『風が吹く時』
2021年1月22日(金)(憲法千話)
憲法便り#4164:核兵器禁止条約発効に因んで、絵本『さむがりやサンタ』の著者、レイモンド・ブリッグズ著『風が吹く時』(原題:When the Wind Blows)を紹介します!
引用するのは、新宿区立下落合図書館所蔵の
2015年7月20日16刷発行(1998年9月30日初版発行)(あすなろ書房刊)である。
『さむがり屋のサンタ』(原題:Father Christmus)と聞いただけで、子どもに読み聞かせをした人、あるいは絵本が好きな子どもならば、著者名は覚えていなくても、ユーモラスな絵本はすぐに思い出すことが出来ると思う。
著者は、イギリスのレイモンド・ブリッグズ。イラストレーター、漫画家、作家として活躍した人物。
だが、今回話題にするのは、彼の別の著作『風が吹く時』(原題:When the Wind Blows)。
1982年に発表された漫画で、アニメ映画化もされたが、わたしは見ていない。
あらすじは、国家の、すなわち、政治家たちの言葉を信じていた老夫婦が、突然始められた核戦争の犠牲になる話だ。
舞台は、イギリスの郊外。
物語は、郊外のバス停で、顔見見知りの運転手に気軽に声をかけるところから始まる。
おだやかな風景である。
主人公は、前年に定年を迎え、妻と共に、定年後のゆったりとした毎日を送っている。
だが、ある日突然、ラジオから臨時ニュース流れる。
「政府の公式発表によれば、敵のミサイルがわが国に向けて発射されました。あと3分少々です」
こんな緊迫した状況の中での、夫婦の会話の組み立てが素晴らしい。
政治的な興味が強い夫の状況認識と、政治的なことに興味をもたず、料理をはじめ日常生活についての思考と行動が先立つ妻との会話のすれ違い。
強烈な閃光と、爆風。
最初は、大したことはなかったと思っていたふたり。
しかし、日が経つにつれて、徐々に自らが置かれている状況を認識し始めるふたり。
シェルターに逃げ込み、備蓄した食糧を食べながら、救出を待つが、放射線を浴び続け、ついに、二人とも亡くなってしまう、なんとも悲しい話だ。
核戦争は、愚かな指導者による人災であることを巧みに描いている。
本書に寄せられた高い評価を、ブックカバーに基づいて紹介しておこう。
「読者の政治的な立場がどうであろうと、本書は最も雄弁に核兵器反対をアピールする」(ディリー・メール紙)
「ブラック・コメディーの傑作!・・・笑えるうえに大胆」(ザ・ガーディアン紙)
「独創的な傑作!」(サンデー・タイムズ紙)
「本書は多くの読者を得るだろう。若い人にも年配の人にも読んでもらいたい」(レーバー・ヘラルド紙)
「大傑作である本書は、買うだけの分別をもった大人の読者を楽しませるだけでなく、ショックを与え、考えさせるだろう」(カソリック・ヘラルド紙)
著者と訳者のプロフィールをブックカバーに基づいて紹介しておこう。
レイモンド・ブリックス
1934年、ロンドン生まれ。ウインブルドン美術学校、スレイド美術学校で美術を学んだ後、イラストレーター、作家の仕事に専念。主な絵本に『さむがりやのサンタ』(福音館書店)、『サンタのなつやすみ』(あすなろ書房)、『ゆきだるま』(評論社)、『くまさん』(小学館)などがある。
さくま ゆみこ
1947年、東京生まれ。
青山学院女子短期大学教授。
主な訳書にブリッグス『サンタのなつやすみ』(あすなろ書房)、『ライオンと歩いた少年』(徳間書店)、『子どもを喰う世界』(晶文社)などがある。