラントにおいて公共の安全および秩序の回復に必要な措置がとられないときは、ライヒ政府は、その限りにおいて、ラント最高官庁の権限を一時的に用いることができる。


§3〔ライヒ政府の命令の遵守義務〕
 ラントおよび市町村(市町村団体)の各官公庁は、§2に基づき発せられるライヒ政府の命令を、その権限の範囲内において遵守しなければならない。


§4〔罰則〕
 ラント最高官庁もしくはその下級官庁が本大統領令の施行のために発する命令またはライヒ政府が§2により発する命令に違反する者、または、かかる違反を教唆もしくは煽動する者は、その行為が他の法律によって本条に定める以上の刑を定められていない限り、1ヵ月以上の禁錮または150ライヒマルク以上15,000ライヒマルク以下の罰金に処す。
 前項に定める違反行為により国民生活に対し公共の危険を惹起する者は、6ヵ月以上の懲役――情状軽微の場合は禁錮――に処し、その違反行為によって人を死にいたらしめる場合は死刑、情状軽微のときは2年以上の懲役に処す。右の刑に付加して財産を没収することもできる。
 公安を害するおそれのある違反行為(第2項)を教唆または煽動する者は、3ヵ月以上の懲役――情状軽微の場合は禁錮――に処す。


§5〔刑法の特則等〕
 刑法第81条(内乱)、第229条(毒物投与)、第307条(放火)、第311条(爆破)、第312条(溢水)、第315条第2項(鉄道妨害)、第324条(公安を害する毒物投与)に該当し、無期懲役を科すべき犯罪に対しては、死刑をもって罰する。
 次の者に対しては、死刑、または、従前本条に定めるところ以上の刑を定められていないものに限り、無期もしくは15年以下の懲役に処す。
 1.ライヒ大統領またはライヒ政府もしくはラント政府の閣僚もしくは管理官の暗殺を企てる者、またはかかる暗殺を主張し、提議し、かかる提議を承認し、もしくはかかる暗殺について他人と通謀する者
 2.刑法第115条第2項(騒擾)または第125条第2項(治安撹乱)に該当する場合に、その行為を武器利用によるかまたは武装者との意識的・意欲的な協力によって行者
 3.被監禁者を政治闘争の人質として利用する意図をもって、人を監禁(刑法第239条)する者。


§6〔本令の施行〕
 本令は公布の日から施行する。

ベルリーンにて、1933年2月28日
ライヒ大統領  フォン・ヒンデンブルク
ライヒ総理大臣 アードルフ・ヒトラー
ライヒ内務大臣 フリック
ライヒ司法大臣 博士 ギュルトナー

民族および国家の危難を除去するための法律」(1933年3月24日)(注2) 
 ライヒ議会は、次の法律を議決した。この法律は、憲法改正立法の要件を充たしたことを確認された後、ライヒ参議院の同意を得てここに公布する。
第1条〔ライヒ政府の法律制定権〕
 ライヒの法律は、ライヒ憲法に定める手続きによるのほか、ライヒ政府によってもこれを議決することができる。ライヒ憲法第85条第2項および第87条に掲げられた法律についてもまた同じ。
第2条〔政府制定法律の憲法に対する優位〕
 ライヒ政府が議決したライヒ法律は、ライヒ議会およびライヒ参議院の制度それ自体を対象としない限り、ライヒ憲法に違反することができる。ライヒ大統領の権利は、これにより影響を受けない。(注3)
第3条〔政府制定法律の公布・施行、等〕
 ライヒ政府が議決したライヒの法律は、ライヒ総理大臣が認証し、ドイツ国官報をもって公布する。他の別段の定めのない限り、このライヒ法律は、公布の翌日より施行される。ライヒ憲法68条から第77条までの規定は、ライヒ政府の議決する法律にはこれを規定しない。
第4条〔条約の締結〕
 ライヒが外国との間に締結する条約であってライヒ立法の対象に関するものは、立法参与機関の同意を要しない。右の条約を実施するため必要な法規は、ライヒ政府がこれを規定する。(注4)
第5条〔本法の施行・有効期間等〕
 本法は公布の日よりこれを施行する。本法は、1937年4月1日をもってその効力を失う。また本法は、現ライヒ政府から他の政府への交替があった場合にも、効力を失うものとする。(注5)
  ベルリーンにて, 1933年3月24日
  ライヒ大統領  フォン・ヒンデンブルク
  ライヒ総理大臣 アードルフ・ヒトラー
  ライヒ内務大臣 フリック
  ライヒ外務大臣 フライヘル・フォン・ノイラート
  ライヒ財務大臣 グラーフ・シュヴェリーン・フォン・クロージク

Ⅲ ラントとライヒとの均制化に関する暫定法律(1933年3月31日)〔抄訳〕(注6)
 ライヒ政府は以下の法律を議決し、ここにこれを公布する。


〔1〕ラント立法の簡素化
 §1〔ラント政府の法律制定権〕

(1)ラント政府は、ラント憲法に定める手続きによるほか、ラントの法律を議決する権限を有する。この権限は、ライヒ憲法第85条第2項および第87条の指示する法律に該当する法律に対しても、及ぶものとする。

