補訂版『世論と新聞報道が平和憲法を誕生させた!』について
5月3日付けで原稿を完成させた限定出版(B5判96頁)の説明書を紹介します。
岩田行雄
目 次
はじめに…4
『日本国憲法制定に関する談話録音 2』(京都大学名誉教授・法学博士 佐々木惣一談話)…6
【佐々木惣一(ささき・そういち)の略歴】…6
『日本国憲法制定に関する談話録音 2』(京都大学名誉教授・法学博士 佐々木惣一談話
「談 話 要 旨(発言順)」…7
その一 原文(若干の*岩田注あり)…7
その二 CDロム版の音声に基づく訂正文…19
その三 訂正の過程を残した文…37
【内大臣府の憲法研究】…54
『日本国憲法制定に関する談話録音 6』(岩倉規夫・藤崎萬里 談話要旨)…57
『新女性史研究第10号 特集女性の権利確立のために』より【第八節(四十~四十七)】の全文再録…72
『司法省民事局編『日本國憲法の施行に伴う民法の應急的措置に關する法律理由書(民事月報号外)(一九四七年三月)』の表紙の写真…84
『日本国憲法制定に伴う民法改正―女性の権利確立の視点から』(参考文献・資料と若干の解説)…85
『国立国会図書館への寄贈リストの名称と内容』…53
正式名称及び点数=『日本国憲法成立期憲法関係資料(岩田行雄氏旧蔵)一五三点…90
コレクション形成でお世話になった、北は北海道・根室から、南は九州・熊本まで全国各地の古書店49店の一覧リスト…90
おわりに…93
近衛文麿居住当時の「荻外荘(てきがいそう)」の平面図(カラ―コピー)…94
*自決をした部屋の写真も入っている
〔はじめに〕
拙著『世論と新聞報道が平和憲法を誕生させた!―押し付け憲法論への、戦後の61紙等に基づく実証的反論』の訂正の対象とする原文は、三十七頁下段の最後の行から三十八頁上段二行目までの「そして、松本国務相の指示により、一月に佐々木惣一案と共に首相官邸の金庫に幽閉された。その証言については、後述する。」である。
ところが、手違いで「後述」の文章がない。この件は、後述ではなく、この箇所で記述しておくべきであった。
「幽閉」されたことについては、三十頁下段一行目から三十一行目下段四行目に詳細に記述されているので、数行の訂正文で済ますことも出来る。
しかし、調べていて、最も重要な近衛文麿案も首相官邸の大金庫に「幽閉」されていたことについての記述も欠落していることに気が付いた。二重の誤りである。
したがって、この際、野村案、佐々木惣一案と共に、松本烝治の悪意により、長期にわたって「幽閉」されていた事実について述べておくことを考えた。
そして、国立国会図書館が作成した日本国憲法制定に関する二つの談話録音が興味深いので、これらに基づいて補訂版の小冊子にまとめ、紹介することとした。
『日本国憲法制定に関する談話録音 2』(京都大学名誉教授・法学博士 佐々木惣一談話)(原文は手書き)
CDロム版『佐々木惣一談話』は二枚セットで、録音時間は、一枚目が1時間8分38秒、二枚目が38分58秒、合計1時間47分36秒である。
『日本国憲法制定に関する談話録音 6』(岩倉規夫・藤崎萬里 談話要旨)(原文は、手書き)
CDロム版『岩倉・藤崎 談話要旨』も二枚セットで、録音時間は、一枚目が1時間5分18秒、二枚目が1時間6分8秒、合計2時間11分26秒。
二つの談話録音のCDロム版を聞いたところ、つぎの問題点があきらかになった。
『佐々木惣一談話録音』は、内容的にはかなり忠実に再現されている。そして、達筆な人が、時間をかけて丁寧にテープ起こしていることも好感が持てる。
あえて問題点を挙げれば、つぎの二つの問題である。
第一の問題点は、声が小さいところでは、よく聞き取れないので、不正確な部分が見受けられることである。
第二の問題点は、『談話録音 2』が「である」調の文章でまとめられているのに対して、実際の音声を聞くと、「ですます」調、丁寧な表現で話しが進められている。
それ故、かなり印象の違いが生じていることが否めない。その上、紹介されている写真の風貌から、佐々木惣一博士が「偉そうに」、そして「断定的に」話している印象を受ける。
だが、実際には、「京ことば」でのおだやかな話しぶりであり、誤解を招かないように配慮する必要がある。
したがって、『佐々木惣一談話』は、一、手書きの原文そのままの文章、二、CDロム版による音声記録に基づく訂正文、三、訂正経過の文章の三つを収録した。
加筆部分は、(*で始まる)岩田注を付した。しかしながら、小声で話している箇所は、よく聞こえない場合があるため、全文の完全な再現にはなっていない。
余談になるが、佐々木談話は、テープが余っていた。
そのため、テープ起こしがされていない雑談が十分ほど録音されている。
次に、『日本国憲法制定に関する談話録音 6』(岩倉規夫・藤崎萬里 談話要旨)(原文は、手書き)を比較すると、『佐々木惣一談話』とは別の問題がある。
テープ起こしは、前者とは別の人物が担当しており、文字も文章もかなり雑である。「談話要旨」というよりは、個人的なメモと言うべき物である。
手抜きの実例をいくつか上げておきたい
などは、思わせぶりな表現のように見える。だが、音声記録では、「松本さん」と話している。これは明らかに、テープ起こしをした人物の手抜きである。
特定の話題の前後の文章を、かなり大ざっぱにくくっている。
話しの内容が前後してよく判らない箇所が多数に及ぶ。さらに大きな問題もある。
文中にしばしば、談話参加者名の下に………と記されている箇所が出てくる。一般的には、これは、沈黙を意味する。
だが、音声記録を聞いたところ、GHQや政府、研究者に対する批判的な話しが続いている。これは、明らかに、意図的に省略したものと考えることが出来る。
これが、テープ起こしをした人物の独自の判断で行ったものか、国立国会図書館の判断で行ったものなのかは、調査したが判らなかった。談話には、国立国会図書館長の金森徳次郎が参加しており、積極的に発言をしているので、図書館側の判断が働いていたことも考えられる。
さらにCDロム2枚目の始めの3行を、約二時間かけて丁寧に起こしたところ、かなりの行数になったことも、実例として示しておきたい。
(*CDロム二枚目の冒頭)
金森(手書き原文) 憲法改正に関する部分だけ。二院平等、あれ
は不思議? 最近投書をうけて、九州の人だが、どうも
兵隊関係だと思うが………
(*この三行の部分を、音声から可能な限り起こした文章は次の通り全く違っており、資料の信頼性を損ねるものである)
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金森(音声による訂正文) 「僕は疑問の一つで、憲法改正の発案だけは、二院平等になっていますよね、一章の皇族その他とまったく同じになっている、まったく……(聴取不能)、いろいろ二院制の本体の部分と、効力の部分と…(*以下、聴取不能)
最近投書を受けて、どうも兵隊関係だとおもうが、年も六十くらいまで、意見を言っていきたんだけれど、「衆議院の議員は、いわば公務員と近いものである、いわば参考機関であって、民衆代表ではなくて、国家代表である」。一院制度の形からきている条文をそのまま当てはめて(*よく聞き取れない)、僕の二院制度に関する考えは根本的に間違っていると言っている。それは、どのように整理するかは勝手だけれど……。」
問題ある箇所が多数にわたるので、前述の通り、(*訂正内容)として、最低限の補足を施して、読者の便宜をはかることとした。
*文中で、原註は、カッコ内に(註=)と記してある。