2023年3月19日(日)(憲法千話)
憲法便り#6909:黒澤明監督の名作映画「生きる」のリメーク脚本担当作家カズオ・イシグロさんの談話を紹介します!3月31日公開のイギリス映画「生きる LIVING」の脚本を担当。黒澤明監督の名作「生きる」(1952年)のリメークです。
2023年3月19日(日)付『しんぶん赤旗』日曜版第32面を引用しました。
名作映画「生きる」のリメーク脚本担当作家カズオ・イシグロさん
3月31日公開のイギリス映画「生きる LIVING」の脚本を担当。黒澤明監督の名作「生きる」(1952年)のリメークです。
「黒澤明の『生きる』は大好きな映画です。1950年代の日本を、同じ時期のイギリスに置き換えても面白いと思っていました。ある晩、この映画のプロデューサーのスティーヴンらと4人でディナーをしたとき、あとから俳優のビル・ナイが来ました。その時、ひらめいたんです。ビルを主演にすれば完璧な映画ができると。それが始まりです。」
役所勤めの主人公が、がんで余命半年と知り、苦悩しながら生きる意味を見いだす物語。リメーク版は、ロンドンに通う朝の通勤風景から始まります。
「10代の時、ロンドンの学校に列車で通いました。プラットホームは山高帽にブリーフケースと新聞を持った人々でいっぱい。みんな制服のようでした。卒業したら私も同じ制服を着て通勤するのかと思うと、暗い気分になりました。
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海洋学者の父の仕事の都合で、5歳で渡英しました。ノーベル文学賞受賞の際に「作家としては、日本文学より50年代の日本映画に大きな影響をうけた」と語っていました。とくに「生きる」は子どものころテレビで見て強い感銘を受けたと言います。
「たとえ小さな人生でも、自分次第で、それを素晴らしい人生に代えることができると感じました。うつろで浅い人生になるか、実りある人生になるかは、自分の選択だというのが、『生きる』から受け取ったメッセージです。その価値観は今も変わっていません。
脚本執筆にあたり「オリジナルより希望のある物語にしたかった」と言います。
「『生きる』製作時、日本の戦後復興はまだまだで黒澤は悲観的だったと思います。イギリスも同じです。その後、充実した福祉政策を基盤に、社会生活の向上に成功した。そういう未来の担い手として、若い登場人物2人をふくらませ、恋物語もいれました。主人公の精神を2人が引き継いでいくのです」
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黒澤版で主人公が歌う「ゴンドラの歌」を、スコットランド民謡「ナナカマドの木」に替えました。そこには隠れた意味があります。
妻はスコットランド出身で、この歌が好きでいつも歌っています。この歌で、主人公の亡くなった妻への思いを示したかったのです。主人公は妻の死で、自分の一部も失っていました。最後にそれを取り戻し、人生を100%生き抜くことができた。そういう思いも込めています」
(北村隆志記者)