(2)ラント政府によって議決された法律の認証および公布に関してはラントの政府が定める注7

§2〔ラント政府の制定した法律のラント憲法への優位〕

(1)行政(市町村行政を含む)の新秩序に関しておよび権限の新規定に関して、ラント政府により議決された法律は、ラント憲法に抵触することができる。

(2)立法機関の制度自体は、これによって変更を蒙ってはならない。注8


§3〔ラントの立法事項に関する条約〕

ラント立法の対象事項に関する条約は、立法参与機関の同意を要しない。この条約の実施のために必要な規定は、ラント政府が制定する。


〔2〕ラントの国民議会注9
§4〔ラント国民議会の解散と新構成〕

(1)ラント国民議会(ラント議会、市議会注10)は、1933年3月5日に選出されたプロイセンのラント議会を除いて、ここにこれを解散する。但し、すでにラント法により解散が行われている場合は、この限りではない。
(2)ラント国民議会は、1933年3月5日のライヒ議会選挙の際に、各ラントの範囲内で、公認候補者名簿に割り当てられた得票数に応じて、新たに構成される。その場合、共産党の公認候補者名簿に割り当てられる議席は、配分されない。このことは、共産党の公認候補者名簿の補充とみなしうる選挙人団の公認候補者名簿に適用される。

§5〔バイエルン、ザクセン、ヴェルテンベルクおよびバーデンにおける議席配分〕〔略〕


§6〔テューリンゲンほか12ラントにおける議会議員数〕〔略〕


§7〔議席配分の方法〕〔略〕


§8〔新たなラント議会の選挙〕

新たなラント議会(市議会)は、1933年3月5日をもって、4年の任期で選挙されたものとみなす。


§9〔本法によるラント議会の新設の実施期限〕

ラント議会(市議会)の新設は、この法律に従い、1933年4月15日までにこれをしなければならない。


§10〔共産党への議席配分の無効〕
 1933年3月5日の選挙結果を根拠とする、ライヒ議会およびプロイセン議会のための共産党の公認候補者名簿への議席の配分は、無効である。補充配分はこれを行わない。

(岩田注:1933年3月5日に行われたヴァイマル共和国最後の国会総選挙での主要政党の獲得議席は、ナチス党288、社会民主党120、共産党81)


§11〔ライヒ議会の解散とラント議会のそれとの連動〕

ライヒ議会が解散されたときは、即座に諸ラントの国民代表議会も解散される。


〔3〕地方自治機関

第117条〔信書の秘密〕
 信書の秘密ならびに郵便、電信および電話の秘密は、これを侵してはならない。これに対する例外は、ライヒ法律によってのみ、許容することができる。


第118条〔意見表明の自由、検閲の禁止〕
 各ドイツ人は、一般的法律の制限内で、言語、文書、印刷、図画またはその他の方法で、自己の意見を自由に表明する権利を有する。いかなる労働関係または雇用関係といえども、この権利を妨げることは許されず、何人も、この権利を行使する者に対して不利益を加えてはならない。
 検閲はこれを行なわないが、映画については法律によってこれと異なる規定を設けることができる。さらに低俗で猥褻な文芸を取り締まるため、ならびに、公開の陳列物および興業に関して青少年を保護するため、法律による措置をとることも許される。


第123条〔集会の自由〕
 すべてドイツ人は、届出または特別の許可なしに、平穏にかつ武器を持たないで集会する権利を有する。
 屋外の集会については、ライヒ法律により、届出を義務づけることができ、公共の安全に対し直接の危険がある場合には、これを禁止することができる。

第124条〔結社の自由〕
 すべてドイツ人は、刑事法律に反しない目的のために、社団または団体を結成する権利を有する。この権利は、予防的措置によって制限することはできない。宗教上の社団または団体についても、これと同一の規定を適用する。

第153条〔所有権、公用収用〕
 所有権は、憲法がこれを保障する。その内容および限界は、諸法律に基づいてこれを明らかにする。
 公用収用は、公共の福祉(Wohl derAllgemeinheit)のために、かつ、法律上の根拠に基づいてのみ、これを行うことができる。公用収用は、ライヒ法律に別段の定めのない限り、正当な(angemessen)補償の下に、これを行う。補償の額について争いのあるときは、ライヒ法律に別段の定めのない限り、通常裁判所で争う途が開かれているものとする。ラント、市町村および公益団体に対してライヒが行なう公用収用は、補償を与えてのみ、これを行なうことができる。
 所有権は、義務を伴う。その行使は、同時に公共の善(GemeineBeste)に役立つものであるべきである。

(岩田注)最高刑死刑。施行までの猶予期間は、全くありません。非常事態宣言による支配、これがナチスの手口の本質です。麻生太郎副総理がいうような「だれも気付かない中に、ワイマール憲法がいつの間にか変えられていた」というような悠長なものではありません。




by kenpou-dayori | 2020-08-19 20:06 | 第二次世界大戦期・リバイバルシリーズ


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