2020年8月28日(金)(憲法千話)
憲法便り#3582:大坂なおみ選手のツイッターへの投稿についての報道の比較;正確に伝えたのはどの報道か?
『東京新聞』8月28日(金)付朝刊第22面の報道(全訳文)
こんにちは。皆さんが知っているように、私はあす準決勝の試合をする予定でした。しかし、私はアスリートである前に一人の黒人女性です。また、黒人女性として、すぐそばには、私のプレーを見ることよりも大切な、目をむけるべきことがあると感じています。
私がプレーしないことで何かが起こるとは思いませんが、白人が多数を占める競技の中で対話を始めることができれば、正しい方向に進む一歩となると思います。
繰り返される警察による黒人の虐殺には吐き気がします。数日おきに、(SNSに被害者の名前の)新しいハッシュタグが表示されることに疲れ果て、何度も何度も同じ話をすることにうんざりしています。いつになればおわるのでしょうか。(時事)
NHKの報道
「私はアスリートである前に1人の黒人女性です。黒人女性として、テニスよりも、もっと大事な問題があります。棄権することで劇的に何かが変わることを期待してはいませんが、白人が主流の競技で議論を始めるきっかけにできれば、正しい方向に進むための第一歩になると思っています。警察官の手で黒人が虐殺され続けているのを見ると本当に胸が痛くなります。何度も何度も同じ話題を扱うことに疲れ切っています。いつになったら終わるのでしょう」
Yahoo!ニュースの報道
23日にウィスコンシン州ケノーシャで起きた警察官による黒人男性への発砲事件に対して複雑な胸中を吐露したもので、大坂は「プレーしないことで何かが起こるとは思っていません」と記しつつ、さらに、黒人男性に対する警察官の銃撃に触れ「見ると胃が締めつけられるような思いです。白人優位のスポーツ社会にあって、もし私が何かを訴えることができるなら、それは正しい方向に向かうワンステップになると考えます」とコメント。さらに「毎日、この話題について語ることに疲れました。いつになったらこんなことが終わるのでしょうか?」と悩める心を言葉にしていた。
スポニチSponichi Anenexの報道
大坂は27日に世界ランキング22位で第14シードのエリス・メルテンス(24=ベルギー)と準決勝で対戦することになっているが、26日に「私はアスリートである前に1人の黒人女性でもあり、テニスをすることよりも大事なことがあります」として試合を棄権する意思を示した。
23日にウィスコンシン州ケノーシャで起きた警察官による黒人男性への発砲事件に対して複雑な胸中を吐露したもので、大坂は「プレーしないことで何かが起こるとは思っていません」と記しつつ、さらに、黒人男性に対する警察官の銃撃に触れ「見ると胃が締めつけられるような思いです。白人優位のスポーツ社会にあって、もし私が何かを訴えることができるなら、それは正しい方向に向かうワンステップになると考えます」とコメント。さらに「毎日、この話題について語ることに疲れました。いつになったらこんなことが終わるのでしょうか?」と悩める心を言葉にしていた。
日刊スポーツ8月28日午前1時53分の報道
大坂は、「WTA(女子テニス協会)とUSTA(米国テニス協会)と協議の結果、金曜日の準決勝をプレーすることに賛成した。彼らは、大会を金曜に延期することで、この抗議に多くの注目を集めてくれた。このサポートにお礼を言いたい」と、コメントを発表した。
大坂は、準々決勝で同20位のコンタベイト(エストニア)に勝った後、米ウィスコンシン州で起きた警官の黒人男性銃撃事件に抗議し、自身のSNSに声明文を発表。準決勝を棄権するとしていた。
その後、男子のツアーを管轄するATP(プロテニス協会)、女子のツアーを統括するWTA、そしてUSTAは共同で声明を発表。「スポーツとしてのテニスは、再び起きた人種差別や社会的な不公平に対して、結束して反対する立場を取っている。この3団体は、27日の大会を一時休止することで、それを表したいと思う。大会は28日から再開される」と、抗議のために、27日に試合を開催しないと明らかにしていた。
2020年8月28日(金)付『しんぶん赤旗』日刊紙第11面の報道
