2023年4月10日(月)(憲法千話)
憲法便り#6939:凡人会編加藤周一著『ひとりでいいんです』の第一章「こんどは勝ちたいですね――戦争と憲法を語る」より、「3 私たちの憲法のゆくえ」の部分を紹介します!
3 私たちの憲法のゆくえ
知識人とは
さて、これから、今日の問題、憲法九条の問題についてお話ししたいと思います。
私は、今、大江健三郎・小田実・鶴見俊介・井上ひさし・三木睦子・澤地久枝・梅原猛・奥平康弘といったかたがたと九人で、「憲法九条の会」というのをやっています。つまり、憲法九条を守る会です。この憲法九条は、いまお話しした、知識人と大衆、あるいは、個人主義と密接に関係があります。戦争という現象がなぜ起こるのでしょうか。知識人と大衆との関係からいえば、反戦の知識人が大衆から孤立することが、戦争への道を開くひとつの条件ということができるでしょう。戦後の民主主義と平和運動は知識人と国民がいっしょになってつくってきたものです。
私がここでいう知識人とは、いわゆる「インテリ」、つまり単に教養がある、知識があるという条件を満たすだけではなくて、サルトルのいう、国家や体制がまちがっているときに「異議申し立て」をする人という意味でつかっています。真の知識人であれば、たとえ孤立しようと、われひとりになろうと、戦争に反対するべきだと思います。その意味で、知識人は本来的に、個人主義者であるべきです。
知識人の孤立は、議会が大政翼賛会に堕し、労働組合が解散し、言論・思想弾圧がピークに達した一九四〇年以降、決定的になる。このとき、あらゆる反戦思想は公然と主張することはできませんから、戦争に反対ならば、「沈黙」せざるをえない。それはあらゆる人間的な営みが停止した「冬の時代」です。そうならないためには、そういう状況が訪れるはるか手前のところで、反戦の知識人と大衆が紐帯(ちゅうたい)を保ち、その状況が来ないように抵抗することが必要でしょう。(以下、略)