2020年9月29日(火)(憲法千話)
憲法便り#3638:テレビ業界で起きていること;いじめ的な「笑い」 性的な売り方を暴力だと気づく人が増え変化;タレント・エッセイスト小島慶子さんが鋭く語る!
【見出し】
「2020年 焦点・論点」
「シリーズ ジェンダー平等求めて」
「テレビ業界で起きていること」
「いじめ的な『笑い』 性的な売り方 暴力だと気づく人が増え変化」
【記事】
アナウンサー、コメンテーターなどテレビの現場で働いてきた小島慶子さん。業界を鋭いジェンダー視点で見つめてきました。(手島陽子)
―大物芸人が昔ながらの下ネタで女性をイジる番組があります。
ひどいですよね。日本のテレビでは、下ネタや容姿のやゆなど、女性蔑視の笑いがウケると思われてきました。男性も「デブ」とか「ブサイク」「非モテ」と容姿などをからかって笑う。そういう空気に少しずつ変化が起きていると感じています。
これまでは、セクハラ的な演出を注意する人は「テレビをつまらなくする」とたたかれがちでした。
7月に、ある番組で、育児に協力しない夫のことを話す女性出演者に、大物芸人が「ミルクあげてるときに、おしりさわったらうれしかったんだ?」と発言しました。すると、芸人のチョコレートプラネット・松尾駿さんがすぐに「下品ですよ」と指摘してネットで話題になったのです。
3年前は、別のベテラン芸人の「保毛尾田保毛男」が批判されました。これは1980~90年代の人気番組のコントで、スペシャル番組で復活したものでした。“30年前は自分も笑っていたけど、今見たらひどい”と多くの人が気づいた。ネットで批判を浴び、フジテレビ社長が翌日の記者会見で謝罪する事態になりました。
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―変化の背景には何があるのでしょう?
ここ数年でテレビのスタジオの空気は確実に変化しています。5年前はセクハラネタで笑えない人はヤボだという空気がありましたが、2018年の財務省官僚のテレビ局記者へのセクハラ事件以降、ハラスメントに関する報道が増えて法律も変わり、差別で笑うのは暴力だと気づく人が増えています。
もう一つの背景は、若者のテレビ離れです。高年齢層向けの内容は、感覚がアップデート(更新)されていません。また報道や情報バラエティーの「内容が偏っている」「どこも同じ話題ばかり」「権力側の限定した情報しか流れない」と多くの人が思いはじめ、マスメディア不信が高まっています。いじめのような笑いを垂れ流して20世紀のやり方を引きずっている番組は、「まだウケると思っているの?」と冷めた目で見られるのです。
―変化の一方で「女子アナ」という言葉は使われていますね。
背景には週刊誌やスポーツ誌、テレビ局などの男性中心文化があります。テレビの中枢が「女子アナ、エロいよね~」という感覚でいる限り、「女子アナ」という言葉はなくならないかもしらません。私がアナウンサーとして働き始める前の1980年代末から現在に至るまで、女性アナウンサーは性的コンテンツ(内容)として消費されてきました。報道番組で足からなめあげるように撮ったり、年齢を理由にキャスターを降板させられたり。胸の大きさが話題になることも。
長い間、世の中の表舞台は男の仕事で、若い美人が横に立って華を添えると決まっていました。男性にとっての性的魅力だけで女性の値打ちや役割を決めてきたことに、気づく必要があると思います。
美人で若くて聞き分けのいい女性ばかりが画面に出ていると“活躍する女性”のイメージは固定されてしまいます。男性の出演者は、若い人も年輩の人も、イケメンもそうでない人もいます。女性も同様に、幅広い人材がいろいろな役割で活躍できるようになるといいですね。起用する側の性差別的な先入観に加えて、意思決定層に女性が極端に少なく、多様な女性の考えが反映されないことも要因でしょう。
―どうしたら変えられるでしょう?
イギリスのBBCでは、出演する専門家の男女比率を50対50にしようという動きがあります。日本でもそうした取り組みが必要です。
日本の討論番組を見ると、「この国は女性が死滅したのかな?」(笑い)といいたくなるときがあります。そういうときに、視聴者の「どうして女性が出ていないの?」という声がとても大切なんです。テレビ局の人は視聴者の評価をとても気にしていますから。
いい番組は、ほめることも大切です。男女比が偏らず、多様な意見が伝わる番組に「いいね」「面白い」という声を寄せる。小さな励ましが集まって、テレビを変えていくのではないでしょうか。