こんにちは。皆さんが知っているように、私はあす準決勝の試合をする予定でした。しかし、私はアスリートである前に一人の黒人女性です。また、黒人女性として、すぐそばには、私のプレーを見ることよりも大切な、目をむけるべきことがあると感じています。
私がプレーしないことで何かが起こるとは思いませんが、白人が多数を占める競技の中で対話を始めることができれば、正しい方向に進む一歩となると思います。
繰り返される警察による黒人の虐殺には吐き気がします。数日おきに、(SNSに被害者の名前の)新しいハッシュタグが表示されることに疲れ果て、何度も何度も同じ話をすることにうんざりしています。いつになればおわるのでしょうか。(時事)
『しんぶん赤旗』は、同じ第11面の「鼓動」欄で、「大坂の決断と信念 黒人差別に声上げる時」の見出しで、重要な点についての解説をしている。これは、和泉民郎記者の主観的な文章ではあり、推測の部分が多いのだが、一連の報道の中で最も優れていると思う。したがって、お文字起こしをして、その全文を紹介することとした。
【見出し】
大坂の決断と信念 黒人差別に声上げる時
【記事】
苦渋の決断だったのだと思います。
テニスの大坂なおみ選手が26日、準決勝まで勝ち進んでいたウエスタン・アンド・サザン・オープンの棄権を表明しました。
米国のウィスコンシン州ケノーシャで起きた警察官による黒人男性銃撃事件(23日)に抗議の意思を示すためです。
大坂選手はツイッターでつづっています。
「私はアスリートである前に一人の黒人女性です。また、黒人女性として、すぐそばには、私のプレーを見ることよりも大切な、目をむけるべきことがあると感じています」
その淡々とした文面に並々ならない思いが透けてみえてきます。
社会的な問題に積極的に発言してきたわけではなかった大坂選手が、なぜ、こうした行動をとったのか。その思いを知る一文があります。
米国の雑誌「Esquire(エスクァイア)」に寄稿(7月1日)した文章です。
そこでは新型コロナウイルスによって「自分の人生にとって、本当に重要なことは何か」を考えたとして、「今こそ自分自身の意見を語るときだと思った」とその心情を吐露しています。
人々と命悼む(中見出し)
5月、米国でジョージ・フロイドさんが警察によって殺害された事件がきっかけでした。
大坂選手は事件の動画を見て「心が張り裂ける思い」だったと記しています。そして、現場のミネソタ州ミネアポリスを訪れ、平和的な抗議活動に参加し、追悼の場所で人々とつながり、失われた命を悼んだと。
「今こそ、構造的人種差別と警察の暴力にたいして声を上げるときなのだと決心したのです」
やむにやまれぬ“心の叫び”でもあります。
過去に受けたさまざまな痛みや偏見が自身を突き動かしていることは間違いありません。同時にテニスというスポーツによって、強い正義感、不正を許さないフェアな心が育まれていることとも不可分なはずです。
人種差別はそれ自体、許されない人権侵害です。同時にスポーツの大原則を踏みにじります。国籍、人種、肌の色、言葉の違いを超え一堂に会し、平等に競い合うのがスポーツで、そこが崩れたら成り立たないからです。
フロイドさんの事件以来、米国のスポーツ界は大きく変化しています。
根幹ゆるがす(中見出し)
リーグや競技団体はこれまで「人種差別は政治問題」であり、「フィールドに持ち込むな」という態度でした。しかし、いまは政治問題以前にスポーツの根幹をゆるがすものとの立場に変わっています。
そのため、フィールドでもリーグが率先して「ブラック・ライブズ・マッター(黒人の命は大切)」を発信しています。今回もNBAや大リーグは、選手が試合を拒否したことを受け入れています。大坂選手は決して一人ではありません。
「『人種主義者でない』ことだけでは、十分ではないのです。『反人種差別主義者』であることが必要であり、重要なことなのです」
そう呼びかける大坂選手。苦渋の決断は、強い信念に基く行動でもあります。
【岩田からのふた言三言:同じ問題を扱っても、メディアの報道の仕方によって、かなり違ってくることを示しておきたかった。安倍政権の御用機関になり下がっている公共放送のNHKは、「つまみ食い的な報道で、大坂選手に対するリスペクトが無い。日刊スポーツが8月28日午前1時53分に報道した「大坂なおみ『プレーに賛成』棄権表明の大会出場へ」は、事情を正確に伝えており、好感が持てる。】