2022年6月24日(金)付(憲法千話)憲法便り#6605:軍事信仰こそ”お花畑”! シンクタンク新外交イニシアティブ代表、弁護士・猿田佐世さんの談話を紹介します!
2022年6月22日(水)付『しんぶん赤旗』日刊紙第3面を引用しました!
さるた・さよ 1977年生まれ。日本と米ニューヨーク州で弁護士。
大学在学中から国際人権団体アムネスティ・インターナショナルで活動。
2013年から「新外交イニシアティブ」事務局長を務め、現在代表。
立教大学講師。
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新外交イニシアティブ(ND)アジア・太平洋地域の外交問題について
調査・研究し政策提言、情報発信を行う。評議員に柳澤協二、山口二郎、
藤沢帰一の各氏ほか。
自民党や維新の会を先頭に軍事費の倍増、敵基地攻撃能力などがさけばれています。それで日本は今より安全になるのでしょうか。際限のない軍拡競争で、さらに緊張が高まりはしないでしょうか。
悪循環を誘引(中見出し)
「敵基地攻撃能力」とは、他国がミサイルを発射しそうになったら、日本がそのミサイル基地を攻撃するというものですが、その能力を持っても、相手国がもつミサイル能力の大半を一度に破壊することは不可能です。こちらが撃った次の瞬間に残った相手のミサイルによる反撃で甚大な被害が日本に生じることになります。
相手の指揮統制機能も狙うというのが自民党の提言です。中国でいえば北京の政府中枢も狙うというわけで、そうなれば向こうも東京を狙うぞという悪循環を誘引します。「防衛力を拡充さえすれば安全になる」との軍事信仰の度が過ぎており、それこそ非現実的な”お花畑”ではないでしょうか。
日本の軍事力は、あるアメリカのシンクタンクによれば世界5位で、既に軍事大国です。抑止力が働くには相手国との間に、互いに一線を越えないという「安心供与」が必要です。そのためには対話や外交で関係を築く必要があり、それこそ憲法9条の力です。
外交を前面に(中見出し)
今、決定的にかけているのが外交の視点です。東南アジアの国々は団結して平和を追求しており、これを日本のモデルにというのが私の持論です。ASEANに学び東アジアに集団的な安全保障体制を築くとの共産党の外交方針に同感です。
ASEAN諸国はみな「米中どちらも選ばせるな」と、アジアで米中が戦争することへの危惧を表明し、双方に自制を求めています。昨年9月に米英豪の軍事枠組みであるAUKUS(オーカス)ができたときも、岸田政権は大歓迎しましたが、インドネシアやマレーシアはこの地域で緊張を高めるなと懸念を示しました。アジアで日本ほど米国一辺倒な国はありません。
共産党は外交を前面に押し出すよう常に求めています。ぜひ、その声を示し続けてほしいと思います。
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【参考資料】内藤功著『憲法九条裁判闘争史』(2012年)の核心部分第2章及び第3章の部分的復刻版の「空幕防衛部長との軍事論争」(59頁から61頁)を引用。
●空幕防衛部長との軍事論争
内藤 もう一つ、わたしが踏み込んで尋問をやったので印象に残るのは、航空自衛隊の幕僚長と北部航空方面隊司令官と航空幕僚監部防衛部長を喚問したことです。日本の防空は軍事的に成り立つかという、軍事論争を行ったのが印象に残っています。日本に攻めてくる飛行機というけれど、どのくらいの機数を想定しているのかというところから入ったんです。
この尋問をなぜしたかというと、航空自衛隊内部のオペレーションズリサーチの内部資料を入手したからです。そのとおりに誘導して聞けば、向こうは絶対に否定できない筈です。航空自衛隊の中でやっているオペレーションですから。
まず、あらゆる場合を想定して航空自衛隊はコンピューターを使ってオペレーションズリサーチをやっているかと聞いたら、やっていますと答えた。来襲する敵の何機とみているか、例えば300機、500機、900機、それ以外と分けるとどうですかと聞いたら、300だと答えたんです。来る方角は日本海の正面だけですか、迂回して南、東、西から多方面から来ますかと聞いたら、当然、異なる数、方向だという。次、高度ですが、高高度、中高度、低空度、3つに分けて幾つかの複数の高度で想定しますかと質問したら、当然、複数、3つの異なる高度でくるというものです。次に連続波状攻撃で来るかと言ったら、当然そうですと、全部予想した答えが出た。
そこで今度はこちら側の配備ですけれど、迎撃戦闘機は何機ですかと聞くと、敵は300来るのに、こちらの北部方面航空隊はF104が40機、F86が20機で計60機、劣勢です。次に撃墜率の見積もりをしたかと言ったら、やりましたと答えた。1回目はまだこちらが損傷がないから敵をたくさん落せる、2度目は1回迎撃をやった味方戦闘機が基地に戻ってきて代わりが行くので撃墜率は落ちるんじゃないですか、3回目はもっと落ちるんじゃないですかと聞いたら、そうだという答え。そうすると第一撃で最大限に落すしかないでしょうねと言ったら、そうだ、とみんな予想通りに答えてくれた。ただ、第1撃でくる300機のうち、50機か80機でも落せば、敵は大打撃だから、2度目からあきらめると言うんですね。
そこで、だけど、向こうが50機落ちるということはこっちも何十機か落ちるということでしょう、だったら同じことじゃないか。しかも、向こうは基地が全然攻撃されていないが、こちらの基地は攻撃されているということで、こっちのほうが損害が大きいんじゃないかときいたら、証人は困ってしまったらしく、そこが難しいところなんですが、結局どちらかがあきらめるかと、そういうことになりますということになって、このあたりから大分腰が引けてきました。
300機のうち50機を落としたら、攻撃側は戦意がおとろえて攻撃をやめるだろうという希望的な前提に航空自衛隊の作戦構想は立っているんですね、とたたみかけたら、相手が攻撃をやめてくれるか延期するかあるいはほかの方法で来るかは、状況によるというのです。攻撃をやめるという状況になれば、理想と思いますと言う。そこで、あなたはかつて航空自衛隊は3日か4日持ちこたえられるかどうかだと新聞記者に話している記事がありますけれども、3日か4日持ちこたえたあとはどうなるんですかと聞いたのです。そうしたら、米軍の動きで継続するか、外交で解決するかということだと思いますと答えた。そこで、米軍に支援を求めるんですかと言ったら、相当米空軍の支援があると考えていますと言う。それでは米軍が来援してくれるということなんですかと聞いたら、第7艦隊がこの方面に出てきてやってくれるということもあると思いますと言いました。第7艦隊がやってきてくれるという約束があるんですかと聞いたら、約束はありませんと答える。期待ですか、見積もりですかと聞くと、期待ですと答える。期待は外れる場合もあるんですねと言ったら、あり得ると思いますと答えた。
要するに、軍事力による防空は成り立たないということなんです。第1撃で打撃を与えれば断念するだろうという希望の上に防空戦力が立てられている。しかも、第7艦隊が必ず相手を攻撃してくれるだろうという希望的観測のみに支えられている。米軍が来るまで持ちこたえられればよいという前提に立っているということが明らかになった。