2023年3月21日(火)(憲法千話)
憲法便り6912:欧州の不法移民の苦難 “姉弟”の友情通じ痛切に描く!最新作「トリとロキタ」の監督ジャン=ピエール・ダルデンヌさん、リュック・ダルデンヌさん兄弟の談話を紹介します!
2023年3月20日(月)付『しんぶん赤旗』日刊紙第12面を引用しました。
↓左が兄(1951年)、右が弟(1975年)二人ともベルギー生まれ
半世紀にわたり、弱者の目線で社会を描く映画を兄弟で撮り続けてきたベルギーのジャン=ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ両監督。最新作「トリとロキタ」では、ヨーロッパで暮らす不法移民の苦悩と、その中で紡がれる友情を描きました。公開前に2人に本作への思いを聞きました。(青柳克郎)
舞台はベルギー。貧しい祖国では生きてゆけず、密航業者の手で単身、アフリカから密入国した少女ロキタ(ジョエリー・ムブンドゥ)は、道中で知り合った年下の少年トリ(パブロ・シルズ)と“姉弟”として暮らしています。
ロキタの夢は、在留権を得てヘルパーになること。祖国では家族が送金を待っています。眠りにつくトリにロキタが故郷の歌を歌ったり、元気をなくしがちなロキタにトリが似顔絵を描いたり…かけがいのない存在として支え合う二人。しかし社会的な立場は不安定で、生活苦からロキタは闇の仕事に手を出し、それはエスカレートして…。
残酷な運命知り激しい憤り持つ
兄のジャン=ピエールさんが語ります。「本作は、いまのヨーロッパの現実に基づくものです。未成年で同伴者もいない亡命者たちが残酷な運命をたどっていると報道で知り、激しい憤りを覚えました。事実の告発とともに、苦しみの中で彼らを支える強い友情の物語を考えました」
よりましな生活をするためには、より非人間的な仕事をするしかないという底辺の現実。トリと引き離された”仕事場に送られたロキタの心は追い詰められていきます。そんなロキタを救おうと、危険を顧みず会いに行くトリ。お互いを助けようとする二人の絆は、やがて思わぬ展開を招きます。静かなタッチで描かれたサスペンスで、見る者の胸に迫ります。
弟のリュックさんが言います。「二人は、ただ搾取されるだけの人間ではありません。相手のためなら自己犠牲もいとわず、抑圧に抵抗しようとします。その背景にあるのは確たる友情で、それは最も美しい人間性の発露です」
1970年代から、都市計画や移民問題など多くのドキュメンタリー映画を撮ってきたデルダンヌ。80年代以降は社会派の劇映画を手掛け、母子家庭の少女を通じて貧困や失業問題を問いかけた「ロゼッタ」は1999年のカンヌ国際映画祭でパルム・ドール(最高賞)を獲得しました。
これまでに若者の犯罪や育児放棄、労働者の連帯などを題材とした劇映画12本を発表。カンヌでの2度のパルム・ドールを含め、世界で100以上のとり、本作はカンヌ国際映画祭75周年記念大賞を受賞しています。
「ロゼッタ」から24年、世界はどう変化したと見ているのでしょうか。ジャン=ピエールさんが真剣な表情を見せます。
「人間の関係が、より難しくなっていると感じます。たとえば圧倒的な信仰で異なる価値観の異なる相手を殺害するなど、排他主義や自己中心主義が強まっているのではないでしょうか」
虐げられた人の人生に心寄せて
社会に鋭い目を向けつつ、虐げられた者を温かく見つめるダルデンヌ兄弟。映画を撮り続ける姿に、少しでも世界を良くしたいという思いを感じます。リュックさんが力を込めます。
「本作の二人は、みんなと同じように働き、学校に行きたいと願いながら、それが難しい状況に置かれています。同じような境遇の人を目にしたら、ぜひ、その人生に思いをはせてほしい。そして、そんな不正義があってよいのかと考えてもらえたらうれしいです。映画には、人の心を動かす力があると信じています