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岩田行雄の憲法便り・日刊憲法新聞

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2022年 12月 31日

憲法便り#6846:ジャーナリスト伊藤詩織さん初エッセー『裸で泳ぐ』;「おかえり、私の日常」、「向き合えなかった痛みを赤裸々に」、「これが私。そのままでいいんだよ」

2022年12月31日(土)(憲法千話)

憲法便り#6846:ジャーナリスト伊藤詩織さん初エッセー『裸で泳ぐ』;「おかえり、私の日常」、「向き合えなかった痛みを赤裸々に」、「これが私。そのままでいいんだよ」、「ネット上中傷を断罪 多くの声が社会に“種”まいた」、「社会が動きだす」、「血の通った判決」、「背中押した元『慰安婦の言葉』」を紹介します!

2022年12月11日付『しんぶん赤旗』日曜版第3面を引用しました。

憲法便り#6846:ジャーナリスト伊藤詩織さん初エッセー『裸で泳ぐ』;「おかえり、私の日常」、「向き合えなかった痛みを赤裸々に」、「これが私。そのままでいいんだよ」_c0295254_10345044.jpg

【伊藤詩織さんの略歴】

いとう・しおり=1089年生まれ。映像ジャーナリスト。

2018年ドキュメンタリー「Lonely Death」 でニューヨークフェステイバル銀賞受賞。著書『Black Box』は世界各国で翻訳されている。20年、米TIME誌の「世界で最も影響力のある100人」に選出

 ジャーナリストの伊藤詩織さんが初のエッセー『裸で泳ぐ』を執筆しました。自身の性被害を実名で告発し、日本の#MeTooを大きく励ました筆者が、「今まで向き合えなかった痛みや日常の気持ちを書いてみたい」とつづった本作。思いを聞きました。

(湯浅葉子記者)

 日記のように赤裸々に記した、この1年の記録です。「その時々に一番心に残ったことを、とてもパーソナル(個人的)な感覚で書きました。だからいざ本になるという時、『大丈夫かな…』って(笑)」

 家族との大げんかやパートナーとの別れ、多動で集中力に欠ける傾向があること、からい食べ物で沈む心を奮いたたせること…。無防備なまでに素顔をつづっています。

 「報道だけで私を知る方にとって、私は『強い』『物申す人』みたいなイメージなんですよね。『あなたみたいに声を上げられない』と言われた時、『鼻水垂らしながらやってるんだよ~』と思って。自分のだめなところや、私たちみんな同じ人間だよ、ということをシェアしたかった」

 

 社会が動きだす(中見出し)

 伊藤さんは性的暴行を受けたとして2017年、元TBS記者を提訴。今年7月、最高裁決定で元記者への賠償命令が確定しました。告発をきっかけに性暴力根絶への声が広がり、フラワーデモや刑法改正の議論を後押ししています。

 「もう生きていけないかもと何度も思いました。私の個としての人生に望みはなくしたけど、社会には少しでも健全であってほしい。そう思って崖から飛び降りる覚悟で声を上げた結果、思ったより社会が動きだした。でも、私個人の人生にどう戻ればいいのか、迷子になってしまって…」

 当時はジャーナリストとして客観的に被害を語っていました。「痛みや傷つきに向き合える状態じゃなかった」

 エッセーでは閉じ込めてきた感情をくみあげてゆきます。米国でハイキング中に突然、性被害への怒りが噴出したこともありました。

「今なら大丈夫だろうと飛び出したのだと思う。それまで、たった一度の性暴力のトラウマ(心的外傷)がなぜこんなに続くのかわかりませんでした。怒りと向き合う中で、性被害の前から社会の権力構造の中で感じてきた、さげすまされる経験などが私の中に積み重なっていたことに気づかされた。あの被害経験は社会のいびつさを凝縮しtもので、だからこんなにも苦しいんだと理解できました」

被害後に起きたことも傷つきを助長しました。元TBS記者が安倍晋三元首相と近いことから逮捕状が取り消された、という疑惑が浮上したのです。

「公権力が疑惑を解明せずに済んでいるケースは他にもたくさんある。私たちがこれを許していたら、社会のシステムを信頼できなくなるし、同じことが繰り返されてしまう」

20年にはネット上の誹謗(ひぼう)中傷に対する損害賠償を3件の裁判を起しました。

血の通った判決(中見出し)

そのうちの1件、ツイッターの中傷投稿に「いいね」を押した杉田水脈・自民党衆院議員を訴えた控訴審判決(10月)では、一審(3月)から逆転勝訴。「こんなに早く司法の場でアップデートされると思っていなかった」

判決は、約11万人のフォロアーを持つ国会議員である杉田氏の影響力に触れ、「許される限度を超えた侮辱行為」と判断しました。

「血の通った判決文でした。これまでオンライン上の中傷に対し、『見なければいい』とされがちでした。でも多くの人が声を上げる中で、裁判官が想像力を持って取り組んでくれた。社会に想像の”種”が着実に増えてきたと感じます」

一連の裁判の過程では、デマを信じたパートナーとのつらい別れもありました。「衝撃でした。いくら法廷で勝っても誹謗中傷という行為の影響は計り知れない。たとえオンラインでもその人の目を見て言えるかを考えて発信してほしい。

背中押した元「慰安婦」の言葉(中見出し)

司法に訴えようと背を押したものの一つに、元日本軍の「慰安婦」の宋神道(ソン・シンド)さんの言葉があります。

(おれの心は負けていない)。日本政府に賠償を求め10年にわたり裁判をたたかった結果、敗訴した宋さんの言葉です。「どんな結果になっても、自分のケースをリトマス紙にして司法の現状を問いただそうと勇気をもらった」

元「慰安婦」のハルモニ(おばあさん)に会いに韓国を訪れたこともあります。その一人、金福童(キム・ボクトン)さんに「いつになったらいつになったら涙は流れなくなるんだろう」と尋ねると、返ってきたのは「死ななきゃ忘れられないよ」という言葉でした。

「それでも自分の正義を自分で守るために話し続ける。それが彼女たちの生きざまなんですね。二度と繰り返させない、と歩みを止めないハルモニたちは、私にとってのロールモデル(お手本となる人)です」

被害から7年。国内外で精力的にドキュメンタリー映像作品を制作しています。ようやく、「生き延びる」から「生きる」へ変ったといいます。

「今もすごく落ち込む日があります。トラウマの影響をすべて理解しているわけでもない。でも、ジャーナリストとしての私と、被害者の私がつながり、日常に戻れるようになった。自分に『おかえり』と言ってあげられる。『これが私。そのままでいいんだよ』って」



by kenpou-dayori | 2022-12-31 10:30 | 伊藤詩織さんの闘い・#Me Too運動


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