2022年12月10日(土)(憲法千話)
憲法便り#6807:【追悼】元NHKディレクター、元愛知東邦大学教授(メディア論)、元「放送を語る会」運営委員の戸崎賢二さんを偲んで!
戸崎賢二さんがご健在ならば、現在の政治状況に対して舌鋒鋭く批判する記事を、矢継ぎ早に執筆なさっていることと思います。そして、本当に惜しい方を失ったと思います。その戸崎さんを偲んで、彼の経歴を紹介します。
2021年に戸崎さんからいただいた年賀状で、1月8日に著書『魂に蒔かれた種子は』が刊行されることを知った。「放送を語る会」の方々をはじめ多くの方からお祝いの電話が集中しているものと考え、1月7日にお祝いを伝えるために、ご自宅に電話をした。ところが、電話に出た奥さんが「いま具合が非常に悪く、とても電話に出られる状況ではない」と、おっしゃった。ただならぬ様子であった。前日、戸崎さんは病院に行ったのだが、「問題なし」として、自宅に帰るように言われて、自宅に戻っていた。だが翌日、我慢強い戸崎さんは急逝された。
あまりのショックに、『魂に蒔かれた種子は』をまだ読んでいなかったが、ようやく読む気になれたので、同書を芳林堂高田馬場店に注文し、昨日手にしたところです。
読み終えるまでには時間がかかるので、感想は、後日まとめ、この追悼文に追加すること考えています。
なお、この追悼文を『憲法便り』で公表することをお伝えするために克子夫人に電話をしたところ、戸崎さんの苗字はご自身も「戸崎」と書いていましたが、必要があって戸籍謄本を取り寄せたところ、「戸﨑」となっていることが判ったそうです。したがいまして、そのことをここで伝えておきます。
戸崎賢二(とざき・けんじ)さんの略歴
1939年生まれ。岐阜市出身。名古屋大学法学部政治学科卒。
1962年NHK入社。1999年定年退職までディレクターとして教育・教養番組の制作に従事。
2002年~2009年、愛知東邦大学教授(メディア論)。現在、放送を語る会運営委員。
著書:『NHKが危ない!』(2014年、あけび書房・共著)
論文:「放送の自律と責任を求めて」(『NHK番組改編裁判記録集』解説・日本評論社、2010年。
「NHKへの政治介入疑惑とテレビ制作者の権利」(東邦学誌35巻第2号、2006年)
「テレビ番組における取材対象者の権利について~「『NHK裁判』」最高裁判決を批判する」(東邦学誌37巻第2号、2008年)
「『NHK番組改編事件』と『編集権』」(立命館産業社会論集45巻2号、2009年)ほか多数。
担当番組から(1980年前後から退職まで)
「NHK文化シリーズ・文学への招待」(宮沢賢治・石川啄木・高見順・与謝野晶子)
長塚節・小川未明などのシリーズ担当)、「NHK文化シリーズ・美をさぐる」(絵本・野外彫刻・西洋館ほか)。
NHK教養セミナー証言現代史「丸山秀子」「都留重人」、NHK教養セミナー終戦記念日特集「大岡昇平・時代への発言」、ETV8「授業巡礼~哲学者林竹二が残したもの」1990年代、NHK市民大学「田中正造~民衆から見た近代史」ほか、中学・高校向け歴史・地理教育番組・教育情報番組「教育トゥデイ」など担当。
長期教育ドキュメンタリー「若き教師たちへ」「教師誕生」「土に学びこころを耕す~今西祐行農業小学校の記」「浜之郷小学校の一年など」
戸崎さんがディレクターとして勤務していて頃には、上記の略歴で示したように、NHKには長い時間をかけて文化・教養番組の制作を許容する姿勢があったし、これを支える方々が多数存在した。
元NHKディレクターで、「放送を語る会」事務局長の小滝一志さんによる戸崎さんへの追悼文(2021年2月17日午後4時45分記)
『しんぶん赤旗』日曜版の連載「メディアウオッチ」執筆者の一人、元NHKディレクター、元愛知東邦大学教授、の戸崎賢二さんが1月11日に亡くなった。81歳だった。
NHK時代は、教育文化番組のディレクターとして、記憶に残る番組をいくつも制作した。定年退職後は愛知東邦大学教授としてメディア論を担当。学生に指導にもあたった。並行して市民団体「放送を語る会」の中心メンバーとして、NHKをはじめとするテレビメディアの検証・論評に重要な役割を果たし、新聞・雑誌への寄稿にも精力的だった。
「放送を語る会」の活動の柱の一つに「テレビ報道のモニター」がある。2003年のイラク戦争報道に始まり、20年の新型コロナ報道まで22回実施。その都度報告書を公表しているが、その大半のまとめ作業を戸崎さんが担当した。一言一句を疎かにしない戸崎さんと各番組モニター担当者との間で、推敲をめぐり毎回交わされたメール上での丁々発止の厳しいやりとりは、「放送を語る会」メンバーたちの語り草になっている。
「放送を語る会」が発表する見解や申し入れ文書の作成も戸崎さんに負うところが大きかった。戸崎さんは、文字通り「放送を語る会」の理論的支柱、羅針盤だった。
亡くなる直前の1月8日に著書『魂に蒔かれた種子は』があけび書房から出版された。死を予感されたのか昨年(2020年)11月頃から急に出版社に編集作業を急がせたという。普段のテレビメディアへの舌鋒鋭い論評と違い、ディレクターとしての試行錯誤、若い学生に講義を通じて感じたこと、家族のこと、幼少期の思い出などの人間味溢れるエッセイで、私たちに向けた戸崎さんの遺言とも読める一冊だ。
戸崎さんには一つやり残したことがある。『放送を語る会30年史』の編纂だ。昨年、創立30年を機にメンバーに全体構想を提案、年表作成にも取り掛かっていた。さぞや心残りだろう。『30年史』刊行は残された私たちへの宿題である。
(小滝一志・放送を語る会事務局長、2021年1月8日号)